120話 2回目のお茶会
「うーん!着いたー!」
町からずっと歩いて来た俺は目的地に到着すると思わずそう叫んだ。
騎士団からの帰りに護衛騎士長カリーナに会ったあれから5日後、いつもは別のハンターの依頼をやったりしているのだが、今日は休みとして昼から出かけた。
そして数時間かけてきましたこの湖!
そう!先週、魔人と偶然会ってお茶会をしたところだ。
間違ってもリア充がたむろする湖ではないよ!
『ここはいつ来てもきれいだねえー!僕の汚れた心も浄化されていくようだよ。ははは!』
「おお、ぜひ浄化して無口になってくれ。」
『な、なんだと!?む、無口なんて僕の個性が死んじゃうじゃないか!ムキー!』
今日の俺の担当?はまことに残念なことに情報の精霊だ。
でも情報の精霊が『今日はイオリが前に会った魔人が湖に行くようだよ。』と情報提供をしてくれたので今日はあまり無下にできない。
『おや、君が先週にここに来たおかげか、精霊たちがいるねえ。』
そんなことを情報の精霊が言い出したので「視て」みると・・・確かに先週はいなかった精霊たちが漂っている。
「俺が先週ここに来たおかげってどういうことだ?」
『アレだよ。聖地巡礼だよ。』
は!?
もしかして、俺が先週ここに来たというのをネットワークで見た精霊たちがここに来たということか!?
『ははは!その顔は感づいたね?そういうことだよ。』
つーか、先週お前いなかったのになんでネットワークにここに来たことわかってんだよ!?
『あ、言うの忘れてたけど、大分前から君の担当の精霊たちには皆隠しカメラ持たせてるから、僕がいなくてもネットワークに君の行動は生配信されてるからね!』
「俺の人権どこ行った!?」
『人権?なにそれおいしいの?』
こんちくしょう!
『とはいえ、なるべく大事なイベントは自分の目で直に見たい派だからこれからもちょくちょくつきまと・・・げふんげふん、ストー・・・げふんげふん、見守っていくつもりだからね!』
つきまとい、ストーカーお断りじゃ!
くそっ!石ぶつけたいけど精霊には当たらないんだよな!
また前みたいに魔力を譲渡しまくって満腹にさせるか?
『むむ!?なんだか悪寒が!?なに!?誰か氷の魔法を使ったかい!?』
「いい加減静かにしてくれない?」
うるさいからほっとこうと俺はスタスタと湖の側の木陰に移動した。
前回、ザウトレーヴとお茶会をしたところだ。
とりあえず前回座ったところの近くに座って木を背もたれがわりにしてザウトレーヴが来るのを待つことにした。
まあ、ザウトレーヴが来なくても景色はきれいだしのんびりできそうだし。
『あら!あれイオリよ・・・』
『ここがネットワークに乗ってた湖かあ・・・』
『ここは昼寝しやすそうだね・・・』
聖地巡礼の方たちのおかげで静かではないけれどね・・・。
30分くらいしてめちゃくちゃ暇だった俺はなんとなく素振りをしていた。
こういう暇なときは本があればよかったんだろうが、こんなに待つことになるとは思わず頭になかったんだよな・・・。
精霊たちとしゃべるのもいつものことだし、ストーカーはウザいしでじっとするのももったいない気がして、とりあえず体を動かそうと素振りを始めたわけだ。
最初はかるーくやってるつもりだったので落ちてる枝を剣がわりにして振ってたけど、なんとなくちゃんとやりたくなってバスタードソードを抜いて振り回している。
ヒュンヒュンと風を切る音を出しながら振り回し、時にステップを踏むように移動しながら振り、跳んだりもして体を動かした。
【武術超越】のおかげで自然と体の動かし方や武器の動かし方もわかるし、体は思ったように動く。
それがなんとなく面白くて夢中でやり続けた。
「・・・よし、こんなもんかな。」
多分15分くらい経ったかな?と、少し休憩しようと剣を仕舞ったところで突然パチパチと拍手された。
ビックリして音の方を見ると、いつの間にかザウトレーヴが木陰に優雅に座っていた。
「やあ、素晴らしい剣舞だったよ。」
ザウトレーヴの前には茶器やらお菓子やらがすでに置かれてて、とっくに1人でお茶会を始めていたようだ。
「あ、ど、どうも・・・。いつの間に?」
「ちょっと前に来てね。そうしたら君がとんでもない剣技を連発してるから邪魔しちゃ悪いかと眺めさせてもらったよ。」
俺が慌てて近くに座ると紅茶を淹れてくれた。
「ちょうどいい感じに蒸されてるはずだ。」
「どうもっす。ではすいませんいただきます。・・・うーん、うまい。」
前回と同じ茶葉で淹れてくれたみたいで、やっぱうまいなこのお茶。
『やだ!イオリと魔人がお茶会やってるわ!』
『先週と同じ感じだ!楽しそう!』
なんだか聖地巡礼の方たちも寄ってきて辺りを漂ってる感じがする。
『ウケケケ!いいアングルで撮れてるよ~!』
カメラ割れたらいいのに。
「あ、これよかったら。」
気を取り直して俺がマジックバッグから出すフリしてリンクから出したのはお菓子の詰め合わせだ。
前にネフィーの部屋に遊びに行ったときに持ってったチョコのギフトセットと同じもので、2人で食べるからもうちょっとコンパクトなものにしてみた。
「ほう!どれも美味しそうだね。」
「前に食べてすごく美味しかったんで、またお茶会やるなら持って来ようってマジックバッグに入れといたんす。」
「ふふ、今回はこちらも用意をしたよ。この菓子は今魔界で人気のものなんだ。」
そう言ってザウトレーヴが差し出してきたのは一見するとチョコチップクッキーだった。
これが魔界で人気のお菓子?
「コカトリスの目玉入りクッキーだ。」
ココココ、コカトリスの、めめめめめ目玉!?
コカトリスというのは・・・鶏の魔物としてRPGゲームでお馴染みの奴だ。
ということは、これはチョコチップではなく・・・?
あ、だめ、もう直視できない。
「魔界の人気店の新作で、毎日行列が出来ているらしい。今回はちょっと伝手があったから手に入ってね。」
ずいっと差し出されるクッキー。
え、どう考えても食えってことだよね!?
ザウトレーヴの顔はどう見ても面白がってる顔だ。
「さあ、遠慮せずに。」
直視できないので薄目で存在を確認。
震える手で1つ取る。
「思いきってがぶっと食べるといいよ。」
魔界公爵の厚意を無駄にしないよね?という圧力を感じる。
食べたくない。
でも目の前の魔人がものすごい笑顔の圧力をかけてくる。
ええい!
我慢して食ってやる!
・・・嘘です!食えません!
「・・・ぷっ、くくくくく!はははは!」
涙目になりながら端っこをかじろうかと思っていると、急にザウトレーヴが吹き出して笑いだした。
訳がわからずぽかんとしてしまう俺。
「くくくっ!あー面白い。イオリの情けない姿はいいね。あ、それちゃんとチョコチップクッキーだよ。」
「・・・え?は?」
「コカトリスの目玉クッキーは本当に魔界で流行ってるけど、さすがにここには持ってこないよ。これでも人間の食文化はわかってるからね。」
わあ!ホントだ!
直視したらちゃんとチョコチップクッキーじゃーん。
・・・ということは・・・からかわれた!
「ムキャーー!ちょっとザウトレーヴ!!」
俺はプンスコ怒ったが、ザウトレーヴはまったく堪えてなかった。
ヤケだ!チョコチップクッキーいっぱい食ってやる!
むしゃむしゃむしゃ・・・
くそう!うまいじゃねーか!




