125話 複数の精霊
ある日のこと。
俺はノヴェーラの町から北西の森の中にいた。
護衛依頼で。
「ほうほう、イオリは若いのにしっかりしておるんじゃのう。」
「そんなことないよ。俺なんてまだまだだよ。」
俺は魔法使いのおじいちゃんと歩いていて、おじいちゃんはイメージそのままの長い白ひげをたくわえた黒い三角帽子に黒く長い丈のローブを羽織ってひん曲がった長い杖をついている姿だ。
このおじいちゃんは俺の今日の依頼人で森の中にあるトレントという魔物の根がほしいそうで、その護衛として俺は受けたのだ。
おじいちゃんは趣味で薬を作っていて、しかも自分で調達したいタイプらしい。
だから本来なら採取依頼を出せばいい話なんだけど一緒に来ているわけだ。
おじいちゃん自身は魔法を使えてトレントぐらいなら倒せるらしいけど、腰痛持ちで不測の事態に備えて護衛依頼を出したそうだ。
そりゃ戦ってる時にグキッと来たら大変だもんね。
トレントは木の魔物でラノベでよく見る木にとてもよく似た見た目で尖った目とウロみたいな口の姿らしい。
「じゃが世話になっておる孤児院に寄付するとはできることではないぞ?しかもたくさん寄付するなんてのう。」
「そんなことないよ。ちょっと色々あってたくさんお金が手に入ってさ。でもたくさんのお金ってちょっとビビるからとりあえず半分渡したんだよ。」
たくさんのお金っていうのは前にリンクに入れといた世界樹の葉っぱをついに売って手にしたお金だ。
「大群」後にめちゃくちゃ町に出回った世界樹の枝と葉っぱは一時価格崩壊が起きていたが、その後落ち着いて通常通りの高値で取引されるようになってきたのでいいタイミングと俺は判断してリンクの中にあったほとんどを売っぱらった。
そしたら葉っぱ5キロでなんと100万Gで売れた。
100万Gなんて突然もらって俺はビビって慌ててリンクに入れたけど、それでも急な大金を持ってる時点で怖くなった俺は売ってすぐに孤児院に帰ってそのままローエに話して半ば無理矢理半分を寄付することを宣言した。
その日の内にローエはグランに言ってグランには怒られたけど、俺としては持ってても怖いからと言い通して2人は渋々納得してもらった。
持ってて怖いというのは決してビビりな訳ではない。
俺はヘタレではないのだ。
でもその日の夜に聞きつけた情報の精霊が俺の元にやって来て散々ヘタレ弄りをされた。ちくしょう。
『人間は金が好きなようだね。僕に言ってくれたらいつでも金を出してあげよう!』
今日の俺の担当?の金属の精霊は俺の頭上で偉そうに言った。
『金よりオリハルコンがよくな~い?』
そんなとんでもないことを言ったのはもうひとりの俺の担当?の魚の精霊だ。
魚の精霊ははじめましての精霊で、金魚のような丸っこい体につぶらな目でヒラヒラしたヒレをしていて空中を漂う姿がめちゃくちゃ幻想的だ。
・・・て、っていうか、ちょっと待って!オリハルコン!?
『オリハルコンか!よし、では後でイオリにオリハルコンをやろう!売ったら100万どころではないぞ!ハハハハハ!』
や、や、やめてーーー!!
「うん?どうしたイオリ。1人でアワアワして。」
「あ、いや、なんでもないよ。ははは・・・。」
おじいちゃんと森の中を歩くこと数時間して、ついにトレントを見つけた。
トレントは動く度に体がメキメキいってて「オオォォォ・・・!」となんとも言えない雄叫びみたいのをあげてきた。
俺が剣を抜いて構えるなか、おじいちゃんは余裕たっぷりに杖を振りかざした。
「どれ、わしの得意の魔法を見せてやろう。」
そう言うとおじいちゃんは唱えた。
『数多の精霊がふたり、火の精霊と鳥の精霊よ・・・!』
えっ!?ふたりの精霊を呼んだ!?
『はいはーい。』
『お、イオリじゃねえか。』
どうやら火の精霊と鳥の精霊が来たようだ。
おじいちゃんの杖の前には七芒星の魔方陣が浮かび上がった。
『ふたりの力をもって炎の鳥を出し、我が前の敵を焼き尽くせ!』
『『了解!』』
『フレアバード!!』
魔方陣からは羽を広げた火でできた鳥が出現して勢いよく飛び上がった。
羽を広げただけで3メートルはあろうかという大きさで、ピィィィと鳴くとトレントめがけて突っ込んで行った。
「オオォォォ・・・!?」
火の鳥はトレントの枝葉にまとわりつくように飛んでトレントの頭に火をつけていってその火はものすごい勢いで燃え広がった。
トレントが熱くて暴れても消える気配はなく、火の鳥がカッと光ると炎も広がってトレントの全身が燃えた。
あっという間にトレントの体は燃えて真っ黒になって上半分はボロボロになった。
「ええええーー!すげえ!火の鳥なんて初めて見た!」
本当の鳥っぽくてかっこよかったので俺は歓声をあげてしまった。
おじいちゃんはそんな俺の言葉と態度に満足げにドヤ顔していた。
「ほっほっほっ!すごいじゃろう!わしの得意な魔法で難しい魔法で、わしも唱えられるようになるのに十何年かかったんじゃ。」
浮かんでた魔方陣が七芒星だったからそりゃあ難しいだろう。
おじいちゃんが根を掘り出して採取するということで手伝って、3本採取した。
根は重かったので俺のリンクに入れた。
もちろんマジックバッグ持ってるからと言って入れたよ。
そしてその後は特に問題なく森を出て町につき、おじいちゃんの家の倉庫に根を置いて依頼完了となってギルドで報酬をもらって孤児院に帰ることにした。
それにしても・・・複数の精霊を使った魔法かあ。
あの火の鳥かっこよかったなあ。
「複数の精霊を掛け合わすって、他にも色々あんのかなあ?」
『あるよ。確か君は頭に魔法の本の知識が入っているだろう?それで知らなかったのかい?』
「確かに俺の頭の中には本の精霊に入れてもらった魔法大全集の知識はあるけど・・・。」
でもその魔法の知識はなにか具体的な魔法を思い浮かべないと情報と呪文が出てこないようになってるみたいなんだよな。
例えば漠然とした"火魔法"だけでは頭に思い浮かばないけど"火魔法ファイア"だったらファイアの情報と呪文が出てくるという感じだ。
しかも俺は精霊に直接協力してもらえる状況にあるから頭に呪文が浮かんでもいちいち読んだりしない。
どうせ『数多が精霊がひとり・・・』の文言なんでしょ、と思ってました。すんまへん。
「・・・あ、てことは、俺の場合は複数の精霊に頼めばできるってことか。」
『ふふふ、そうだよ~。しかもイオリの場合は僕らと話せるから、自由に掛け合わせることができるよ~。』
自由に掛け合わせることができる?
つまり魔法大全集にはない組み合わせも可能ってことか!
ちょっと面白いかも。
『暇だし、ちょっとやってみる~?』
『そりゃあ面白そうだな!』
『付き合ってあげてもいいよ!』
『やるやるー!』
俺の周りにいた魚の精霊と火の精霊と金属の精霊と鳥の精霊は次々とそう言ってきた。
ちょうど孤児院からの帰り道で大きな道から小さな道に入ったところで見回しても人っ子1人いない。
よし、やってみよう。
俺はよにんの精霊をすぐさま掛け合わせてみた。
「ではまずは・・・火の魚ってどう?」
『『りょーかい!』』
すると俺の目の前に火でできたアジが出現した。
なぜ・・・アジ?
ダメだ、火だるまになった焼き魚にしか見えない。
火のアジは空中でビチビチしてポッと消えた。
「じゃ、じゃあ・・・次は金属の魚はどう?」
『『りょうかーい!』』
すると俺の目の前に金色に輝くのけ反ったコイみたいな魚が出現した。
うわあ、某城の天守閣の魚みたいじゃねえかこんにゃろう。
金のコイはなぜか俺にウインクしてポッと消えた。
『では次はオリハルコンの鳥なんてどうだい!?』
「や、やめてーーー!」
複数の精霊を掛け合わせたらクセがすごくなることを俺は学んだ。
そして金属の精霊はその後も俺が寝るまでオリハルコンをすすめてきた。




