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第五十一話 友達

あの子は今も元気だろうか?

夏が来るたびに思い出す。

一夏の、だけどずっと心に残り続ける出会い。


あの子と出会ったのは今から何年前の事だろうか。

出会いは偶然だった。

私が住む土地にあの子が夏の間だけ遊びに来たのだ。


名前は・・・何と言ったっけ?

長い年月の間に忘れてしまった。

どうにも誰かの名前を覚えておくのは難しい。

でも確かにあの子はここにいたのだ。




「こんにちは!」


そう言ってあの子が私に声をかけてきた。

最初は気づかないふりをしていた。

面倒だったのもあるが、空腹で返事をするのも煩わしかったのだ。


だがどうにも私の周りから離れない。

もう一度こんにちはと言うと、何故か私の隣に腰かけてきた。

そして自分の名前と来たばかりで友達がおらず友達になってほしいと言っていた。


それでも私は無視していたのだが、あの子は離れず、喋るのをやめなかった。

どのくらい経ったか分からない。

しかしすぐそばで延々と喋り続けるあの子に私はとうとう根負けしてしまった。


私が何か食うものをくれたら友達になってやると言うと、あの子は最初驚いたようにピタリと喋るのをやめた。

まさか私が返事をするとは思っていなかったのだろう。

少しの間止まっていたがすぐにかばんから菓子を取り出し渡してきた。

それを無造作に受け取り、私が口に運ぶと何が嬉しいのか笑顔になった。

少なくとも私はそう感じたのだ。


腹も満たされ、約束もしたので私はあの子と友達になった。

と言ってもそれまでと違うのは相槌を打つくらいで、基本的にはあの子が一方的に喋るだけだった。

ただそれだけ。

それでも何の娯楽も無い山の中だからだろうか、あの子は終始楽しそうだった。

あの子はその日から毎日私の前に現れた。



それまでの私は日がな一日ぼうっとして過ごし、腹が減ったら飯を食い、またぼうっとするような生活を送っていた。

退屈はしていたが、不満は無かった。

十分満足していたのだ、あの子と友達になるまでは。


だがあの子との出会いは私を変えた。

いつの間にかあの子がやってくるのを心待ちにしている自分に気が付いた。

明日は何を話そうか、どんなことをして遊ぼうか、どうすれば楽しく幸せになってくれるのか。

そんな事ばかり考えるようになった。


誰かの事を思って過ごす事など無かった私だ。

あの子と会う日々が私を幸せに、そして欲深くさせた。

だから気が付かなかったのだ。

あの子はいずれこの土地からいなくなってしまう事を。



それは本当に突然だった、あの子は私の前から消えた。



1日ずっと待ち続けたがあの子は来なかった。

2日、3日と待っても来ない。

何かあったのかもしれない、私はあの子を探して回った。

だけれどどこを探しても、どれだけ探しても、あの子は見つからなかった。


探し始めてしばらく経って、私はようやく気が付いた。

あの子はこの土地から去ってしまったのだと。

いや本当はとっくに気づいていた。

気づかないふりをしていたのだ。

気づいた事を認めればあの子とは二度と会えないだろう予感があったから。


そもそもずっとこの土地にいるわけがない。

だってあの子はこの山の子ではないのだから。

私は楽しい日々を享受するあまり、そんな当たり前の事を失念していたのだ。


あの子が去って、私はまた元の暮らしに戻った。

誰も私を見ない、声をかけない、日がな一日ぼうっとして過ごすあの日々に。

それからしばらくは山の木々を見るとあの子と語りあった日々を思い出した。

山道で遊んだ事を、あの子の帰りを見送った事を。

どこを見てもあの子との思い出があふれ出した。


今さら元の私には戻れなかった。

あの子は今でも元気に幸せで暮らしているだろうか?

私の事を忘れずにいてくれるだろうか?

そんな事ばかり考え過ごすようになった。

山を出る事も叶わずただただ無為に日々が過ぎていった。




今でももちろん会いたい。

会いたいに決まっている。

あれだけ語り、遊び、幸せな日々を送ったのだから。

これまで過ごしてきた中でこれほどの満足感を得られた事は無かったのだから。


ああ忌まわしい。

この山から下りられればすぐに会いに行けるのに。

そして次こそはずっとこの山に。


今度は離れないように。

今度は逃がさないように。

うっかり大事な事を忘れないように。

しっかりあの子を捕まえておこう。

あの子の子供、孫、その先の代までもずっと。


そうすれば、私が空腹になる事は二度と無い。

腹を空かせることは二度と無い。

ああ、会いたい。


今度は、今度こそは・・・。

あの子の全てを喰らってやろう。

幸福で満たされた肉も魂も。

そうしないと満たされない。

あああの子が私を変えたのだ。

早く会いたい。

早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、



お前を食わせろ



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