110話 剣と弓
「すまないイオリ。こんなことになって・・・。」
まずは打ち合いをやろうとなり、何人か剣が得意な騎士とやることになって木刀を選んでいるとベンノが苦い顔のまま近づいてきてそう言った。
「別にベンノが謝らなくていいよ。俺も自己紹介がわりにやった方がいいと思うし。」
「だが・・・恐らくバルドゥインの思惑通りになった。多分あいつは君の実力を信じず馬鹿にしていて、化けの皮を剥いでやろうと思い付いたんだろう。」
んまあ・・・思いっきりいちゃもんつけてきたからそうだろうとは俺も思ってたけど。
「だがまあ、君の実力は本物だし彼らに見せつけてやったらいいよ。特にバルドゥインには加減なしでもいいからね。」
『そうそう。あの人間には加減しなくていいわよ。まあ、あなたが加減なしでやったらあの人間、形が残んないかもしれないけど。』
光の精霊め!怖いこと言わないでよ!
さっきまで黙っててくれたのに急にどうした?
っていうか、形が残んないってどういうこと?木刀でなにすると思ってんの!?
剣が得意という騎士は5人いて、あの6人グループからは取り巻き2人がやるようで木刀を持ってこちらをニヤニヤしながら見てきていた。
俺もバスタードソードと同じ長さの木刀を手に取ろうとすると、バルドゥインから待ったがかかった。
「あんた強いんだろ?だったら木刀なしでもいいよな?」
は!?とベンノがバルドゥインを睨んで俺は首を振った。
「え、いやいや、俺そんな強くないよ。・・・あー、でもまあ、なしでも・・・やってみようかな。」
どうせ打ち合いだからヤバそうなら降参すればいいんだし、ちょっと挑戦してみようかなあ。
武器なしで相手するのは1番最初の【武術超越】が発動した追い剥ぎに会った時以来だな。
俺が軽く応じてポーンと木刀を手放すとバルドゥインはチッと舌打ちしていた。
その反応を見る限り、もしかしたら「木刀なしなんて!」と狼狽えると思ってたんだろうな。
打ち合いは1人ずつ順番に休憩なしでやるみたいだ。
「では位置について。「参りました」と言うか気絶された方が負けだからね。打ち合いなのでなるべく魔法は使わないように。」
最初に打ち合う騎士と俺は適当な距離を取り、その後に戦う4人は1人目の後ろの方に並んで他の15人の騎士たちは邪魔にならないよう下がっている。
審判はもちろんベンノだ。
『はじまるわ!私たちが見守ってるから頑張ってイオリ!』
そう言うと光の精霊は耳の精霊と少し離れたところで観戦するつもり満々で離れてった。
君たち戦わないから楽しそうでいいね!
「両者・・・はじめ!」
ベンノはそう叫んでものすごく目を凝らして俺を見てきた。
そりゃそうだ。俺はめちゃくちゃ速いからどうにかして見ようとベンノは目を凝らしているみたいだ。
「でやあぁっ!!」
おっと1人目の騎士がこっちに木刀を振りかざして来ておりますぞ。
相手せねばー。
とか思ったら発動したよ【武術超越】。
「ほいっ」
木刀を突いてきたから先を掴んでこっちに引っ張った。
騎士の体勢が崩れつんのめったところを足を掻ける。
騎士はベシャッと転けたのでうなじに超軽く手刀をした。
すると解ける【武術超越】。
「はい終わり。」
追い剥ぎの髭モジャおじさんとほとんど同じ戦い方をやってみた。
まあ、あのおじさんよりは隙がない感じがしたからちょっと気を付けて相手したんだけどね。
「「「・・・。」」」
ベンノ以外は皆ぽかーんとして口を開けて驚いている。
ベンノは「うーん、ちょっとしか見えなかった・・・。」と悔しそうにしていた。
「・・・は?終わった・・・のか?」
バルドゥインも唖然としている。
「・・・え?あ・・・、ま、参りました・・・?」
俺に倒された騎士もわかってなくて信じられないという感じで敗けを言った。
「はい、次どんどん来ていいよー。」
次の騎士に声をかけると騎士はハッとして慌てて木刀を振るってきた。
でも動揺していてブレブレ。
【武術超越】発動して倒して解いてを繰り返して3人目、4人目、5人目とやって・・・。
はい、あっという間に5連勝~。
『キャー!すごいわイオリ!』
『・・・!』
ふたりの精霊が歓声をあげて飛び跳ねている感覚がした。
耳の精霊は声は出てないけど手足をバタつかせてるようだから喜んでいるようだ。
へへへ!ありがとうございまーす!
いやー、ホント【武術超越】様々だね。
これを貸してくれていると思われるヴォルデマル神に感謝だよ。
「す、すまん、バルドゥイン。」
「アイツ、マジですごいかもしれん。全く見えなかった・・・。」
取り巻き2人はバルドゥインにそう謝りながらスゴスゴとグループに戻ってった。
「く、くそっ!・・・なんかやってんじゃないのか?強化の魔法とか。」
「それはないんじゃないのか?だって詠唱してなかったし、そんな素振りもなかったし。」
「う、うるせえ!他のでハッキリさせればいいだけだ!」
俺はそんな会話を無視しつつ、戦った残りの騎士3人に近づいた。
「いやー、ありがとう。あんたたち基本も出来ててさすが騎士は日頃の鍛練を怠ってないなって思ったよ。あんたは力が強いのか力が入りすぎかな。んであんたはここをこうして・・・あんたは・・・。」
3人に戦って思ったことを言ってみたらふんふんと話を聞いてくれた。
「すごいな・・・!実は俺、そこを気にしてたんだ。」
「お、俺も。」
「うんうん、俺もだよ。」
よかった、当たってた!
ちょっと騎士たちと話してたら偉そうにバルドゥインが来た。
「おい、次やるぞ。まだお前の実力を全部見た訳じゃねえからな。」
「次?次はなにやんの?」
「弓だ。近距離武器の次は遠距離武器だ。」
へえー、弓かあ。
俺は1回しか触ったことないなあ。
あん時は適当に射ったら魔物3体同時に倒しちゃったもんなあ。
んまあ、【武術超越】に弓術もあったし、それのおかげだろう。
「弓かあ。俺、1回しかやったことないからどうなるかなー。」
俺の言葉を聞いたバルドゥインは途端にニヤニヤしだした。
「そうか・・・!こっちは弓が得意なのがいるからな。これは楽しみだ。」
え、グループに弓が得意なのがいんの?
一応【武術超越】でなんとかなると思うけど、やっぱり強いのかなあ・・・。
弓矢を練習する訓練場は俺らのいた訓練場のすぐ近くにあって、なんにもない原っぱに的となる何重丸を書いた木製の物が5つ立てられていた。
その訓練場の片隅に練習用の弓矢があって、見ると練習用ってことでとても簡素な作りだった。
「お前は初心者用の奴でいいだろ。」
そう言ってバルドゥインが寄越してきた弓矢はボロボロで今にも折れそうな弓に素人が作ったような矢だった。
「ちょ、バルドゥイン!これはいくらなんでも・・・!」
ベンノは慌てて他の弓矢を取ろうとしたが、バルドゥインのグループが弓矢のところにわざと立ちはだかって取れなかった。
俺はじーーーっと渡された弓矢を見た。
「・・・うん。ベンノ、大丈夫だよ。多分できると思う。」
「ええっ!?で、でもいくらなんでもその弓矢は・・・。」
「だいじょぶだいじょぶ。なんつーか、できる気がするんだよ。」
これは口では説明しづらいけど、なんとなくうてると思うんだ。
それは俺のただの勘なのか、【武術超越】から来る感覚なのかわからないけど。
まあ、壊れたら壊れたで弁償すりゃいいよね。安そうだし!
「イオリがそう言うならいいけど・・・。」
ベンノは俺のよくわからん自信に心配しながらも一応は納得してくれた。
弓矢の得意な他の騎士たちも次々と弓矢を取って、どうやら弓矢も5人やるようだ。
そのうちの1人がバルドゥインの取り巻きだ。
騎士たちは俺とは違ってきれいな弓矢を取って気合いを入れていた。
「弓矢は1人1的で的から30メートル離れたところから射ってもらう。左から1人ずつ順番に矢を3本連続で射ってってもらって、より真ん中の丸の中央部分にに多くさした者が優秀ということで。」
ベンノの説明を聞き終わった騎士たちはさっさと的を決めると距離を取りだしので俺も慌てて的を決めて距離を取った。
俺は1番右の的になったので、順番は最後だ。
「では・・・はじめ!」
ベンノの号令で左から順番に射っていき、1~4人目まではまあまずまずの出来で真ん中の丸に皆当たってたけど、ど真ん中という訳ではなかった。
ターンターンターン
そんなリズムのいい音をさせて隣のバルドゥインの取り巻きの騎士が射った。
3本の矢は的の中心に全部刺さってて、ものすごいドヤアだ。
よし!俺の番だ!
俺は他の騎士たちの動作を真似て前に弓を使った時を思い出しながら的を狙った。
するとまたまた発動【武術超越】。
うーん、弓はやっぱりよくわからん。
なんとなーく中心はここかなってとこに矢の先を合わせてみるものの。
これで3本連続ってどうやんだろ?
まあいいや。【武術超越】さんお願いしまーす。
えーい
ターンスコーンスコーン
【武術超越】が解けたので見てみると。
なんと1本目の矢は的の中心に刺さって2本目の矢も中心で1本目の矢を割いて刺さり、3本目の矢も中心で2本目の矢を割いて刺さってた。
「わー、すげえ!初めて見た!」
はしゃいじゃった俺に対し全員がぽかんとしていた。
次回、チャラ馬再び(笑)




