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眠たい時は、気をつけて

作者: 新山流泉

今回は作家人生初めての試みで、ホラー短編小説に挑戦しました。ホラーというジャンルには3歳の頃から関わっていて、実は私は怖い話がとても大好きです。しかし、好きだからこそ何が怖いかを考えるのが鈍くなってしまった気もしていて今までは挑戦を諦めていたのですが、好きなことだからこそ書きたいという気持ちが勝ったので、今回書かせていただきました。楽しんで怖がってくださったら幸いです。

「眠たい時は気をつけて」

 

 放課後の教室に少女が二人。窓から射す橙色の夕陽が彼女たちの影を映し出している。

 口元を大きく開けてあくびをしているのは、札東(さっとう)市西南高校に通う新笠(にいがさ)楼末(ろうま)だ。

 そんな“いかにも眠たいです”と行動で意思表示する彼女に、創葉(そうは)れこは語りかける。

「でっかいあくびだなぁ...こういう時こそ、幽霊とか呪いに気をつけないといけないんだよ?」

 楼末は大のホラー好きで、こういう怖い話はうんざりするほど見聞きしたことがあったが、れこの話す今まで聞いたことのないような系統のホラー話に興味が湧き、笑みを浮かべつつ、耳を傾けた。

 彼女の頬には特徴的なホクロがあり、それはちょうど口角が上がった時に押し上げられて、ほうれい線の中に隠れ込んでしまう。それが楼末のチャームポイントでもあった。

 「幽霊や呪いってね、眠たい時につきやすい(・・・・・)んだって」

 「眠たい時?そんなの生きてたら毎日あるじゃん、なんで眠たい時なの?」

 楼末は大袈裟にあくびをしてみせながら、れこに尋ねた。

 「うーん」と首を傾げること数秒、れこは話を続ける。

 「なんていうかな、眠たい時ってね?霊の干渉を防ぐシェルターみたいなものが出ててね、これは人間の生物としての生存本能が”死者“と関わってはいけないってことで、脳が起きている時は本能的に死者の干渉を阻止できるように結界みたいなものが張り巡らされるらしいの」

 「は?霊の干渉を防ぐシェルター??」

 幽霊をガードする壁…のようなものだろうか?と、楼末は想像を働かせながら、聞いたことのない、理解に脳味噌を働かせないといけないことに億劫(おっくう)になってそう言った。

 「一言で言ったらそうだね。基本、生き物ってみんな生きるように設計されてるの。だから、”死者“なんてあの世の者には関わらない、認知しないようにできてるんだよ」

 楼末が「ふーん」とうなずくと、れこは両手のジェスチャーを踏まえて話す。

 「けどね、眠たい時ってさ…脳が休もうとするから、その防衛機能も甘くなっちゃうみたいでさ」

 「その…シェルターが開いちゃうってこと?」

 「そうそう!だから、眠たい時こそ幽霊に見つかるとダメなんだよ…眠たくて、疲れてると…特にね」

 れこがどこか遠くを見ながらトーンを下げたことが気にかかったが、楼末は自身が一番気にかかっている疑問を素直に聞くことにした。

 「見つかるとどうなるの?」

 やっぱり聞いてきたか、そう言わんばかりのドヤ顔を浮かべるとれこは淡々と返した。

 「殺されて、その人が霊になって一人彷徨(さまよ)いながら、元々の霊がしていたように、また呪いを拡散しなきゃいけなくなるんだよ」

 「今度は自分が霊になって、誰かにとりつくってことか」

 「そうだね〜」

 「めんどくさくない?もしも私が霊になったら、絶対しないけどなあ」

 れこはいつの間にか戻っていた真顔のまま、「それは違う」と否定した。

 「めんどうだとか、そういうことじゃないんだよ…一人で彷徨って、彷徨って…人を呪うことでしか、自分の存在理由が見出せなくなるんだよ」

 「それって…なんだかちょっとかわいそうだね」

 「だからこそ、友達を求めているのかもね…幽霊は」

 楼末の気のせいか、れこはニヤニヤと笑みを浮かべながら彼女を見つめていた。

 「…なに?私が危ないってこと?」

 「だって、疲れてそうだし…眠そうじゃん?」

 「仕方ないじゃん…最近は中間試験の勉強もしないといけないし、部活だって忙しいで休む暇が全然ないんだもん…今日は幸い部活は休みだから…放課後残って勉強してるけどさ」

 楼末は札東市西南高校でも、試験で常に三位以内の成績を誇っており、部活も最低県大会で上位に食い込むと言った、まさしく文武両道という言葉が似合う生徒だった。

 「幽霊なんて来ないって…今までだってずっとこんな感じだったし」

 れこは楼末を見つめながら、ぽつんと一言だけ呟いた。

 「眠たい時は気をつけてね。本当に」

 れこに「だから〜気をつけるもクソもない」と反発してやろうとしていた時、教室のどこかから何か音が聞こえた。

 「…うま……おき……る……」

 なんの音だろう?人の声のようだ、そんなことを考えていると、すぐに充分すぎる音量となって、楼末の耳に届いた。

 「おい、楼末!そろそろ帰るよ!!」

 「おら〜!個人面接終わったどー!」

 教室のドアの方に目を向けると、そこには友人である春日(かすが)涼菜(すずな)古由(ふるよし)亜紗音(あさね)が立っていた。

 「涼菜に亜紗音!もう帰れるん??待ってたぜ〜!帰るか!!」

 楼末は席を立つと、れこにも「ほら、帰るよ」と声をかける。

 しかし、れこは「用事があるからまだ帰れない」と言うので、仕方なく楼末は友人たちと三人で帰宅することになった。

 楼末は、れこがてっきり部活か何かでやることがあるのかなと考えたが、そこで一つの疑問が生じていた。

 あれ?れこって何部だっけ?と。

 しかし、すぐにまあいいかと考えるのをやめて、そのまま帰路についた。


 楼末は帰宅すると、ラップに包まれていた夕食を電子レンジで温めて食べたり、シャワーを浴びたりしてから自室へ戻った。

 彼女の両親はこの日、親だけで旅行へ出かけていた。楼末はもう高校生なんだからと、二人仲睦まじく海外へ遊びに行ったのだ。

 そんなこんなで一人は少し寂しげな気もしたが、だからこそ感じられる自由を噛みしめながらポテチをむさぼって、ベッドに横になる。

 「ああ〜、暇だなぁ...テレビも特に気になる番組ないし...YouTubeは最近見尽くしちゃったからなぁ」

 大きなあくびをしながら、楼末は今日れこと話した怖い話を涼菜と亜紗音に話すことにして、自身のスマホを拾いあげて、メッセージアプリであるLIMEを開く。

 ローマ[二人ともまだ起きてる?]

 グループトークができる場所にメッセージを送ると、すぐに二人から既読がついた。

 すずなてゃん[おっすおっす、今一人で暇なんか?]

 朝寝坊太郎[こっちも相変わらず暇や]

 すずなてゃんというのが涼菜で、朝寝坊太郎というのが亜紗音のユーザーネームだ。ちなみに楼末のユーザーネームはローマである。 

 ローマ[今日れこに聞いた怖い話しても大丈夫?]

 すずなてゃん[また怖い話ww]

 朝寝坊太郎[仕方ないな、聞いてやろうぞ]

 三人は普段から怪談話をすることが多かった。主だって怖い話を発信するのは楼末だったが。

 二人の了承(りょうしょう)も得たので、楼末は聞いた通りに話を進めていく。

 眠たい時にこそ、幽霊や呪いに飲まれやすいということを即席で作った話に入れて、長文でメッセージを送った。

 すずなてゃん[こっわww ねれねえわw]

 朝寝坊太郎[今寝る前なんだが笑] 

 楼末が二人とも怖がってくれたことに嬉しさを感じていると、涼菜から奇妙なメッセージが届いた。

 すずなてゃん[ところでれこって誰?楼末にそんな友達いたっけ??

 ローマ[???二人だって知ってるじゃん?今日だって二人が私を呼びに来た時、れこもいたし]

 朝寝坊太郎[あたしらが行った時は、教室に楼末しかいなかったよ]

 すずなてゃん[楼末、あの時寝てたし夢とこんがらがってない???]

 二人が自分を怖がらせようとしている、そう思って送信しようとしたメッセージを打つ指が突然止まる。

 [同じクラスメイトじゃ|]

 楼末はそこまで打って、れこなんて人物がクラスメイトにいなかったことに気がついたのだ。そのことに対して、今までずっと違和感なんて感じなかったのに。

 突如、握っていたスマホの電源が落ちたかと思うと、楼末の部屋を照らしていた明かりがぶつぶつと音を立てて、点滅し始め、やがて暗闇が訪れた。

 「ちょっと!?えっ??なにこれ!?」

 楼末の頭は“やばい”という危機意識を本能的に察知した。パニックになりつつも、“逃げよう”という考えを明確に導き出していた。

 急いで部屋のドアの方へ走り、ノブを押した。

 しかし、ドアが開くことはなかった。何者かに(・・・・)外側からドアを押さえられていたのだ。

 「きゃっ!!?」

 驚きのあまり、楼末は後ろへ腰から思い切り転げ倒れる。

 ギィィィっと不穏な音を立てながら扉はゆっくりとひとりでに開き始めた。

 ドアの向こうに見える黒。

 ここにいてはまずい、そう直感した楼末は自室の窓から勢いに任せて体を飛び出させる。楼末の自室は二階に設置されていたが、そんなことを気にしている余裕すらなかった。

 鈍い痛みが楼末の足を襲ったが、幸いにも、左足を挫いただけで済んだようだった。

 左足が悲鳴を上げてはいたが、今は一刻も早く逃げなければ。何かから(・・・・)逃げなければ。

 楼末は左足を引きずりながらでも前へ進んだ。行くあては特になかったが、どこへ行こうなどと思考するだけの余裕は持てなかった。

 楼末の後方から、ドンっとまるで重たい荷物が空中から地面に落下した時にするような音が響いたからだ。

 追ってきたのだ(・・・・・・・)

 「ひぃっ!!」

 楼末は鼻水を垂らし、涙とよだれが入り混じった口を開けながら、ただ叫んだ。

 「誰かぁっ!!助けてください誰かぁ!!!」

  楼末はどこかの家のインターホンを鳴らそうか、ドアを思い切り叩いて助けを呼ぼうか、とも考えていた。

 だが、奇妙なのだ。

 こんな夜なので、外を歩いている人はいないかもしれないが、普段は絶対にどこの家も電灯が暗い道を照らしているはずなのに。

  おかしい(・・・・)

 誰もこの街にいないのか、ただ一人楼末だけが知らない世界に引きずり込まれてしまった、そんなような空気が流れていた。

 それでも助けを呼ぶ声をあげることを楼末はやめなかった。

 そうでもしないと、後ろからする自分以外にたった一つ足音を立てている何か(・・)の存在に、気が変にされてしまいそうだったからだ。

 足音は止まない。トッ。トッ。トッ。それどころか、徐々にそれはリズムを早めているようにも思えた。

 振り向けない。怖い。そう思いながらもひたすら楼末は走った。

 「はぁっ、はぁ...」

 どれくらい走っただろうか。気がつくと、もう後ろから足音はせず、目の前には楼末が通う高校があった。

 後ろを振り向いたらいるってパターンか?とホラー好きだからこそ、なおさら音がしなくなった今、振り返ることを警戒したが、楼末が首を後ろに向けても、そこには普段と何も変わらない街並みがあった。

 電柱や、建っている家々の光が溢れる光景。逃げられた、楼末はひとまずそう考えることにした。

 「学校...ここまで走ったのか...でも、これからどうしよう」

 そう言葉を漏らした瞬間だった。

 楼末の肩を、生暖かい感触が襲ったかと思うと、そのまま強い力で、後方へ無理矢理に首を向かされた。

 肩に感触を感じてからそうされるまでがあまりに早かったので、恐怖を感じたのは一瞬だった。

 振り向いた先にあったのは、薄笑いを浮かべるれこの顔だった。

 「やっと追いついた、もう逃がさないよ」


 ハッとして体を持ち上げる。

 楼末が気づくと、そこはいつもと変わらない自分の部屋だった。扉は閉まっていて、電気もきちんと灯っていた。

 「夢...?寝ちゃってたのかな...?」

 尋常でないほどの冷や汗をかいていたが、挫いたはずの左足は何事もなかったように、傷一つ負っていなかった。

 恐る恐る自室の扉をあけて見ると、廊下の電気も消えておらず、ホッとした楼末はドアを閉めると落としていたスマホを拾い上げて、再びベッドに飛び乗り、盛大な溜息をついた。

 「怖かったぁ〜、夢でよかった!」

 れことかいう存在もきっと自分の勘違いで、あれも今日教室で見た夢なのだろう。楼末は自分の中でそう折り合いをつけると、布団をかぶってスマホを開く。

 「ひゃぁっ!!」

 電源を入れた時、楼末は危うく持っていたスマホをベッドに落とすところだった。

 届いていた大量の通知。そのうちのいくつかは涼菜と亜紗音からの楼末から返事がないことに対してのメッセージだった。

 それ以外の全てが、創葉れこという送り主から届いたメッセージで、[おfykのfっjろううう]といったような意味のわからない、しかし恐ろしいと思うのには充分に凄惨さを感じるものだった。

 「なに…これっ…??」

 あれは夢でなく、全て現実のことだったのか。楼末がそう悟ると同時に、布団が膨張し、それによってできた隙間からは二つの目が楼末を覗き込んでいた。

 「夢じゃなかったね」

 楼末は自らの布団の中に引き摺り込まれる。力の強い何か(・・)の腕に抗う気力は楼末には残っていなかった。絶望の淵で、どんどん意識が闇へと向かう。最後に、れこの声が一言呟いた。

 「だから眠たい時には気をつけて、そう教えてあげたのに」


 

 「くぅああ〜」

 大きく背を伸ばしながら、相模山(さがみやま)幸樹(こおき)は大あくびをする。

 「おいおい、次体育だし、移動教室だぞ」

 クラスメイトにそうは言われるも、最近眠っていないのだ。幸樹は移動する気になれなかった。

 イヤフォンをつけているのをいいことに、何も聞こえていないフリをしてやり過ごすことにした。

 「怒られても知らないからな」

 友人はそう言い残すと、そそくさと教室を出て行った。

 幸樹は机に突っ伏し、体育の教師には「眠ってしまって行けませんでした、ごめんなさい」とでも言おうと考えていた。本当のところは、女の子との通話しながらのゲームが原因で寝不足だったが、幸樹は成績だけはよかった、勉強のしすぎを理由にしても、周囲は納得してくれるだろう。

 耳元のイヤフォンからは、ニュースサイトの音声が垂れ流しになっている。

 「ええ〜先週、市内の女子高生が行方不明となっていましたが、先日死体が発見さ…」


 そんな彼のことを、自身のチャームポイントである口元のホクロを上げながら見つめている存在(・・)があった。

 「みぃつけた」

 彼女はそのまま幸樹の元へ歩を進めると、自身もされたように、こう話しかけた。

 「眠たい時は、気を付けないと」

おはこんにちこんばんわ、新山流泉です!今回の怖い話はいかがだったでしょうか?自分がどういう話だったら恐怖を感じるかということを考えた時に、演出ではなく設定が怖い方がいいなと感じて、こういう終わり方にしました。眠るなんて誰しもが当たり前のように行う行為で、それに呪いが…なんてあったら怖いですよね(汗)

しかし、だからこそいいなと思ったのです(笑)絶対に逃げられないという設定こそ、怖いな、と。

呪いを終わりなき連鎖のように描いたのも、それが理由ですね。もしかしたら、次はこの話を読んでくださったみなさんのところに現れるかも…?(笑)

もし本当に怖いと感じてくださる方がいらっしゃいましたら、とてもうれしいです( ・∇・)

もし本当に怖くて寝れない、という方がいましたら、創葉れこを逆さ読みするといいと思います。

これからもよろしくお願いいたします!


Twitter:@rusen777niiyama

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