夏
太陽に向かって草木がめきめきと腕を伸ばす頃、アリのお店も出来ました。湖の近くなのに湿気は少なく、仕入れにも適した場所でした。周りにもたくさんのお店が出ています。2匹は朝早くから夜遅くまで働いて、生活はとても忙しくなりましたが、とても満足でした。
「クワガタさん、こんにちは。席は空いてますか。」
「おう、いらっしゃい!今日は予約が入ってるから、こっちのカウンターでいいかい?」
「もちろんです。では、日替わりランチを2つ。」
「あいよ!」
「今日は席があって良かったなあ!」
「ここのランチは本当においしいものね!」
「前はこんなんじゃなかったんだけどね。お客さんが広めてくれて。ここ2、3年で急に忙しくなったよ。」
「やっぱりクワガタさんも、最初は大変だったのね。」
「そうさ。君たちも頑張んなよ。」
「はい。」
「そうだな。俺らのエプロンも、開店以来同じのを着ているな。ここらで新調するか!アリさん、頼むよ、今風の格好いいやつ。従業員の人数分。」
「ありがとうございます!」
こんな風に、アリは少しずつお客さんを増やしていきました。
プシュ!お疲れ!
2匹のアリは、ビールの入ったグラスをかちりと合わせました。アリの夫婦は、とてものんべえでした。
「この時間が一番幸せだわ!」
「今日はクワガタさんがたくさんオーダーしてくれたしな!」
「ごはん作るわね。頂いたお漬物を出すからつまみに食べてて。」
「ゆっくりでいいよ。君も疲れているんだし。」
「ありがとう。今日はサバの味噌煮を作るわね。お刺身もあるから先に出すわ。」
その時、コン、コン、とドアを叩く音が聞こえて、アリのご主人が出て行きました。戻って来た時は、両手に大きなトレーを持っていました。
「……バッタの奥さんから。」
トレーの上には、かつ丼とナムルと芋の煮っころがしと、袋の中にはぬか漬けがごろごろと入っていました。
「ぬか漬け、何が入ってる?」
「ん……きゅうりとかぶとにんじんとなす……みたいだな。」
そう、とアリの奥さんは小さく溜息をつきました。
「昨日も同じものをもらっているのよ。きゅうりしか出さなかったけど。ぬか漬けはとてもからだにいいし、バッタの奥さんのお漬物は本当においしいけど……その量を毎日食べたら塩分のとりすぎだわ。実は、結構捨ててるのよ。おことわりしようかしら。」
「いや、それはダメだ。」
アリのご主人は首を振りました。
「あの人は僕らにご飯を作ることが生きがいなんだ。それに……ここへ来た当初、ご飯だけでなくどれだけ世話になったか分からない。がっかりさせてはいけないよ。」
「そうね……。今晩はどうしようかしら……。」
「サバは明日食べればいい。」
「昨日もそう思ってたのよ。でも、春巻きと麻婆豆腐と漬物をもらってしまったじゃない?サバはもう限界だわ。」
「そうか。じゃあ、君のご飯を待つよ。頂き物は捨ててもいい。」
ううん、とアリの奥さんは首を振りました。
「今回はサバは諦めるわ。これまでも自分が買った食材を悪くさせてしまって、何度も捨てているの。でも、明日からはもらった方を捨てさせていただく。ふう……あなただってお腹を空かせているし、出来ているものがあるのに待たせるのも気がひけるし……こんなことを悩むこと自体、困っちゃうわね。」
「今までだって遅い時間に食べていたのだから、大丈夫だよ。君の好きにしたらいい。」
「ありがとう、そうするわ。」
アリの奥さんは暗い表情で、サバをゴミ箱に捨てました。




