プロローグ
初連載ですが、よろしくお願いします。
俺、麻生庵は自宅の部屋に入って、カバンを机に放り投げベッドに腰掛けた。
イライラした感情をのせたため息をひとつつき、そして天を仰ぐ。
なにもない天井を睨み付けながら、今日あった出来事を思い起こす。
今日の俺はとにかく運が悪かった。
俺は白に近い金髪に左右の耳に3つずつのピアス、だらしなくはだけたシャツという不良・・・というよりはチャラ男に近い格好なので、もちろん高校の生活指導担当の教師にずっと目をつけられていた。
その教師が今日はとにかくしつこかった。
こちらもそれなりの言い分はあるのだが、それを聞く耳を持たず「言う通りにしないと留年だぞ」「停学にしてもいいんだぞ」の繰り返し。
それで放課後の2時間捕まった後、むしゃくしゃしながら帰ったのが態度が悪いように見えたみたいで、知らない学校の不良バカ2人に絡まれた。
よく他校の不良にからまれることはあったが、俺はそこまで腕っぷしが強いわけではなかったので何とか言葉であしらったり、殴り合いになったとしてもこちらからはあまり手を出さず隙を見て逃げたりしていた。
別に俺はケンカしたくてチャラい格好をやってるわけではなく、たまたま好きな格好がチャラい格好だったので、逃げたり背中に罵声を浴びても俺としてはどうでもよかった。
あまりにまともに取り合わないせいか、「あいつは実はものすごい強い説」という俺の変な噂がたって絡まれる率は上がってしまったが冤罪だよ、ホントホント。
因みに格好が好きなだけなのでパリピではないよ。あしからず。
見た目で周りからは「遊んでそう」とか思われてクラスの女子からは距離をとられているが、あいにく女性と付き合ったことがないし、1人でウロウロするのが好きなので広~く浅~く男女共に友人はいるけど、パリピの方のクラブも部活の方のクラブも興味なし。
しかし今日の俺はどうしてかむしゃくしゃしてたので、他校のバカ2人とすぐにいい争いになり、ケンカになり初めてと言っていいほど殴りまくった。
そこへ運悪くパトロール中の警官に見つかり、相手の不良はうまくかわして逃げたのとは対照的に、捕まったことのない彼はあっという間に取り押さえられ警察署につれていかれた。
幸い今までお世話になったことがなかったのですぐに解放させたが、共働きの俺の両親は迎えに来ず、むしろ会社に電話した警官に「そんなことで電話して来るな」と言ったそうだ。こっちこそだ。
俺の両親は、俺が高校にあがって興味本意でチャラい格好をし始めた頃から口うるさくなった。
俺は自分の意見しか押し付けてこない両親にもともと辟易していたのもあって、無視していたら次第に成績が悪くなっていき、生活指導担当の教師に目をつけられた辺りから両親の様子が変わってきた。
プライドの高い両親にとっては自分の子供がこんなになったことがよほど認められなかったのか、2人共、共働きを理由に家に帰って来ることが極端に減った。
あからさまに避けられてても、思春期の俺にとっては今の状況の方が断然よかった。
ベッドに寝転がり、まだむしゃくしゃした気持ちを解消できないでいると、ふと何かが聞こえた・・・ような気がした。
「わ・・・・け・・の・・・こ・・よ」
「・・・?」
空耳か?
「わ・・こ・・・け、そして・・の・・・こた・よ」
誰かがどこか遠くでこちらに声をかけてきてる、ような・・・。
だんだん近づいてきてるような。
「われ・こえを・け、そしてわ・の・・にこた・よ」
結構近づいたような声なのに、どこから聞こえるかわからない。
男性の声とはわかるのだが、どこかこもったような。
「われのこえをきけ、そしてわれのこえにこたえよ」
今度ははっきり聞こえた。なのに声のした所がわからない。
頭の中のような外のような、上下左右のようなそれ以外のような。
「?・・・何だよ、声って?どこから声がしてんのかわかんねえ。」
その声に応えるように呟いた。
・・・呟いてしまった。
「・・・見つけた。声に応えし者よ。」
声ははっきりとした口調で言った。
と同時に、俺がさっきまで睨み付けていた天井がグニャリとねじれた。
そして円を描くようにねじれ、呆気にとられている間にブラックホールのような黒く大きな円が頭上に渦巻いていた。
ブラックホールはゴオゴオと音を立てて空間を吸い込みだした。
それと同時に俺の体が光はじめ、体がふわりと浮き上がった。
「わっ!?ちょっまっ・・・!」
戸惑う俺を光と共にブラックホールは吸い込んだ。
真っ暗な空間に意識が持っていかれるように、ものすごい睡魔に襲われ、俺は意識を手放した。