第六十一話 童歌
お前さんお前さん
童の声が聞こえるか
聞きたくなけりゃ耳ふさげ
お前さんお前さん
童の姿が見えるか
見たくないなら目を閉じろ
お前さんお前さん
己の呼吸が分かるか
ばれたくなけりゃ息止めろ
「何ですか、この歌?」
怪訝な顔でそう俺に聞いてきたのはバイト先の後輩であるAだ。
たまたま俺のスマホから流れている所を聞かれたのだ。
俺の故郷に伝わる童歌、童謡みたいなものだと言ったらより変な顔をされた。
「子供の歌なんですかこれ?
こんなに怖いのに?」
昔は夜盗とか野生の獣が多かったから静かにしておこうみたいな歌らしい。
そう説明したのだがどうも納得いかない様子だ。
何か気になるのかと聞いたら
「順番がおかしくないですか?」
順番?
聞き返すとAは
耳を最初にふさいだら手が使えなくなるし、音も聞こえなくなる。
目を閉じたら状況が分からなくなるでしょと至極真っ当な事を言った。
唯一息を止めるのだけは最後っていうのは分かりますけど・・・。
なんかおかしいですよねと首をひねっていた。
実際俺も小さい頃はこの歌に疑問を感じていた。
どうしてこの順番なのか、祖父に聞いた事がある。
その時祖父はとても怖い顔をして、歌の内容に疑問を持ってはいけないと静かな声で俺に何度も言い聞かせた。
それから俺は歌の内容に疑問を持たなくなっていた。
いや、持たないようにしていた。
だけど、こうやって改めて言われると確かにおかしい。
気になった俺はバイト終わりにAを誘い、ネットカフェで童歌を調べる事にした。
結論から言うと、調べなければよかった。
童歌の歌詞をインターネットで検索するといくつかのオカルトサイトに行きついた。
そしてそれは全て同じ内容を示していた。
童歌は人を子供を楽しんで殺す奇祭の名残だという事だった。
『江戸時代よりもっと前、神事としてこの祭りを行っていた。
山の神が人の血を好むとの事で毎年誰かを生贄に捧げなければならない。
それがいつまで続いたかは分からないが、ある時からこの祭りは行われなくなった。
そして二度とこんな事が起きないよう戒めの意味を込めて童歌として残した。』
どのサイトにもこのような内容が書いてあった。
しかしとあるサイトだけは違った。
そこにはこう書かれていた。
『これが表向きの理由。
本当は違う、これは異次元の扉を開くための儀式だ。
黄泉の国と言い換えてもいい。
生と死の境界を曖昧にする事でここではないどこかに繋げる。
そのために必要なのが生贄だ。
一番の歌詞の童の声は、殺されるこどもの叫び声。
二番は死体、そして三番は意図的に歌詞が変えられている。
元々の歌詞は 』
ここで記事は止まっていた。
何とも言えない気持ちでAを見ると、Aはまだパソコンをいじっていた。
そして、ぼそっと
「先輩、これ透明になってるけどリンクがありますよ」
と呟いた。
嫌な予感がした。
直感だ。
俺はとっさに絶対に押すなと叫んでいた。
Aは一瞬ビクッとして、分かりましたと言うとマウスから手を離した。
そのまま俺とAは無言でネットカフェを後にした。
翌日Aが行方不明になったと知らされた。
何となく予想がついた。
あの隠されたリンクを押して、何かを見てしまったんだと。
あいつは気づいていなかった。
あのサイトでなっている音に。
あいつは気づかなかった。
浮かび上がる文字に。
そしてあいつは気づかれてしまった。
リンクに触った瞬間鳴り響いた笑い声の主に。
そこでようやく気づいた。
俺もまた童歌の主に囚われている事に・・・。




