139話 対抗策
ロディオータも俺も騎士の報告にえっと驚いてしまった。
「これはおかしい。」
ロディオータはぽつり呟いた。
「巨人に飛べる魔物と、明らかに前回のことをふまえた対策をしている。しかも横に広がるとか100メートル以上とかもそうだろう。」
つまり、今回も空間魔法と風魔法を使って帰す方法をとるだろうと思って魔物を巨人や飛べる魔物を入れたり広がる対策を取ったってこと?
「大群」を人間界に送ってきているのは魔人と言われているから、その魔人が対策を練ったんだろうか。
ん?ということは前回の「大群」と今回の「大群」は同じ魔人が送ってきたってことかい?
まあ、それは一旦置いといて(見えない箱を横に移動させる動作をしながら)。
問題は今回の作戦だ。
前回の時に俺は「どこまででも出来るけどとりあえず100メートル」と言ったこともあって100メートルより大きく出来るよとロディオータに提案したが、ロディオータは引きつった顔をして止められた。
「100メートルでも異常だけど、これ以上は町の結界に当たってしまうからできない。それに空間が大きくなるとそれだけサイクロンの範囲も広がって魔法を使う者たちの魔力がその分多く消費されてしまうしそうなれば威力も弱まる可能性がある。騎士たちハンターたちが渦に巻き込まれる危険性も高まってくるしね。」
なるほど、そういやあ町の周りに結界なんてあったね。
出入りする時に必ず変な感覚がするけど、慣れて忘れてたや!
あ、待てよ。ということは結界に当たらないように前の方に空間を出してもサイクロンの問題で吸い込みは悪いからダメってことか。
ええっ、どうすんのこの状況!?
「じゃ、じゃあどうするんすか?」
ロディオータは考える仕草をした。
「・・・作戦はこのまま100メートルでやろう。横に広がった魔物はサイクロンに巻き込める位置まで誘導するか討伐する方向でいけないかと思う。今のところ空間魔法の作戦がこちらの被害が最小限ですむ方法だからね。」
側で聞いていた副団長は慌てて騎士たちに作戦続行の指示をしに行って、俺もギルマスに話しに行った。
ギルマスはハンターたちの位置などを指示していたので側にいなかったんだよ。
位置は前回と同じで空間の両側から放射状に並んで、前の方に防御力に自信がある騎士たちハンターたちで固めて後方にはサイクロンをするための魔法が使える者たちがいるという構図だ。
魔物の情報はすでに広まっていてハンターたちは不安そうにヒソヒソ話している。
一応ほとんどがレベルABばかりで連携すれば倒せない訳ではないが、サイクロンに吸い込められるかどうかわからない魔物がいて戸惑っている様子。
それを励まして払拭させるためにギルマスは話をしているようだ。
大変だね、ギルマスって。
ロディオータに呼ばれた時にグランは俺と別れてハンターたちの集団の中にいて、防御力の高いハンターの後ろに控えている位置にいる。
もしサイクロンの範囲からそれた魔物が襲ってきたら防御力の高いハンターが攻撃を防いで素早く攻撃できるように、ということらしい。
頑張れ!という意味も込めてニカッと笑ったら苦い顔をされた。なぜだ。
それから2時間ほど経って、俺は空間魔法を使うフリをして空間の精霊に100メートルの空間を出してもらった。
渦の向こうは相変わらず魔界のイメージそのままな景色で真っ赤な空に黒い岩山で人面の巨大ムカデがまた歩いていた。
ムカデくん、君は暇なの?
あ、よく見たら湖が見えるぞ。
湖の水は紫でなんか泡立ってるけど。
あ、恐竜みたいなのが湖に落ちた。
・・・溶けた。
「・・・うん、俺はなにも見ていない見ていない。」
遠い目をしてそっと空間から離れた俺は前回と同じで離れたところの司令塔ロディオータの側にいることになったのでそこに移動した。
町に向けて迫ってくる「大群」に向かい合う位置にいるので俺とロディオータは結界内の町の塀のすぐ側にいることになる。
「そろそろ来る頃だ!皆、気を抜かないように!」
ロディオータがそう全員に声をかけ、魔法が使える者たちはロディオータの声かけを合図にサイクロンを唱えた。
そして俺の目の前には前回とまったく同じ空間の渦と風の竜巻ができていた。
「来たぞ!!」
誰が叫んだかわからないが、草原の向こうからなにかが見えてきた。
そしてズシンズシンとゆっくりとした地響きがしてきて、「ピイイィィッ!」という甲高い不快な鳥の鳴き声のようなものが聞こえてきた。
「ピイイイィィィィッ!!」
草原の向こうのなにかはだんだんとはっきり見えてきた。
鳴いていたのはハーピーで、複数で大空を旋回しながらこちらを睨んでいる。
ハーピーのお顔は漫画やゲームによって美少女だったり醜かったりするけど睨んでくるお顔はしわくちゃで歯をむき出しにした醜い顔だった。残念!
そして「大群」の中で一際大きいのが見えてきた。
ギョロっとした大きな目が1つ顔の真ん中にあって角を生やした緑色の肌の腰布を巻いた鬼の姿ででかいこん棒を持ってあるが、アレがキュクロプスだろう。
体はとにかくでかくて4~5メートルあってキュクロプスが歩く度にズシンズシンと地響きがする。
そのキュクロプスが5体見える次に、ひょろっとしたのも見えてきた。
全身青銅でできた巨大な人形の姿で、キュクロプスほどおおきくはないが2~3メートルあって細長い手足をぎこちなくカクカク動かして歩いて来ている。
目と口の部分は穴が空いてるだけでそこから赤い煙を出してて関節部分からも赤い煙が漏れ出ている。
それが7体もいるとか呪いの人形に見えてなんか怖いぞ。
そうこうしてたらスケルトンの集団も見えてきて、こちらは想像通りで骸骨が盾と剣を持ってて骨がぶつかり合うカシャカシャという音を言わせながらこちらに向かってくる。
それ以外の魔物はいずれも前回と同じでゴブリン等のレベルが低い魔物ばかりだ。
うーん、キュクロプスでかいけどサイクロンで吸い込めるか?大丈夫か?
タロスはひょろ長だからすぐに吸い込めそうに見えるけど。
「「ピイイィィッ!!」」
すると旋回していた複数のハーピーが一斉に鳴いてその鳴き声が衝撃波となって辺りに響いた。
「うわっ!?」
「なんだ!?」
騎士たちハンターたちは思わぬ衝撃に頭を抱えたり耳を塞いだりして戸惑っている。
続けてハーピーたちはこちらに向かって羽を羽ばたかせてきた。
羽ばたきに合わせて風が発生して心なしかサイクロンの勢いが少し弱まってきた。
「風が!?」
「くそっ!?」
並んだ後方にいるサイクロンを唱えている者たちが悔しそうに言うと魔力を注いだ。
それによってサイクロンの勢いは元に戻ったが、あまり魔力をガンガン使うのはよくない。
早く魔力切れになってしまうからだ。
これはヤバいかも、と思っていると・・・。
ヒュウウゥゥゥゥ・・・ズズンッ!
なにかが飛んでくるような音がして、サイクロンを唱えている者たちの近くになにかが落ちてきた。
「うわあぁっ!?岩だ!?」
「岩が降ってきた!?」
落ちてきたのは1メートルほどの岩で、勢いよく落ちてきたようで魔法を唱えていた騎士のすぐ側の地面にめり込んでいた。
ヒュウウゥゥゥゥ・・・ヒュウウゥゥゥゥ・・・
岩は「大群」の方から次々に飛んできた。
見るとタロスがピッチングマシーンのように腕を振り回して岩を投げていた。
まだサイクロンに届いてない距離から投げてきていて、そして気がついたが「大群」はそれまでこっちに向かって来ていたのにサイクロンが届かない距離で止まっている。
ズズンッ!と次々と岩が降ってきて騎士たちハンターたちは慌てて魔法で飛んでくる岩を砕いたりギリギリで避けたりしている。
「魔物の大群」の対抗策、すげえな!




