114話 湖
騎士団の依頼2回目から数日後。
この日俺はハンターの依頼で町から出ている。
別に騎士団の依頼中は別の依頼をやっちゃいけない訳ではない。
まあ、護衛などの何日も出かける依頼や時間のかかる依頼は避けるようにはしてるけどね。
というわけで選んだ依頼は採取依頼だ。
討伐依頼は俺が見に行った時にはあらかた取られてて、残ってたのはドラゴン討伐とかとんでもないのしかなかった。
一応レベルC以上は受けられるらしいけど、さすがに俺は無理だよ無理!
ドラゴンのくしゃみで吹っ飛んで終わりだよ。ははは。
無理だよと笑い飛ばしていた俺を受付のオリアナさんはなぜか呆れた目で見てきたが、そんな討伐依頼を受けるわけもなく平和な採取依頼を受けた。
町を出て、てくてくと西に向かう。
西にある草原の先に湖があって、その湖が目的地だ。
因みにその湖を過ぎて西に行くと町があるらしい。
「大群」の時に魔物たちがあの方向のまま侵攻してったら被害が出ていたであろう町のことだ。
この世界に来て歩くことが格段に増えたおかげで、少しは体力がついてきた。
俺がいた世界では、ほとんど学校と家の往復でたまに寄り道したら不良に絡まれて出歩くのがうんざりしていたけど、この世界は絡まれることがないから楽しい。
色々町中を見て回るのも面白いけど、こうして町の周辺を歩いたりするのも新しい発見があったりするから楽しいんだよね。
『ふふっ、今日のイオリはご機嫌ね。』
そう言って風の精霊がニコニコしている感覚が伝わってきた。
「うん。こうやって毎日色んなところに行くの楽しいからね。」
『僕らはイオリの配信見ているだけでも楽しいよお。』
角の精霊は俺の肩に乗ってのんびりしている感覚が伝わってきた。
角の精霊は初めましての精霊で、体長30センチくらいの大きくて曲がった2つの角を生やした闘牛のゆるキャラのような見た目だ。
前に会った蛇の見た目の鱗の精霊と同じように、あらゆる生き物の角の精霊だそうだ。
牛の見た目のせいかおっとりしたしゃべり方だ。
「これから行く湖って、ふたりとも行ったことある?」
『私はあるわ。私たち風はいつも移動しているから留まることはしないけど、とてもきれいなところよ。』
『僕は行ったことないなあ。僕は牛小屋にいることが多いからねえ。』
「牛小屋に?なにしてんの?」
『寝てるう。あ、後、鹿の角を切ってるのを見に行ったりしてるよお。』
鹿の角を切ってる?
某県みたいにいっぱいいて観光客が怪我しないようにしてんのか?
『なんかあ、錬金術?に使うらしいよお。』
用途がさすがファンタジー。
ガサガサ・・・
ピョーンとでっかい紫の蜘蛛が飛び出してきた。
「シュー!」
『あら、ポイズンスパイダーよ!』
ポイズンスパイダー?毒あるの!?こわっ
毒なんて受けたくないからさっさと倒そうと【武術超越】が発動してすぐに切った。
ズシャッ
そして解けた。
「わー怖かった。毒怖くて真っ二つにしちった。」
『相変わらずものすごいスピードで倒しておいて怖いもなにもないでしょう。』
風の精霊は呆れた声だった。
きれいに真っ二つに切れたポイズンスパイダーは食用にならんだろうと埋めた。
後にポイズンスパイダーの毒液は錬金術師に売れると聞いてチクショーと思うこととなるけどね。
そうやってたまに出る魔物を秒殺しながら歩いて数時間、目的地の湖に着いた。
目的地に着いた俺はちょっとしたダメージを受けることとなった。
「な、なんだ・・・?」
湖は全長1キロはあるほどの大きな楕円の形をしていて、周囲の森林に囲まれてきれいで、水も日の光にキラキラ輝いている。
その湖の側にカップル・・・カップル・・・カップル・・・。
手を繋いで歩いていたり、木陰に座っておしゃべりをしていたり、見つめ合ってる男女がちらほら・・・。
ここは・・・ま、ま、まさか・・・。
「デ、デートスポットであらせられるのか・・・!?」
そんなカップルたちの中に1人だけな俺。
完全に浮いてる!!
「きゃー!リア充こわいー!」
俺は慌てて近くの茂みに逃げ込んだ。
『ど、どうしたのイオリ?急に逃げ込んで。』
「しっ!ここはとても危険な場所だ。離れるぞ!」
『デートスポットってなにい?』
「リア充が群がるこういったきれいなところだよ。」
『リア充ってなにい?』
「話題の場所にはびこって周りの目を気にせずイチャコラして精神攻撃をしてくる恐ろしい人種だ。角の精霊も気を付けろよ。あんまり見てると目がやられてここにいると心がやられるぞ。」
『わかったあ。』
『角の、真に受けちゃだめよ。ポイズンスパイダー秒殺してるくせにカップルを怖がるなんて意味わかんないんだから。』
うむ、風の精霊はいいツッコミをするし角の精霊はいいボケである。
まあ、ここにいたら心がやられるのは事実なので移動しよう。
採取依頼で湖に来たけど湖の水が目的じゃない。
俺は茂みから茂みに移動しながらカップルのいないところを探した。
そしてだいぶ歩いてやっとカップルが見当たらないポイントを発見した。
俺の来たポイントは湖の縁が少し沼っぽくぬかるんでいて足をとられそうだ。
だからカップルがいないんだろうな。
その沼っぽくなっているところには小さな白い花がいくつも生えている。
この白い花の採取が俺の依頼なのだ。
きれいなところの水辺にしか咲かないそうで、なんかの薬の材料らしい。
「これを30本いるってことだけど・・・ありそうだな。」
花は見た限り30本以上ありそうだ。
俺はプチプチ取って採取用マジックバッグに入れていく。
『そういえば・・・イオリなら、ここに来る必要なかったんじゃない?』
取っている俺を観察していた風の精霊がそう話しかけてきた。
「俺が来る必要なかったって?」
『だってイオリは草の精霊か花の精霊呼べるじゃない?ここに来なくても町の近くの草原にでも呼んで頼んだらすぐに生やしてくれると思うんだけど。』
まあ確かに俺だったら精霊に頼んだらすぐだ。
「でもそれって面白くないじゃない?俺この湖来たことなかったし、まだまだ俺が行ったことないところあるから行ってみたいなと思って。色々なところに実際に行くと面白いこととかいっぱいあるじゃん。」
『確かに配信ばかり見るよりこうやってついて回った方が面白いものね。』
「ということで配信しなくていいと思うと情報の野郎に言っといてよ。」
風の精霊は笑いながら『私たちの楽しみだから嫌よ』と言われた。
ちくしょう。
『そういえばイオリ、この近くにもうひとつ湖あるわよ。』
「え、そうなん?」
リンクから地図を取り出して見てみるが・・・あれ?ない?
『こっちにこの湖ほどじゃないけどあるわよ。そういえばその湖に人間がいるのを見たことないから、もしかしたら人間は知らないところかも?』
風の精霊が北の方向を指差してる感覚がした。
地図ではずっと森が広がっていることになってる。
『そっちの方がキラキラしててきれいよ。』
『わあ!行ってみたいなあ。』
角の精霊もそう言ってるし、風の精霊が勧めるなら俺も興味が湧いてきた。
「花取ったらちょっと行ってみようか。風の精霊、案内頼んでいい?」
『ふふっ、もちろん!』
『わあい!楽しみいー。』
ということで頑張って花取ろうっと!
それから十数分かかったけど花30本取れた。
それをリンクに入れて風の精霊の案内で北へ移動した。
結構草木が茂ってて、多分それで誰も行く気なくして誰にも見つからなかったのかな?
ガサガサとわけいって蔓に絡まったり出ている根に引っ掛かって転びそうになりながらも進んだ。
そうやって30分ほど進んだところでやっと湖に着いた。
「うわあ・・・!すげえきれい・・・!」
湖はさっきの湖の半分ほどの大きさだけど、水面がキラキラしていて色んな花も咲いてる。
『あら、先客がいたわ。』
「え?」
よく見ると、ちょうど湖の対岸の位置に誰かいた。
誰かは木陰にひとり座っていて本かなんか読んでる・・・人だ。
あれ?人間には見つかってない湖じゃないのか?
・・・あれ?うん?
なんか・・・あの人、なにかが違う?
『あのひと、人間じゃないねえ。』
「!?に、人間じゃない?」
『あのひと、魔人だよお。』
なんですと!!??




