102話 のんびり依頼
「つーことで、騎士団にたまに行くことになったんだよ。」
プチプチ
「ロディオータさんからは騎士たちに指導してくれって言われたんだけど、俺さっぱりでさ。」
プチプチ
「まあ、依頼出してくれるって言うし、やってみようかなーって思ったんだけどねえ。」
プチプチ
「・・・ちょっとイオリ!うるさいんだけど!採取してんだから静かにやりなさいよ!間違えたものを採取したらどうすんのよ!?」
そう言ってエティーはプンスカ怒りだした。
「わはは、ごめんごめん。エティーと一緒の依頼は久しぶりだから話すこといっぱいあってさあ。」
せっかく久しぶりにこうやって話す機会に恵まれたんだから、その間の色々あったことを話していたらなんだかしゃべり過ぎたようだ。
「でも、しゃべってるけどちゃんと採取はやってるよ。今のところ間違ったのは採ってないし?」
ほら、と俺の採取用マジックバッグの中身を見せるとエティーは覗き込んでぐぬぬと悔しそうにしていた。
「なんで私より多く採ってんのよ・・・!悔しい!」
そう言ってエティーは両手でプチプチ採取しだした。
俺が王城に行って王様と謁見してしばらくして久しぶりに依頼をやろうとハンターズギルドに行くとエティーと護衛のおっさんたちがちょうど依頼をやろうと掲示板を見ていたところを見つけて、前々から一緒に依頼をやろうと約束していたから一緒にやる?ということになった。
だけどあいにく討伐依頼はなくて皆で話し合って「色んな草の採取依頼」を受けた。
「色んな草の採取依頼」というのはある錬金術師からの依頼で、様々な薬の材料となる草を数種類、しかも結構な量を採ってきてほしいというもの。
その数種類の草を使って様々な薬を作って道具屋に納品しないといけないんだそうだ。
指定された草は町から北西の森の中や西の草原とかに生えている物が多かったのでまずはと北西の森に行って採取して、続いて西の草原に生えている草を皆で手分けして採ってる最中だ。
因みに俺が王様と謁見した話はあっという間に町に広まって、さらに商人がわらわら来るかなと思ったが、数日後に恐る恐る町に行ってみたらまったく追いかけられることがなくなった。
どうやら王城と関わりを持ったと思われたみたいで、追いかけたら王城に苦情を言うのではないかと思われたらしい。
それでなくても俺に嫌がられて避けられているのはわかってたみたいで、追いかけ回すのはどうかとやっと商人たちの間でなってくれたようだ。
ハンターたちはしばらく俺を追いかけないうちに落ち着いたようで追いかけてこなくなっていたが、今でも俺がパーティに入ってくれないかなと心の中で思っているハンターはわらわらいるらしい。
「あ、エティーそれポロポロ草だよ。」
「えっ?パルパル草じゃないの?」
「葉の形が微妙に違うでしょ?パルパル草はもっと細い感じだよ。」
「じゃあ、これね。」
プチプチ
「あ、それラプラプ草。」
「えっ!?これも違うの!?」
「ポロポロ草の亜種で似てるからね。因みに似てるので言うとハロハロ草、ナヤナヤ草、ケキケキ草それから・・・」
「ちょっと!!なんでそんなに似てるのあるのよ!?パルパルとかハロハロとか頭がおかしくなりそうじゃないの!?」
エティーはキーと怒りだした。
あらあら、怒りっぽい女の子はモテないよ?
「しかもなんであんたそんなに詳しいのよ!?」
おっと、矛先を俺に向けてきた。
「ええっと・・・。」
それは・・・
『あ、あそこにあるのはポロポロ草でその隣がパルパル草よ。』
密かに草の精霊を呼んで教えてもらってからでしたー。
でもまあ、もちろんそんなことは言えないわな。
「なんかわかんないけど見たらわかるんだよー。記憶がなくなる前に詳しかったんかもな。」
「そういえばあんた、記憶喪失だったわね。草に詳しいって・・・学者か錬金術師かしら?」
エティーには前に記憶喪失だと言っていたからそれで誤魔化せた。ホッ
「もう疲れた・・・。似たような草ばかりもう見飽きたわ。」
「だったらパーティーのおっさんたちの方に行ったら?あっちはヤクソウモドキって草探してるから。」
エティーの護衛のおっさんたちは少し離れたところでヤクソウモドキという草を採取している。
『ヤクソウモドキにも色々あって、ホボヤクソウモドキとかケッコウヤクソウモドキとかあるわよ。』
なんだそのネーミングは。
ほぼとか結構とか変わんねえんじゃないの?
『ケケケ!草なんて俺が刈ってやろうか?』
今日の俺の担当?の剣の精霊がなんだか物騒なことを言ってくる。
「あっちに行っても草じゃない!あー!魔物と戦いたい!」
『そうだそうだ!草取りなんてつまんねえから魔物狩ろうぜ!』
『あら!つまんないことはないわよ。例えばこのシャギシャギ草は・・・』
皆さんちょっと静かにしてくださいます?
ガサガサ・・・
草を踏む音がして、見るとホーンラビットがいた。
「いたー!」
『魔物狩りだー!』
エティーは採取用のマジックバッグを放り投げて喜び勇んでホーンラビットに突撃して行って、面白がってついていく剣の精霊の声がした。
君たち気が合うね。
もしエティーに精霊の声が聞こえていたら友達になってたかもね。
俺はエティーが投げた採取用のマジックバッグを拾って中身を一応確認。
『あらあら、違う草が混じってるわね。』
そうですか。
エティーは採取みたいなチマチマしたのはあんまり好きじゃないんだろうな。
俺は草の精霊に聞きながらエティーの採取用のマジックバッグの中の草を整理して違うのは捨ててあげた。
そうしているとちょっとすっきりさせたエティーが倒したホーンラビット2匹持って戻ってきた。
・・・ん?2匹?
「ホーンラビットが途中で逃げたから追いかけたら逃げた先にもう1匹いたの。」
そうですか。
それからは採取に飽きたエティーは草原の近くの森に突っ込んで行って魔物を狩っては俺のところに持ってきた。
俺が自分用のマジックバッグを持ってるのを知ってて、それに入れといてってことらしい。
後でギルドで全部買い取ってもらうつもりなんだろう。
まあ、リンクのおかげで入れ放題だからいいんだけどね。
俺は草の採取をしつつエティーの獲ってきた魔物の血抜きをやりつつリンクに入れたりと忙しい時を過ごした。
護衛のおっさんらはヤクソウモドキを地味にたくさん採ったようで採取用のマジックバッグがパンパンになったらエティーの護衛に戻って、森と草原を往復するエティーをハラハラしながら追いかけていた。
そうして夕方になり、俺は採取を終えて満足したエティーも魔物狩りを終えた。
依頼者に依頼された量は採れたし完了ってことで、ギルドに向かうことにした。
「あんたあれからずっと1人で採取してたけど、採れたの?」
「もちろん採れたよ。」
「その・・・ずっとやらせて悪かったわ。てっきり、依頼だからやれって言ってくるかと思ったけど・・・。」
エティーはすまなそうな顔をしてチラチラ俺を見てきた。
「エティーああいうチマチマしたの苦手なんだなって思ったから、無理にやらすのもどうかと思ってさ。人には向き不向きがあるから、どうしても向いてないのって出てくるもんだよね。それを無理にやっても楽しくないだろうしやらせてる側だって楽しくないもんね。」
「・・・あんた変わってるわよね。私は魔物を狩れて満足だけど、あんたはずっとチマチマやって。損してるようにしか見えないわ。」
「そうでもないよ?戦って持ってくるエティーの方が重労働だったろうけど、依頼じゃないから報酬なんて発生しないじゃん。まあ、狩った魔物を買い取ってもらうお金が報酬にはなるけどね。一方俺はしゃがんで草原の草むしってなんてのんびりやったしそれで依頼の報酬もらえるんだから楽だったよ。魔物の血抜きとかはやったけど血が抜けるまでほっといたらいいだけだし。」
「そ、そうなの?」
「モノは考え方次第で良くも悪くも見えるってこと。」
後ろを歩く護衛のおっさんたちもなぜだな感心したように頷いてきた。
「あんた・・・本当に変わってるわ。」
少し考え込んだエティーはそう呟くとふっと笑った。
いつもの、人をちょっと馬鹿にしたようなツンな笑顔じゃない柔らかい笑みに不覚にもちょっとドキッとしてしまった。




