9話 町へ~食事情・・・と?~
ローエ達はその後もいくつかのオススメの店を教えてくれた。
「価格で言うとこことあそこの宿屋が・・・」「武器屋と防具屋はここが・・・」「あの店は値段が安いけど品質が悪い・・・」等々。
そんな中でも合間に買い出しをしていき、安いなかから量の多いものを直ぐ様選び、尚且つ値切りをし子供達が迷子にならないように見てる恐ろしい子、ローエ。
肉屋に立ち寄って買い出しがてら俺に肉についても教えてくれた。
この世界でも牛・豚・鶏・羊等の肉は一般的なのだが、あっちの世界と大きく違うのは「動物肉」か「魔物肉」かに別れているという。
この世界にも動物はいるのだが、9割が野生なんだそうだ。
放牧・畜産技術はそれなりにあるのだが、魔物や盗賊による被害が多く、実際にできているのは各国の王族かよっぽどの貴族かくらいしかできないとされているそうだ。
動物達も魔物が溢れる世界なだけに野生の中でものすごく強靭な進化を遂げ、今では魔物も太刀打ちできない動物もいるらしい。
こっちとあっちの世界の動物と見た目は特徴などを聞く限り変わらないっぽいのだが、その進化?のおかげか?か、動物の肉はとんでもなく美味く、またその味と入手困難さから価格はとんでもないことになっているらしい。
一方で、その動物肉に手が出ない庶民の味方でもある代用品が、魔物肉だそうだ。
もちろん、魔物の中には食べられない魔物肉もあるらしいが、食べられる魔物の肉だけとしても、世界でもそこらじゅうにいるし種類もミノタウロス(牛肉)、オーク(豚肉)、コカトリス(鶏肉)だけでなくヘビ・カエル(鶏肉に近い)等々あり、魔物のレベル(S~F)が高いほど美味いと言われているらしい。
価格も動物肉の豚バラ100gが1万Gだが、魔物肉のオーク肉バラ100gは200Gと、庶民には魔物肉の方が買いやすくそのため馴染みがあることから、庶民には魔物肉の方が主流なのだそうだ。
因みに魔物と動物の違いは体内に魔石を有して魔法が使えるのが魔物で、体内に魔石がなく魔法が使えないのが動物であるそうだ。
そう俺に教えたローエはオーク肉のブロックをまとめ買いして俺が持ち、次の店となる八百屋に向かった。
そして八百屋でも野菜と果物について教えてくれた。
どうやらこちらの世界に四季はないみたいで、したがって1年中旬という状態のようだ。
そのため野菜・果物はたくさんの種類の物が常に並び、あちらの世界と同じニンジン・キャベツ・タマネギ・ジャガイモ・イチゴ・オレンジ・バナナ等はもちろんのこと、店頭で見る限りタケノコ・クリ・イモ・キノコ等の季節のものも一年中売っているようだった。
価格も仕入れによって毎日安いもの高いものがあるが、全体的にあちらの世界と比べると若干安いかなという程度だった。
野菜も果物も各店で契約農家がいるそうで、近隣の畑などで育てて産地直送かまたは貿易や取引で毎朝たくさんの農作物が町に搬入されて来るそうだ。
ここでもローエは安くなっているものを中心にたくさんの野菜・果物を買って店を後にした。
流石に俺1人では全部は持てない量だったので、皆で少しずつ持ってこの日は孤児院に帰ることとなった。
その帰り道に魚屋があったので、そこでも魚について教えてもらった。
魚は肉と同様に「通常魚」と「魔物魚」があるが、こちらは2種類の魚に価格も味も差がなく結構な種類もあって、あっちの世界と変わらずで鮪が人気で、旬がないので鰻も秋刀魚も一年中食べられているみたいだ。
エビ・カニ・イカ・タコ・貝類等も普通に食べられ、深海魚は知られていないようだった。
魚屋では今日は魚料理はしないとのことで買い物はしない、とのこと。
それからついでにと、穀物について案内と説明をしてもらった。
穀物は小麦・大麦・ライ麦等の麦系が主で、調味料や日用品なども売っている雑貨屋に売っているそうだ。
そして雑貨屋の近くには共同の釜場があり、そこで近所の人達が各自の家庭で食べるパンやパイ等を作るのが一般的なのだそうだ。
ローエは昨日、数日分のパンをまとめて作ったそうで、今日は作らないとのこと。
因みに町にパン屋はもちろんあるので作る時間がない、男手は作るより買った方が手っ取り早いという考えの者達のおかげで結構繁盛しているらしい。
ついでに調味料については塩・砂糖・バルサミコ酢・オイスターソースなどの洋食の調味料ばかりあるみたいだ。
したがって料理はもちろん全て洋食となる。
うーん、俺としてはパンもいいけど、米・味噌・醤油がないのがなあ・・・。
あっちの世界にいたときは両親が洋風好きだったから、元々そこまで和食食べない生活だったけど、ないならないで欲しくなるこの心境よ・・・。
和食が恋しくなるって、前読んだことある異世界転生系のラノベであったけど、あるあるなんだなあ。
まさか自身で体験する羽目になるなんてなあ。
異世界に来て2日で早くも和食が恋しくなった。
ちょうどその頃、ある場所ではある男が苛立っていた。
「どうなっておるのだ!?アレを召喚する儀式をして2日、なんの音沙汰もないではないか!!??」
「まあまあ、落ち着いて下さい。」
真っ黒なローブに身を包んだ男が怒鳴ると、同じく真っ黒なローブに身を包んだ男がなだめる。
「お前は何でそう落ち着いてられる!?我らの儀式がよもや・・・失敗したならまだしも、王国に露見、なんてことはあるまいな・・・!?」
「それはご心配なく。王城内も貴族街も静かなものです。我らの動きを知る者など王国にはいないでしょう。」
「・・・ならばよいが。」
「貴殿のご心配はわかります。ですが、アレは確かに召喚成功したはずです。その証拠に・・・。」
男はそう言って足元に目を向けた。
足元には数えきれないほどの骨が転がっていた。
魔物の骨とわかるものから、人骨までさまざな骨を冷たい目で見た男は視線を男に戻す。
「これだけの魔物と人間の生け贄を捧げ、それが一瞬でこうして骨になったのならば成功したと言えるでしょう。失敗なら生け贄達は骨にならなかったでしょうから。」
「・・・ではなぜここにアレは現れない?」
不機嫌な男の質問に男はしばらく思案する。
「おそらく・・・出現ポイントがずれたか・・・、もしくは出現にもう少し時間がかかるのかもわかりません。どちらにしても、もう少し様子を見た方がいいと思われます。」
「・・・チッ、わかった。もうちょっと待ってやる。この邪魔な骨はお前が片付けておけ。」
不機嫌な男はそう言ってどこかへ去っていった。
残った男は骨に向けた冷たい目を去っていく不機嫌な男にも向けていた。




