126話 唐揚げ
ただの料理回です。
「イオリ、ちょっといいかしら?」
今日はハンターはお休みして子供たちの算数を見ていた。
こっちの世界では読み書き・計算ができる人が半々くらいだそうで、学者さんでもない限りは足算・引算・掛算・割算くらいしかできないらしい。
そして学校がないこっちの世界では親が教えるものだそうで、孤児院の場合は年長者が教えるか世話をしている人が教えるんだそうだ。
昔の孤児院は孤児が多かったために一人一人に教える余裕がなかったそうで、故に「孤児は読み書き・計算もできない」という誤った認識もあったらしい。
最近はそんなことを表立って言ってくるアホはいないそうだが嫌味を言われたりもいまだにあるそうで、スラムのある第4地区の差別ほどではないが頭が悪いイメージをもたれることもあるそうだ。
それを払拭したいためにローエは自ら独学で読み書きを習得して子供の頃から簡単な仕事をして自然と計算を覚えたらしい。
そしてローエはこの孤児院で子供たちのお世話をしながらも勉強を教えているわけだ。
まあ、読み書き・計算は知っといた方が生活に困らないからいいと思うから俺もたまにハンターが休みの時は算数を見ている。
読み書きに関してはノータッチ。
だって俺の目にはなにかの補正?でこっちの世界の文字は普通に日本語に見える。
そして俺が普通に日本語で文字を書いたら他の人にはこっちの世界の文字に見える。
それで「ここのつづりが違う」とか言われてもこちらの世界の文字がわからんのだからどこのつづりかわからんのだ。
それで頭がこんがらがって俺は白旗をあげたというわけ。
算数なら数字は同じだから頭がこんがらがることもないし、元々算数や数学は得意だったからこっちの方が教えられるんだよねー。
おっといけない、ローエに話しかけられたんだった。
「ん?どしたのローエ。」
ローエはキッチンから出てくると珍しく困ったような顔をしていた。
さっき昼飯を皆で食べて算数の勉強が始まってそんなに経ってない頃だ。
「実は、今晩の夕食なんだけど。」
ローエ、さっき昼飯終わったとこなのにもう夕食のこと考えてんの?
「夕食?なにかリンクの中の食材でいるもんあんの?」
ローエは首を振った。
「それが今晩の夕食、なににしようか思い付かないの。」
おや珍しい。
ローエはしっかりしてるから食材を見て栄養バランス・ボリュームとかをちゃんと考えてすぐにメニューを思い付くのがいつもなのに。
「メインがないのよ。サラダとパンとフルーツはいつものこととして、トマトスープを作る予定ではあるけど、メインのお肉料理が思い付かなくって。なんかただお肉を焼いたり煮たりするのもいつものことで変わったのないかなって。」
要は飽きてきてんのかな?
そんで前には和食を振る舞った俺に相談してきたってーわけか。
そういやあしばらく料理してないなー。
前に他の和食教えるって話してその後なにも作ってないや。
「ふむ・・・、だったらローエ、俺今日のメイン作ろうか?」
ローエはぱっと明るくなった。
「いいの!?またあのワショク食べられるのね!?」
算数をしていたはずの子供たちもガバッっとこっちをキラキラした目で見てきた。
「イオリ作ってくれるの!?食べたい!」
「いっぱいいっぱい作って!」
「りょーかい。今回は味噌汁とご飯は作らないけどね。唐揚げって言って俺の国で大人気の肉料理なんどけど、それを作ってみようかな。」
「大人気ってことはすごく美味しいってことだよね!?イオリの料理楽しみ~!」
ロックは早々にバンザイをしている。気が早くないかい?
俺は子供たちに聞いてみた。
「鶏肉は好き?」
「「「鶏!大好きー!」」」
よし、大好きだったら作ってしんぜよーではないか!
前に夜中にどうしても食べたくなってネット見ながら作ったことあるから大丈夫だろう。
『イオリ、僕らもできることがあったら言ってね!手伝うよ!』
『ふふふ、なにを作るか楽しみね。』
今日の俺の担当?の茸の精霊と音の精霊も興味があるみたいでそう言ってきた。
「あ、だったら茸の精霊、後で協力してくれる?」
『いいよ!』
「というわけで、善は急げということでローエ、キッチン借りていい?」
「え!?今から!?」
「肉を漬け込んどきたいんだ。」
前に作った時はから揚げ粉でやったけど、確かテレビで液を漬け込んどくのがいいって見たな。
「わかったわ。じゃあ私はイオリの代わりに子供たちの勉強見ておくわね。」
俺はキッチンに行くとリンクから魔物肉を出した。
この魔物肉はザウトレーヴとのお茶会で俺が倒したロック鳥の肉だ。
あの後お土産としてローエに渡そうとしたのだが、「気持ちだけで十分よ。お肉に困ったらもらうことにするわ。」と言われてやんわり断られてしまった。
城の寄付金があるし、今はグランと俺がハンターで稼いで寄付してる金でも十分皆で生活して蓄えもあるほどなのに肉に困ることが来るわけない。
気を遣ってくれたのなら、こういう時に使わないとね。
ザウトレーヴには腿肉を1枚あげただけなので腿肉もう1枚と胸肉が丸々残っているので1枚使うことに。
それもロック鳥というでかい魔物だから腿肉も胸肉も鶏の腿肉胸肉の5倍くらいある。
この2枚だけで6人分くらい余裕でできそうだ。
手羽とか骨もあるけど、また別の機会に使おうっと。
魔剣ナイフで適当な大きさに切る。
「ローエ、ちょっと大きめの桶?か瓶?みたいなのある?」
「瓶ならあるわよ。」
両手で持ち上げれるくらいの大きさの瓶をどこからか持ってきてくれた。
なにかを浸けたりする時に使う用だそうで、見たところきれいだから使うことにしよう。
そこに醤油をドボドボ入れてー。
おっと半分以上使うことになってしまったぞ。
醤油もっと買っといたらよかったなあ。
実はこの間やっとウルーノさんの商店に行ったのだが醤油はなかった。
ウルーノさんは俺の初めての護衛依頼でハインツの町に一緒に行った商人だ。
あの依頼の後にウルーノさん自身が和食に興味が芽生えたようで、貿易商に多めに発注をかけているそうだ。
仕入れたら絶対買うから知らせてくれと頼んであるのでそのうち孤児院に知らせが来るはずだ。
リンクに入ってる食材はリンクを使う代わりに自由に使っていいとローエに言われていたから、その食材のなかから生姜とニンニクを出してすりおろして入れて、子供たちが食べるからちょっと甘めにすることにして砂糖ちょっとだけ入れて。
そして揉む!
ニチニチムギュムギュニチニチムギュムギュ・・・・・・
いい感じに混ざったらこれで漬け込み完了~!
これで3~4時間くらい置いとこう。
できるだけ涼しいところ・・・キッチン隅のとこがいいかな。
木の蓋みたいなので蓋をしてっと。
ローエに漬け込み終わったと話して算数の続きを見てしばらくは過ごして、それからは子供たちと草原で遊んだりロックの魔法練習を見たりして夕方まで過ごした。
夕方になったからキッチンに戻って置いといた肉をチェック。
ピンクだった肉が醤油を吸ってちょっとくすんだ色をしている。
へへ、いい感じじゃねえか。
「これをどうするの?」
ローエはローエでトマトスープを煮ている傍ら瓶の肉を覗き込んで聞いてきた。
「これに小麦粉をまぶして油で揚げるんだよ。」
「へえ!フリットみたいね。」
フリットはヨーロッパ風の天ぷらみたいなものだ。
油も大量購入して仮の倉庫にあるからそれを鍋に入れて小麦粉を用意。
それからはまぶして入れてを繰り返して、きつね色になるまで様子見てあげる。
「うわあ~!めちゃくちゃいい匂いするわあ~!」
ローエが揚がった唐揚げをものすごくガン見している。
ヨダレを垂らしそうな勢いで。
ローエの圧力を感じる・・・。
ちょうど一口サイズの小さいのが揚がった。
「ロ、ローエ・・・。味見してみる?」
「え!?いいの!?」
「うん。これちょうど揚がった奴、食べてみてよ。」
ちょっと息を吹きかけて、パクッと一口。
「んんん~~!美味しい!」
ぱあっと笑ってくれてこっちまで嬉しくなるね。
やっぱり誰かに作るのって楽しいな。
『僕たちも食べれたらよかったのにー!うらやましいー!』
『このなんとも言えない美味しそうな匂いを嗅ぐことしかできないなんて・・・なんて残酷なのかしら。しくしく』
えええ?音の精霊、泣くほど!?
まさかの次回も料理回です。




