109話 マウント効かず
ロディオータの案内で訓練場にやって来ると、前に来た時とほとんど変わらず騎士たちは訓練に励んでいた。
「あ、あの集団だよ。」
訓練場の一角に20人の騎士たちが集められて並んで立っていた。
20人の騎士たちの前には1人の騎士がいて、説明しているようで20人に向かってなんか話していた。
あれ?説明してる騎士の人・・・。
「やあ、集まってくれたようだね。」
ロディオータが説明している騎士に話しかけると、騎士は話をやめてロディオータの方に一礼した。
「はい、今説明し終わったところです。」
そして騎士は俺にニコッと微笑んできた。
「やあ、この20人を今回まとめることになった第一討伐部隊副官のベンノ・リューベックだ。杖の恩返しに君をサポートできたらと志願させてもらったよ。」
説明していたのは俺が杖をあげたあの騎士だった。
杖の恩返しに俺のサポートだなんて真面目な人みたいだなあ。
ベンノは20代前半くらいの紺の真ん中分けの髪に水色の目のちょっとだけ影が薄めの青年だ。
「さっそくだけど皆に挨拶しようか。」
え、挨拶!?
並んでいる20人はずいっと俺を見てくる。
ええー、俺挨拶するって、なに言えばいいんだ?
「え、えーと、ハンターの庵です。こ、こんな若造ですけどよろしくお願いします。」
そう言って一礼すると騎士たちは「「よろしくお願いします」」と一礼してくれた。
騎士たち20人はどうやら「大群」の時に参加してなかった人ばかりらしい。
そのため懐疑的な目で俺を見てくる。
まだ上司のロディオータがいるからあからさまな感じではないけどね。
「んじゃあ、俺は事務作業が残ってるからこれで。わからないことはベンノに聞いたらわかるよ。」
ロディオータはそう言って颯爽と去ってった。
ロディオータが去るとちょっと気が緩んだ空気になった。
「な、なあ、これからなにやればいいの?ベンノさん。」
「さん付けしなくていいよ。とりあえず皆の実力を見てもらったらいいかなと思ってるんだけど。これ皆の基本的な資料だよ。」
そう言ってベンノはペラペラの紙を渡してきた。
見ると20人の似顔絵付きの基本的なプロフィールなようで、名前と年齢、所属先と得意武器、魔法と基本情報が数行書いてあった。
「えと、この所属先って?」
「この騎士団は第一・第二討伐部隊と警護部隊と救援部隊があって、その各部隊からロディオータ様が選んだから所属先も書いてるんだ。因みに僕は第一討伐部隊の部隊長の副官だよ。」
「へえ!副官なのか!道理で魔法が強いと思ったんだよー。」
「いやいや、君ほどではないよ。」
苦笑しながらも嬉しそうなベンノ。
あ、副官と知らずに俺、馴れ馴れしい喋り方してるけどいいのか?
それを聞いてみたら「別に気にしないからいいよ」と言ってくれた。
「あー、だりー。」
並んだ騎士たちの後ろの方からそんな声が聞こえてきて、だるそうにしている騎士がいた。
見たところ6人くらいがだらけだして、6人とも背が高いけど筋肉もほとんどついてないような人たちだ。
他の人たちは動きやすいように白シャツをきれいに上まで止めて黒のズボン姿なのに、その6人はロディオータが去った途端にシャツのボタンを緩めている。
あの人らは?
資料を見ると・・・おっと6人とも貴族でサボりで有名な人たちらしい。
「ちょっとバルドゥイン。姿勢を正してくれないか。」
ベンノが苦い顔をして注意をしたが、全く聞くつもりもないようで6人は鼻で笑っていた。
「つかベンノ、なんで俺たちがこんなガキとやりあわないといけないわけ?」
6人のうちの1人がそうベンノに返事した。
どうやらバルドゥインと名指しで言われた人なようで、資料によると6人のリーダー的な人物のようだ。
「つか俺たちこの後、アビロ商会の受付嬢との合コン控えてんだよね。だからここでチンタラやってる場合じゃないわけ。わかる?」
バルドゥインがそうニヤニヤしながら言ってきた。
「アビロ商会?」
「ぶはっ!え、なに、アビロ商会知らねえの!?」
6人は俺を見下してクスクス笑ってきた。
「そりゃそうか。アビロ商会は貴族専門の店だから、庶民が知るわけねえか。」
「あの店知らないなんてマジで可哀想だわ。」
そう言ってくくくと笑う6人をベンノを始め他の騎士たちは冷めた目で見ていた。
なんかあれだな。クラスでイケてるグループの変なノリを見させられてて周りは冷めてるのにイケてるグループだけ笑ってるみたいな?
「ごめんなさーい。俺アビロ商会に興味ないからどうでもいいかな。んでベンノ、実力を見るって実際にどうすりゃいいの?」
「やはり戦ってみるのがいいと思うんだが・・・。」
「は!?勝手に話を進めんなよ!?」
なんだろう、こういう人たちってクラスの中心じゃないと気がすまないのかね?
俺が通ってた学校でもあったなあ。
もちろん俺はつるむ友人もろくにいなかったからそうい人たちとは関わってなかったから冷めてる方だったけどね。
「正直俺たちは疑ってるわけよ。お前みたいなガキが本当に騎士団長が気に入るような実力持ってんのか。」
「彼の噂は聞いてないのか?イオリの強さは僕たち「大群」の時に参加した者が散々言っていただろう?それに本当だからロディオータ様は気に入って城からも褒美が出たんだぞ。」
「噂は噂だろ?俺たちはちゃんと見ないと信じられない。」
「ではどうしろと?」
ベンノが怪訝な顔で聞くと、バルドゥインはニヤリと笑った。
「どんだけなもんか俺らにも見せてくれよ。俺らだけ見られるのって不公平じゃね?」
ということで、俺も実力を見てもらうことになりましたー。
俺としても偉そうに相手してああだこうだ言うつもりはないし、自己紹介がてらこんな人間ですってわかってもらえるかなと思って即OKした。
それにバルドゥインたちが面倒臭い感じだから従っといた方がいいかと思ったしね。
「どうせなんかイカサマしてるだけだろ?それ暴いてやるよ。フェンネル伯爵家嫡男の俺様の目は誤魔化せないぜ。」
バルドゥインはそんなことを笑いながら言ってきた。
っていうか、伯爵家の嫡男なのか。
資料を見ると確かにそう書いていて、他5人は子爵や男爵の嫡男とか次男とかだった。
どうやらこの5人は取り巻きかな?
因みにベンノも伯爵家の嫡男で、お互いに小さな頃から顔見知り程度で知ってたらしい。
だからバルドゥインは上司になるはずのベンノにタメ口だったわけだね。
「いいことを教えてやろう。俺はこの間起きた貴族街の窃盗事件の犯人を捕まえたんだぞ。」
「はあ。」
「後、魔物の討伐にも何回も出ている。ジャイアントスネークだって倒したことがあるぞ。」
「はあ。」
「他にも解決した事件は両手ではおさまらんほどだ。その中でも特に活躍したのは・・・」
「ふーん。そんなに解決してるならなんで副官とかになってないの?」
ズバッと芯を食ってしまったのかバルドゥインは固まった。
「あの、もういいかな?早くしないと合コン遅れるよ?」
貴族街の窃盗事件なんて聞いたことないし、ジャイアントスネークなんてたくさん倒してるし。
なんか知らんけどバルドゥインは地団駄踏んでいた。




