115話 すんなり流れに乗る
ま、魔人!?
魔人って、人間界にたまに来ては町とか村とかぶっ壊して神様とかレベルSハンターにボコボコにされるっていう、あの!?
最近は全然人間界に来ないって聞いたのに、いるじゃん!ここに!
アワアワしていると不意に顔を上げた魔人とバチッと目が合ってしまった。
銀色の腰までの長い髪を頭の横で結い上げ白い百合で留めていて、タレ目の紫の目は睫毛が長く美女にも見える中性的なものすごいイケメンだ。
宝石の散りばめられた目の色と同じ紫の豪華な貴族服を着ていて、真っ黒なファーを肩からかけるその姿は人間のように見える。
でもよく見たら耳がエルフみたいに長く尖っている。
それになんていうか・・・雰囲気?が人間の雰囲気じゃない感じがする。
感覚で見なくても精霊がなにしてるのか感じ取れるように、人間じゃないなって感覚がするのだ。
「やあ、はじめまして。」
魔人は穏やかに笑ってそう声をかけてきた。
魔人は町や村をめちゃくちゃにするって聞いたから悪役のイメージしてたのに、そんな感じがしないぞ?
「は、はじめまして。」
「おや?・・・君、面白いね。」
魔人は俺をじっと見て笑った。
え、なに?俺笑われるような格好してないけどなあ。
「君、ここに来るのは初めてかい?」
「え、あ、はい。」
「私はここでこうして読書するのが好きでたまに来るんだ。ここは景色もいいし静かで誰も来るようなところではないからね。」
まあ、人間には知られてないから人間は誰も来ないだろうね。
・・・あ、そうか、そういうことか。
「すいません、静かじゃなくして読書の邪魔して。」
俺は謝ってペコリと頭を下げた。
すると魔人はふふふと笑った。
「君は聡いようだね。嫌味を言ったように聞こえてしまったかな。だとしたらこちらこそすまない。どうも物わかりの悪い者たちと普段接しているからそんな言い方をしてしまうんだ。」
どうやら魔人も色々あるようだ。
「うん、君とおしゃべりしたら楽しそうだ。近くにおいでよ。お茶しようじゃないか。」
魔人はニコニコしながら魔法を唱えた。
『数多の精霊がひとり、空間の精霊よ。空間をねじ曲げ、魔界と人間界を繋ぐ小さな渦を生み出せ、リンク。』
『はいはーい。』
空間の精霊がすぐさまやって来て魔人の目の前に直径30センチほどの空間の渦が出現した。
向こう側は魔界のはずだけど・・・はて?とても豪華な部屋が見える。
魔人は渦に読んでいた本を放り投げると渦に手を突っ込んでなにかを取り出した。
取り出したのはティーセットだった。
なんか知らんけど、お茶会する流れになったな。
お相手は人間に敵対してるっぽい魔人。
でも敵意を感じない。
よし、流れに乗ろう。
「んじゃあせっかくなんでお邪魔します。」
俺は魔人の近くに座った。
「あ、お茶もらうなら俺からも。」
俺はマジックバッグから出すフリをしてリンクからクッキーの詰め合わせを出した。
これは俺のおやつ用にちょっと前に買ってリンクに入れといた奴だ。
「おや、とても美味しそうだね。」
「見た目通り美味いですよ。俺のいる町で人気のスイーツ店なんすよ。」
魔人は興味深くげにクッキーを見てきた。
『ええっ、ここで魔人とお茶する流れになんでそんなにすんなり乗るのよ!?』
『あはは!人間と魔人がお茶会してるの初めて見たあ。』
『呼ばれて来たら面白いことになってるね。見てこっと。』
風の精霊は呆れて角の精霊は感心してて空間の精霊は面白がっているようだ。
俺の出したクッキーを魔人は適当につまんで、俺は魔人の淹れてくれた紅茶を飲んだ。
「うん、このクッキーはなかなか美味しい。いいバターをたっぷり使ってるね。」
「ん!この紅茶も美味しいっすね。いい香り!」
「この香りをわかってくれるとは嬉しいね。これは魔界にある私の専用茶畑のものでね。」
え?魔界に茶畑あんの?
「魔界に茶畑って大丈夫なんすか?魔物の被害とか凄そう。」
「まあなにもしてなかったら30秒で焼け野原になるね。でも私は茶畑に警備兵と管理人を置いてるから問題ないんだよ。デストレント警備兵は真面目だしキマイラ管理人は優秀だしね。」
デストレント警備兵・・・?
キマイラ管理人・・・?
「デストレント警備兵は近づくと毒の樹液を飛ばしてくる魔物だよ。毒の樹液は1滴でも肌に着いたら1発アウトになるんだよ。キマイラ管理人は獅子と山羊と蛇の頭を持つ魔物で、それぞれの頭が管理しているからとても経済的だよ。」
魔界の警備兵と管理人こわあっ!
「す、すごいっすね。その管理人のおかげでこんな美味しいの飲めるんすね。」
「ふふ、気に入ってくれてよかったよ。」
それからもなんやかんやで会話は続いた。
初めて会ったのにこの魔人って気さくだなあ。
ずっとニコニコしながら俺と会話してクッキー摘まんでるし。
「それにしても・・・君は警戒心がないねえ。」
魔人はそんなことを言ってきた。
なんのことかわからず首を傾げると、魔人は苦笑した。
「君、気付いてるんだろう?私が魔人だと。」
あ!そういやあ精霊が言ったから知ったのであって、この魔人は何者か言ってきてなかった。
俺が今さらその事に気付いて驚いて思わず固まってしまうとふふ、と魔人は笑った。
「なかなか面白い魔力を持ってるから私が魔人だと感づいたのかな?呪文で魔界と言っても驚かなかったし、その後の茶畑の話も普通に魔界にあることを言っても無反応だったし。」
精霊が教えてくれたんです。
だからあなたが魔人とわかってる前提で話をしてたから魔界もスルーできたんですよ。
なーんて言えるわけないな。
面白い魔力を持ってると思われてるからそれに乗ろう。
俺は面白い魔力なんて持ってなくて、ただ単に魔力が無限にあって駄々漏れしてるだけだもん。
「あ、ああ、そうなんすよ。すいません、黙ってて。」
「人間と敵対している魔人とわかってて近づいてくるから警戒心がないと言ってるんだよ?私はその気になれば町のひとつやふたつ簡単に吹っ飛ばせる魔人なのだよ?そんな魔人の出したお茶を飲むし、君は本当に変わってるね。」
なんか知らんが魔人から怒られた。
だってー。
「だ、だって・・・あんたはそんなことするような感じがしなかったから。」
魔人とわかる感覚で、なんでかこの魔人は大丈夫という感じがしたんだ。
「そ、それに最初にお茶をしようって言ったのあんたの方からだし?俺の出したクッキーだっていっぱい摘まんでたじゃないすか。俺、毒入りの出してたかもしれないんすよ?あんたも警戒心がないと思うんすけど。」
負けじとそう反論してみたら、魔人はふははと笑い出した。
「私に反論してくるなんて本当に面白い。しかも言われたら確かにそうだ。私にも非があるか。」
「そうそう。お互いに警戒心がないってことで引き分けでお願いします。」
「ふふふ、今まで生きてきて魔王様以外で負けたことのない私が引き分け。うん、悪くない。」
え、魔王以外で負けたことないの?
え・・・、この魔人もしかして思ってる以上に強いかも・・・?
「気に入ったよ。特別に名前を教えよう。」
あら、自己紹介してくれんのね。
「私は魔王補佐を務める魔界公爵ファルムンド・ギィ・ダルン・ディ・ザウトレーヴという。」
え?なんだって???
ファルなんちゃらがダルダルでなんちゃらレーヴ?
いや、その前に聞き逃せないこと言ってなかった?
「私のことはザウトレーヴと呼ぶといい。」
ザウトレーヴはそう言ってニッコリと笑った。




