10話 図書館にて
こちらの世界、ユーティリアに来て3日目。
俺はこの日、午前中は引率者として子供達と原っぱでの遊びに付き合い、午後から町の中を1人で歩いていた。
完全よそ者の俺が町に行ったとして絡まれたりしないか?と少し不安に思っていたのだが、昨日ローエ達から色々と町を案内してもらったことでなんとなく町の雰囲気が大丈夫な気がして、今日は1人でやって来てみた。
向こうではやたら道で絡まれたからなあ、と苦笑。
因みに子供達は午後から孤児院で文字の読み書きの勉強が夕方まであり、先生はローエらしい。
1人になったことで何をしよう?と思ったとき、俺はあることを調べたいと思い立ち、それもあってあえての単独行動だった。
そして調べるとなると、知識がある所といえば・・・で思い付いたのは図書館。
ローエに大まかな場所を聞いて向かってみると、他の建物と造りが違うし大きさも違ったのでよそ者の俺であってもすぐわかった。
建物は神殿のような造りで、どこかで見たことあるような海外の博物館そのままだなあ、と思わず感心して見上げてしまった。
しばらくほへーっと見ていたら、精霊に見つかった。
『うん?あれは、イオリではないか?』
『あら、ホント。』
直ぐ様、周りに人がいないことを確認して目に魔力のコンタクトをつける感じで「視て」みると、足元にこちらを見上げる足が生えた本の姿をした精霊がいて、目の前には風の精霊がいた。
「あ!・・・もしかして砂漠で会った風の精霊?」
本当になんとなく、砂漠で会った風の精霊と同じ感覚がした。
『あらあら、すごいわね。そうよ、よくわかったわね。』
「うん。なんか感覚でわかった。一昨日はありがとう、見ての通り何とか町に来れたよ。」
『どういたしまして。』
風の精霊はそう言って微笑んでくるりと回った。
そして足元に視線を移す。
「えと、はじめまして。その姿から・・・本の精霊とか?」
『いかにも。わしは本の精霊だ。事情は知ってるぞ、難儀なことだな。』
「難儀と言えば難儀だけど、それなりに楽しいよ。」
そう言って苦笑すると、本の精霊は目を細めた。
「ところでここでなにしてんの?」
『暇してたの。』
ということで、精霊2人は俺について来た。
まあいいや。俺の調べものに精霊としての意見も聞きたかったし。
図書館は外見通りに中も神殿の造りで、壁が全て本で埋まっていた。
巨大な本棚がいくつもあって、一見してお目当てのコーナーを探すのも一苦労するような広さと本の量だった。
出入口隅にあった受付に向かうと司書の女性がにこやかに応対してくれた。
この王国が経営する図書館なので利用だけなら無料とのこと。
借りるとなると身分証がいるらしいがそれがないなら誓約書を書いた上で1冊100G~借りられる。
返却は一律1週間だが、返却されないと窃盗罪で罰金刑、損傷した場合は弁償、とどっちにしてもやらかしたら金を取られるということだ。
探してる本のコーナーついて聞くと、奥まった所だった。
奥に進むと窓際の所々にテーブルと椅子があり、そこで1人で勉強や調べものをしている人達がちらほらいた。
お目当てのコーナーで本を2冊ほどとって、なるだけ人が周りにいないテーブルと椅子をしばらく探してそこに座った。
内容を聞かれたくないのと、精霊に意見を聞くときに、はたから見たら独り言を言ってるように見えるので不審がられるのも面倒だったからだ。
とってきた本をテーブルに置く。
「全魔法解説書」と「精霊大図鑑」である。
どちらも20センチあろうかというほどの分厚い本だ。
風の精霊はどうやら俺の肩に座り、本の精霊はテーブルにこちらを向いて座ってる感覚がなんとなくした。
『どうしてその2冊なの?』
「どっちも俺の世界になかったから、勉強がてらどんなのがあるか見てみようかなって。」
そう言ってまずは「全魔法解説書」を手にとって中を見てみる。
中は一つ一つの魔法についての細かな説明・呪文の詠唱方法・使用上の注意などが書かれていて、あいうえお順ではなく、ページが前のものほど簡単な魔法でページが後になるほど難しくすごい魔法、という順で載っていた。
俺が一番気になる魔法を探してページをめくる。
精霊の発言から結構な魔法なのはわかってるので、ページの最後の方からめくっていくと数分でその魔法を見つけた。
「お、・・・やっぱりすげえ魔法なのデスネー」
俺は思わず心の籠らない感想を言っていた。
その魔法は『スピリットコンタクト』という名だった。
精霊と言葉を交わす魔法。
とんでもなく魔力を消費し、尚且つ魔法が発動中は常に魔力を消費し続けなければならない。
魔力消費の膨大さから発動に挑む者はいるがほとんどが発動失敗におわっている。
成功者は現在のところ8名。
その中でも最強最高位の魔法使いと言われているクープーデン氏が最長10分の記録をもつ。
うわー、ホントにムズい魔法じゃねーか。
あまりにも普通に話せるから今いち実感持てないんだけどなあ。
続けて精霊を「視る」魔法を探すが、なぜか見当たらない。
『あ、イオリ。私が教えた精霊を「視る」奴を探してるの?あれは厳密には魔法ではないわ。』
「え?魔法じゃない?」
『わしが取ってやろう。』
本の精霊がそう言うと、俺が先ほど2冊取ったコーナーと同じ列の1冊の本がひとりでに浮き上がり、空中を滑るようにこちらに来て、机に音もなく置かれた。軽くポルターガイストである。
「なになに?・・・「魔力の操作・応用方法解説書」?」
本のタイトルに俺が首を傾げると、本の精霊が説明してくれた。
『そう。イオリは知らないみたいだが、魔力は操作できるのだ。魔力は操作せずそのままにしていると体から駄々漏れしてすぐ魔力枯渇になり、気を失う。そのためこちらの世界の生物は産まれて直ぐに体から駄々漏れしないようにする魔力操作を無意識に学ぶのだ。』
「!?・・・ちょっと!もしかして俺が魔力駄々漏れ状態なのって!?」
『イオリはこっちの世界の者ではないから魔力操作など知らないだろう。駄々漏れしていて当たり前だ。』
しかし、それを聞いてすぐに疑問が浮かぶ。
駄々漏れ状態ならすぐ魔力枯渇になって気を失う、のならばなぜ俺は気を失っていない?
こちらに来て一度気を失っているが、それは日射病だからだし。
その疑問に答えたのは、今度は風の精霊だった。
『イオリは魔力枯渇する気配がないほど、魔力が溢れまくってるのよ。何でそんなに魔力が溢れまくってるかはなぜだか私たちにもわからないわ。』
駄々漏れの原因はわかったが、今度は溢れる魔力の謎ができた。
もしかして異世界の人間特有のものなのか?それとも俺自身の特有なのか?
どちらかまたはその両方か?
どれにしても今の段階では判断材料が少なすぎてわかんねえや。
んでまあ、それは置いといて。
『話が逸れたが、イオリが精霊を「視る」アレは魔力操作の一種なのだ。その本の26ページを開いてみよ。』
「あ、うん。」
言われた通りページを開いてみると、魔法操作の応用編を紹介する内容だった。
魔力を体に纏わせる"纏技"。
魔力を体に纏うことで様々な効果を得られる操作方法の応用で、精霊を呼び出し彼らの協力のもとで行う通常の魔法とは異なり、自身の魔力だけでできるので、精霊を呼び出す必要性はない為、呪文の必要性もなく魔法より容易に発動可能である。
纏技には、全身に纏うものと体の一部に纏うものの2種類がある。
全身に纏うものは「魔力鎧」と言われ、攻撃力・防御力・速力が通常より倍~数十倍上げることが可能。
それに対して、体の一部に纏うものは体の部位・場所によって効果が変わる。
例えば、目に魔力を纏うものは「真眼」といい、見えざる者の姿を見ることができる。
「あっ、これ・・・。もしかして?」
『そうそう。私が教えたのはこれよ。魔法と違って私達精霊がいなくても使えるから、使いやすいかなって思って。』
続きを読むと、色々と体の部位によっての効果をつらつら書かれていた。
読み進めていくと、文章の下の方に※があった。
※「纏技」については以上が開発されてはいるが、現在「魔力鎧」を使える者は確認されているものの、それ以外の技は理論的には可能であるが、魔力の量が桁違いなのと操作が難しいことから今のところ体得した者はいない。
なんですと???




