119話 護衛騎士長
途中からある人の視点ぽい三人称視点になります。
そしていつもよりちょっと長いです。
バルドゥインらを上司の部屋にお届けした俺はとっとと訓練場に戻ると騎士たちと打ち合いをしてアドバイスをした。
ほんのりどこからか怒号が聞こえてきたが、BGMとして皆で気にしないようにした。
その後、帰りがけに部隊長がわざわざ来てくれて頭を下げてくれた。
まあ、俺は気にしてないから大丈夫だと言ったんだけど、部隊長は次回は絶対に参加させるとものすごく意気込んで言ってきてくれた。
俺としては参加は自由が本当はいいんだけど、多分騎士団長が選んだからそのプレッシャーが部隊長が責任を感じる要因になってるんだろう。
ロディオータは気にしなさそうだけどね。
でもまあ、部下は色々気を使うこともあるんだろう。
今日は気分的に王城の中を通ってかーえろっと。
ベンノたち騎士たちと別れて1人王城を歩いているとやっぱりまだバタバタした雰囲気がしている。
これはアレか、来月あるっていうイベントの奴か。
俺が呑気に歩く脇を急ぐメイドさんたちが早足で通っていく。
よく考えたら夕方だから夕飯時か。
それもあってバタバタしてたのね。
王族の食事って大変そうだからね。
ラノベでよくあるアレか?
コース料理で子羊のテリーヌとか出るのか?
テリーヌってなんだよ。
俺は天丼の方がいいね。
『人間のお城はキラキラしてるだけだねえ。もっと木とか生やしたらいいのに。』
『それをいうなら花もないわ。この廊下も絨毯だけじゃなく花も咲かせたらいいのに。』
観葉植物ならいいが、城に木が生えんのは・・・ま、まあ、雰囲気はいい気がするけど。
廊下に花は歩けなくなるからやめた方がいいと思う。
「・・・あら?あなた・・・。」
後ろから女性の声がした。
え?と振り返ると、金の鎧を着た女性がいた。
20代前半の白茶色のショートボブに細い金のヘアバンドを着け赤茶色の大きな目のなかなかの美女だ。
上半身はガチガチの白の鎧を着ているが、腰から下は革のショートパンツに太ももを出している。
短い赤のマントを着けていて、背中に1m50はある大きな盾を背負っている。
女性は俺を見るとニコッと微笑んできた。
「あなた、この間陛下と謁見したハンターよね?」
「え、あ、はい。」
俺を見て王様と謁見したと知ってるということは、あの場にいたのかな?
でもこんな白の鎧を着た女の人なんて見た覚えがないけどなあ・・・。
「どうしてこんなところにいるの?」
「騎士団に打ち合いの依頼されて、その帰りっす。あ、あの、失礼ですけど、あなたは?」
「あ、ごめんね。私は謁見の時に奥に控えて様子見てたから、あなたから見えなかったはずだったわ。私は王族護衛騎士長のカリーナ・オーディルよ。」
王族護衛騎士!?しかも長!?
え、どう見ても20代前半に見えるのに!?
「あはは。若いのに王族護衛騎士長!?って思った?よく言われるの。言っとくけど見た目若いけど歳は結構イッてるっていうんじゃないわよ。正真正銘の23歳のうら若き乙女だからね。」
自分でうら若き乙女と言ったよこの人・・・。
でも、本当に若いのに王族護衛騎士長なんだ!?
そしてどうやらカリーナは明るい性格のようだ。
「あ、俺はイオリ・アソウです。そこら辺のしがないハンターです。よろしくっす。」
「ふふ、陛下と謁見しているのにしがないハンターだなんて、謙虚なのね。」
カリーナは面白そうに笑った。
うん?本当に俺はしがないハンターなんだけど、謙虚と思われちゃったなあ。
王族護衛騎士というのは騎士団とは違う騎士の組織だ。
騎士団の中の警護部隊などから特に護衛能力の秀でた者がスカウトされるそうで、地位としては護衛騎士長と騎士団長は同じで護衛騎士は部隊長とほぼ同じ地位とされていて、護衛騎士は騎士団の中でも憧れの組織でもあるとされているらしい。
これは王様との謁見するという時にアルに因みにで教えてもらったことだ。
「それにしても、すごいっすねえ!王族護衛騎士の長って。あ、だからその大きな盾を持ってたんすね。それで王族を守るってことで。」
俺はカリーナの背中の盾を指差しながら言った。
見たところ武器は持ってないようだから盾で戦うのかな?
そういえば盾術ってのがあるのをなんかのラノベで見たな。
大きな盾を背負ってるし、護衛騎士長なんだしきっと強いんだろう。
カリーナはうんうんと頷いてくれた。
「そうそう。この盾は特別な盾で、操れるのは私だけだからそのおかげもあって護衛騎士長になったのよ。」
操れるのはカリーナだけ?
・・・うん?よく見たら盾からなにか感じる?
この感じはロディオータが背負ってた剣やクープーデンの球と同じっぽい感じがするぞ?
「特別って、どう特別なんすか?」
「この盾は「支天地盾」というとっても珍しい魔盾なのよ。」
魔盾・・・は魔剣の盾バージョンのことかな。
「この盾のおかげで護衛騎士長にもなれたけど【神の地をもつ者】って称号までもらっちゃったのよね。」
うえっ!?この人、称号持ってんの!?
あっけらかんとしてるけどこの人思ってるよりすごい人かも!?
「そんな人がここにいていいんすか?王族を護衛しないといけないんじゃ・・・?」
「今、王族の皆様は王城専用の食堂でお食事中だからその間ちょっと護衛は部下に任せて休憩しに来たの。」
そういやあ、そういう時くらいしか休憩できないだろうね。
護衛騎士だってご飯食べないといけないしトイレも行きたいだろうし。
「あ、もしかしてこれから晩飯ですか?だったらこうして話してる場合じゃないっすよね。俺、このまま王城を出るんで気にせず晩飯食べに行ってください。」
「あら、気遣ってくれてありがとう。こちらこそ、急に話しかけちゃってごめんね。」
「いえいえ、俺なんていつでも声かけてもらっても大丈夫っすよ。」
「あら本当に?だったらまた声かけちゃうわよ?」
「いつでもウェルカムっすよ。」
カリーナは明るく笑いながら「じゃ、またね!」と言いながら去ってった。
「護衛騎士長なのになんかノリが合いそうだったなあ。」
『とてもいい子だったね~。ニコニコしてたし。』
『後ろに背負ってた盾はとても強そうな感じがしたわ。あんな明るいけどしっかりしてる感じもしたし。』
精霊たちもなかなかの好意的だったようだ。
俺としてもなんとなく気が合いそうな仲良くなれそうな気がした。
それから数十分後。
夕食を終えた王族がぞろぞろと食堂から出てくるのを、食堂の出入り口でカリーナは出迎えていた。
「あ、あの、カリーナ・・・。」
王妃が颯爽とまず食堂から出てくるとその後を国王が続き、その次にエティエンヌ姫が出てきて、最後にネフィエンヌ姫が出てくる。
それがいつものことだったが、今日は最後に出てきたネフィエンヌがおずおずと廊下の端に立つカリーナに話しかけてきた。
話しかけられるとは思ってなかったカリーナは少し驚いた。
「どうされました?姫様。」
「ちょっと・・・相談があるのですが、わたくしの部屋に来てくれません?」
相談?
カリーナは戸惑いつつも「お伺い致します。」と一礼した。
カリーナは元々侯爵家の娘であって、双子姫と年も近いということもあってエティエンヌ・ネフィエンヌの遊び相手として小さな頃から何回か遊んだこともあるし、定期的にお茶会をする仲でもあった。
カリーナは双子姫のことを身分の違いはあれど親友と思っていて、双子姫たちもカリーナのことを親友や良き相談相手と思っていてる。
だが、カリーナが騎士団に入りそこから護衛騎士にスカウトされてからは忙しさもあってプライベートでお茶会をすることも話すこともなくなってしまっていた。
護衛騎士として近くにいることはできるが、仕事上気軽に話すことが難しくなってしまったことに少し寂しさを感じていたのだが、思いもよらないネフィエンヌからの誘いにカリーナは嬉しく思いながら護衛騎士長としての仕事を終えるとネフィエンヌの部屋に向かった。
「お待たせしました、ネフィー様。」
プライベートで呼ぶ愛称で呼ぶと、ネフィエンヌは笑顔で迎えてくれた。
「こうしてお部屋にお邪魔するのは久しぶりですね。」
「ええ。カリーナ、護衛騎士長になって忙しそうね。」
「色々と仕事は増えましたけど、やりがいはありますから楽しいですよ。」
出された紅茶を飲んでカリーナは笑った。
「さて、ご相談があるそうですが、早速聞いてよろしいですか?」
「え、ええ・・・。あの・・・。」
途端にネフィエンヌはもじもじしだしてしばらく黙ってしまった。
それでも待っていると、決心がついたのか口を開いた。
「あ、あの・・・、お茶会をすることになって。」
「お茶会?」
「ちょ、ちょっとだけ・・・気になる殿方と・・・。」
ネフィエンヌはそう言うとポッと頬を赤らめた。
「はああ!?」
その発言と頬の赤さにカリーナは衝撃を受けた。
カリーナがネフィエンヌとの会話でこういった話題になったことがなかったからだ。
エティエンヌは騎士団長のロディオータをかっこいいと熱く語っているのは耳にタコができるほど聞いたことがあるが、ネフィエンヌに関しては男性の話題すら口にしたかどうかも怪しいほど、恋愛のれの字も無縁だったのだ。
「あの、その、好きかどうかはよくわからないんだけれど、気になっているって言ってもちょっとよ。ちょっとだけだから・・・だからその・・・。」
ネフィエンヌは赤らめた頬を両手で隠しながら支離滅裂なことを言ってきている。
これは・・・そうなんだ!
カリーナはぽかんとネフィエンヌを見た。
ちょっと会わない間に成長したネフィエンヌに嬉しさ半分、寂しさ半分が込み上げてくる。
だが、そんな気持ちもありつつ別の感情も沸いてくる。
その殿方・・・ネフィー様を誑かす変な虫じゃないでしょうねえ?
「そ、それで、その方とお茶会をする約束をしたんだけど、わたくしどうしたらいいかわからなくなってしまって・・・。それでカリーナに相談したくて。」
不安そうなネフィエンヌにカリーナはニコリと微笑んだ。
「・・・相談して下さってありがとうございます。ですが、その前にネフィー様、その殿方のことを教えて下さいませんか?」
王族護衛騎士長の私が見定めてやるわ・・・!
カリーナの着ていた鎧を金と表記していましたが、前に庵がネフィーの馬車を助けた時にいた護衛騎士たちが白い鎧を着けていたことに気が付いたので白に訂正しました。




