11話 図書館にて2
「魔力の操作・応用方法解説書」の※の部分を読んだ俺は固まっていた。
「・・・は?なにこれ?・・・俺、普通にできてんですけど。」
『うふふ。イオリは教えた時から難なくやってたけど、実はすごいことやってたのよ?』
俺に教えてくれた張本人の風の精霊は俺の肩でクスクス笑ってそう答えた。
俺と風の精霊が砂漠で会ったあのとき、風の精霊は俺がまさか異世界から来た人間であることをもちろん知らなかった。
が、体から駄々漏れの魔力を感じ、更に精霊の言葉が聞こえて会話していたことから、相当な魔術師かなと勘違いしたらしい。
なのに見ることができない、と俺が言っていたので魔力操作の「纏技」が不得意な魔術師かなと思って教えたという。
ところが口頭で教えたくらいでとても出来ない技だし、今まで人間が誰も出来てないのを教えた直後に思い出し、「あ、教えても無駄かも」と思っていたらしい。
しかし、教えられた俺はさらっとやってのけて、しかもちゃんとこちらが見えているのがわかって、尚且つ精霊の姿を見えても薄めのリアクションに、精霊の心の内はかなり驚いていたとのこと。
と、言われても俺にもちろん実感があるわけなく、「真眼」を使うときは今も気を付けているのでこのまま引き続き人前で使わなければいいと思い直した。
風の精霊も『万が一見られても、"纏技"なんて「魔力鎧」以外は知名度が低いから勘づく人間がそうそういないから、適当なこと言って誤魔化せられる』というアドバイスもあって周りに気を付ける位で大丈夫だろうと納得した。
次に「精霊大図鑑」に手を伸ばし、中をめくっていった。
こちらは普通の辞書のようにあいうえお順になっていて、一つ一つの精霊に説明・特徴と精霊のイメージ図が書いてあった。
試しに風の精霊を探してみると、説明は数行の簡単なものだし特徴も作者のイメージがだいぶ入った内容だし、そのイメージからきた風の精霊のイメージ図がひどかった。
実際の精霊は見た目の特徴をデフォルメされたゆるキャラみたいな見た目に対して、図鑑のイメージ図は線の細い西洋の彫刻ちっくなものばかりで、全てに突っ込みをいれまくりたい気持ちになっていった。
「う~ん。これじゃあどんな精霊がいるか軽く見ときたかったのに、突っ込みいれるだけで参考にならないかも・・・。」
『おぉ、だったらいい方法がある。』
本の精霊はそう言ってきたので、「視て」みると、本の精霊は机の上に座っていたのを立ち上がり、本の形をとっている体のページをパラパラとめくりだした。
すると精霊図鑑の本全体が淡く光だし、それが細かい光の粒となって俺の額へと次々に吸い込まれていった。
自分の額に吸い込まれていく、というのはめちゃくちゃ驚いたが、不快感も違和感もないので様子をみる。
そうして数分すると全ての光の粒が額に吸い込まれていって、本の精霊が頷くように本の体を傾けてきた。
『うむ。うまくいったぞ。』
「え?何がどうしたんだ?」
そう言って本の精霊を見ると、急に頭の中に本の精霊についての説明・特徴が流れてきた。
しかもその説明・特徴は先ほどのお粗末な説明・特徴ではなく、きちんとまとめられた内容だった。
『わしの力でこの本の内容を全部イオリの頭に移したのだ。説明と特徴は、わしからしても内容がアレだったからわしの持ってる知識で書き換えた。』
「へぇ・・・!すごい力だな!・・・内容は書き換えてくれてホントありがとう。アレじゃなくてホントよかった。」
これで精霊図鑑の内容に突っ込みを入れながらどんな精霊がいるか頭に入れていかなくて良くなった。実にほっとした。
そしてその後、本の精霊のご厚意で「魔力の操作・応用方法解説書」と「全魔法解説書」も頭に移してもらった。
お礼として好きなだけ魔力をあげると言うと、本の精霊は俺の頭の上に乗ってきて、図書館を出るまでそこで魔力を堪能していた。
・・・なんというか、充電という言葉が合うというか、なんというか。
図書館にいたのは数時間で外に出て精霊と別れると、町中を散策して孤児院に帰った。
その夜。
居候している自分の部屋に戻った俺はゴロリとベッドに仰向けに寝転んだ。
孤児院の子供達はすでに子供部屋で寝ていて、夜なべで裁縫をしていたローエとしばらく会話したのだが、やはりこの孤児院の経済状況はなかなか思わしくないようだ。
もちろんローエが居候で部外者の俺にハッキリと「金がない」と言うわけはないのだが、会話を遠回しに経済状況を探る感じで進めるとそれとなく察せられる反応だってので、多分困窮気味であるだろうは間違いないと思う。
そうでなくても、数日寝泊まりさせてもらった様子から困窮気味なのは明らかだったのだが、問題はそんな孤児院以上に俺には金がないから、お礼として孤児院に寄付すらできないことだ。
本当はもうちょっと周りの状況を様子見て働くなり何なりとしたかったのだが、経済状況がよくないならなるべく早く出ていくのが最善なのかもしれない。
ここにいさせてもらえるのはあと数日にしよう。
明日はとりあえず金策して、町の宿をとって。
それから仕事を探して、余裕が出来たら孤児院に寄付したらいいかもしれない。
う~ん。出来たら寄付以外にもなんか出来ないかなあ。
町の宿をとったらこの孤児院に来ない、というわけではないから、ちょくちょく遊びに来て子供達の遊び相手をしたらローエが助かるんじゃないかな?
それと、後は何が出来るかな?
俺が出来ることって、精霊と話せて力借りること位だもんなあ。
・・・そういえば、一昨日まな板とかを木の精霊に頼んで直したな。
アレを・・・あそこにお願い出来ないかな?
それに、あいつをああして使ったら・・・よくないかな?
よし!早速頼んでみよう。
そして俺は自分の喉に魔力を纏わせる。
イメージは首にマフラーを巻く感じを思い描いた。
そしてしばらく纏わせるイメージをしたままにして、魔力が充分纏ったのを感じ声を出す。
『木の精霊、近くにいるなら来てくれないか?』
"纏技"の1つ「呼声」。
聞こえないものたちに声が届く技。
その声はその場にいない精霊に聞こえ、その場にいる動物・魔物に言葉が通じるとされている。
しばらくして窓を突き抜けて木の精霊がやって来た。
『やっほ~、イオリ呼んだ~?急に声が聞こえてビックリしたよ~。』
「ビックリさせたか?ごめんごめん。木の精霊に相談があって、「呼声」っての使ってみたんだ。」
『え?そなの?「呼声」って、人間が使うことができないんじゃ・・・?うん、まあ、いいや。』
木の精霊はなにやら呟いたが体全体をふって思い直したようだった。
「んで、ちょっと相談があんだけど。」
『なんだい~?イオリの頼みはなんでも聞くよ~?』
木の精霊は機嫌よく俺の周りをピョンピョン飛び回りだした。
「実はここの家の人に恩返ししたいんだ。んで、アレをああしたいんだけど―――」
『ふむふむ。それはボクの力で大丈夫だね~。』
「じゃあ、頼めるか?もちろん俺の魔力食べまくっていいから。んで、ついでにあそこもお願いしたいんだけど・・・―――」
こうしてしばらく木の精霊と秘密の相談をした。




