閑話 あの後のお城では
三人称視点です。
「クープーデン殿、相談がある。」
王城のクープーデンの部屋。
骸骨やら水晶玉やら怪しい調度品ばかりが部屋を彩るこの部屋に訪ねてきたのはローワン王国の国王テオドール・ピエト・ローワンであった。
40代ぐらいの少し長めの金髪に細い目は碧眼で、いつも柔らかい笑みを浮かべている。
額には赤や青の宝石が輝く銀のリング状の王冠を被り、大きな赤いマントを羽織っている。
その国王がため息混じりにクープーデンの部屋にやって来たのだ。
国王がクープーデンに向かい合う位置にあるソファに腰掛けるとすかさずメイドが紅茶をだした。
「どうしたローワン王。難しい政策でもあるのか?」
「難しい政策があったら宰相に相談する。・・・クープーデン殿は、先日の「魔物の大群」のことは聞いておろう?」
「聞いているというか、城中・・・いや町中でもその話題しかないくらいに持ちきりじゃな。」
先週、歴史的にも大規模な「魔物の大群」がまったくの被害がないまま姿を消したのは今ゲキアツの話題だ。
突如現れた「魔物の大群」の出現や消える謎をあっという間に解き明かし、軽い気持ちで世界樹を出し巨大な空間魔法をあっさり魔界と繋げ、風魔法で魔物を追いやるため疲弊する者たちに飲み物を差し入れし、さらに風魔法を被せて魔物たちを魔界に飛ばし、アスピトケロンを棒切れで吹っ飛ばしたハンターの庵。
彼はマンティコアを倒したことも記憶に新しいのに、そんなとんでもないことの連続をやってくれたのだ。
ここまで詳しく広まったのはその場にいた騎士たちとハンターたちの仕業である。
騎士たちは城に帰り、ハンターたちは町に戻ったのだが、それぞれが周りに事の顛末をしゃべりまくってあっという間に広がったのだ。
なので、城では前に1度来たときに対応したメイドが「私が彼に紅茶を出した」と自慢するほど話題沸騰で、町でも「当店にイオリが来ました」とポップを出す店まで出る始末。
元々、しばらく町内での簡単な依頼をやってたこともあって庵の顔を知ってるという町の人はちょこちょこいて、さらにマンティコアの1件で顔が知れていたので今回のことでさらに話題となって知名度は爆増した。
「そう・・・。それについて貴族が騒ぎだしたのだ。「その一連での立役者であるハンターに国王は褒美をやるべきではないのか」と。」
クープーデンの真っ黒なもやの顔に浮かんだ黄色い2つの光が歪んだ。
自分が王様のように小うるさい貴族がいることは、政策にまったく関与していないクープーデンでさえも耳にしていた。
「面倒じゃのう。・・・だが、確かに。「魔物の大群」の謎を解明し怪我人も出ない方法も編みだし、尚且つアスピドケロンを吹っ飛ばしたんじゃから、なにか褒美もならねばのう?あやつがおらんかったらどこかの町か城に被害は確実に出ていたじゃろうからのう。」
小うるさい貴族の戯れ言と一蹴にできないのは、少なからず正論も混ざっているからだ。
「やはりそうか・・・。ん?あやつ?クープーデン殿、もしかしてそのハンターを知っておるのか?」
クープーデンの目は横に細長くなった。
「ふぉっふぉっ、最近あちらから会いに来てのう。なかなか・・・いや、とんでもなく面白い若者じゃぞ。」
「ええっ!・・・うらやましい・・・。」
テオドールはそう呟いた。
「クープーデン殿が言うなら絶対に面白い逸材ということだろう?ああ、謁見の場ではなく個人的に会ってみたいなあ。・・・いや、そんなことをしたらファルネに何を言われるか・・・。」
テオドールはなにかを悩みながらもブツブツと呟いた。
「ローワン王も苦労するのう。妻の王妃がああも気が強すぎると息がつまるのではないかえ?」
「そうなのだよ!いつもいつもド正論で論破してきて・・・はっ!い、今のはなんでもない!なんでもないからファルネに報告しないでくださいお願いします!!」
テオドールは話の途中から大慌てで天井に向かってなにやら叫んでいた。
しばらく天井に向かってなにかを弁明していたテオドールはやっと落ち着いたようで、紅茶を飲んだ。
「そ、それでだな。そのハンター・・・イオリと言ったか?その者を王城に呼んで此度の褒美を渡そうと思っていての。それで、何がいいかと相談に参ったのだ。」
国としてはここまで被害がでなかった「魔物の大群」はなく、文字通り町や城を救ったことになるので褒美を授けることに異論はなかった。
「まあ・・・金銭か爵位かもしくはその両方がいいと思っているのだが。」
「爵位はならん。」
クープーデンはしっかりと断言した。
あまりの断言っぷりに、テオドールは目を丸くした。
「え!?爵位はいかんのか?なぜ?」
「・・・わしの考えが正しいのであれば、爵位を与えてはならん。恐らくあやつはほしくはないと嘆くかもしれん。そうすれば・・・ヘタをすれば国が滅ぶぞ。」
「は!?国が滅ぶ!?」
テオドールは信じられないという顔でクープーデンを見た。
クープーデンは黄色い2つの光がまっすぐこちらに向いて、真剣な雰囲気を出していた。
隅に控えていたクープーデンの執事やメイドでさえ、ぎょっとしてクープーデンを見つめていた。
クープーデンは庵と会って話を聞いた際に「精霊たちが超協力的」ということを話していたのを覚えていた。
庵は異世界では普通の暮らしをしていたようで、話を聞いた限り身分は平民と思われる。
それがこの世界に来て、急に帰ることになる可能性があるのに、馴染みのない爵位を与えられても困るだろうと判断したのだ。
与えてしまって、もし嘆くことがあれば・・・精霊たちは間違いなく彼を哀れんでどうにかするかもしれない。
・・・それが、ヘタをしたら国が滅ぶ、ということだ。
・・・なぜだが、周りを浮遊している玉の1つが不自然にふよふよ上下に動いている。
たしか・・・イオリが来たときもこういったことがあったな・・・。
精霊が見てる、ということか?
「・・・詳しくは言えんが、間違っても爵位を与えてはいかんぞ。それ以外か・・・あるいは謁見の際に本人に希望を聞いてみるのもええかもしれん。」
「・・・わ、わかった。」
「もし与えたらイオリはこの国から出ていくかもしれん。わしもローワン王を見限ってこの国を去るかもの。」
「!?」
テオドールは途端に顔を真っ青にした。
「クープーデン殿が去られたら困る!結界が無くなってしまう!」
「そうじゃそうじゃ。・・・それに、王妃の愚痴を聞いてやる者もおらんなったら、ローワン王はもっと困るのう?」
「それは本当に困る!!」
テオドールは断言した後に「・・・あっ!!愚痴言ってません!すいません!」と慌てて天井に向かって叫んでいた。
ストーカーがやり取りを聞いてたよ。




