第二十四話 ブランコ
A地区B公園、そこにはブランコにずっと座っている女の子がいた。
その子は昼から夜までずっとブランコに揺られていた。
1ヶ月ほど前からその状態だが、どこの子か、何故ブランコに座っているのか、誰も知らなかった。
ブランコを使いたい子がいる時は貸してと言うと譲ってくれる。
遊びには交じらないが人との関わりを嫌っている様子ではない。
身なりも綺麗で、栄養状態も悪そうには見えない。
虐待を受けているようには見えなかったので大人も注意しづらかった。
気づくと夜には消えているような不思議な子だったが誰に迷惑をかけているわけでもない。
わけありなのだろうという事で様子を見る事になった。
ある日公園で遊んでいた子供が何でいつもブランコに乗っているの?と女の子に聞いた。
女の子はにっこり微笑むも、無言で質問には答えずそのままブランコに揺られていた。
質問した子もどうでもよくなったのかすぐに別の子と遊び始めた。
またある日、警察が女の子に家はどこなのか聞いていた。
女の子はやはり微笑むだけで答えない。
警察も困った様子でしばらく女の子に話しかけていたがやがてどこかに行ってしまった。
そうこうしているうちに質の悪い家族が引っ越してきた。
公園を私物化したり、夜中まで大声で騒ぐ迷惑な家族だ。
そんな人間だから女の子にも絡んでいた。
だが女の子は微笑むだけで取り合わない。
その家の子供が無視する女の子を突き飛ばす。
それでも女の子は黙って微笑んでいる。
子供は最初からどけよブスと言うとブランコに座った。
女の子は立ち上がるとそのまま別の遊具に移っていった。
数日後、今度は女の子を突き飛ばした子の両親らしき人間が絡んでいる。
何を言っているのか分からないが難癖をつけているようだ。
通報があったのか警察もやってきて話を聞いている。
どうやら突き飛ばした子が公園から帰って来るなり高熱で倒れたそうだ。
お前が何かしたんだろうと理不尽な事を女の子に言っている。
警察は女の子を突き飛ばした上になんだその言い草はと両親に注意する。
そう言われた両親が警察に食って掛かり、やがて激しく言い争いだした。
気づけば女の子はどこかに消えていた。
それから1週間くらい経った頃だろうか、その家族が全員死んでしまったのは。
夜中に火事で家が焼けてしまったのだ。
原因ははっきりとは分からなかった恐らく煙草の火の不始末だろうという話だ。
幸い一軒家だったからか他に犠牲者は出なかった。
周囲の人に嫌われていたので悲しむ者もおらず、彼らの親戚だという人間が遺体を引き取っていった。
後日後片付けを任された業者がその家にやってきた。
今から片づけで少し大きい音がすると思います、ご迷惑をおかけしますと丁寧に周囲の家々に挨拶をしていた。
彼らに話を聞くと私物を片付けるようその親戚に雇われたそうだ。
片づけが始まり、大型の家電やタンスが運び出される。
火事の規模の割にそこまで損傷はしていないようだ。
片づけはどんどんと進みいよいよ焼死体のあった2階の部屋に手が付けられた。
部屋は見るも無残な状態で、ここに寝ていたら助からないだろうと業者の男は思った。
片づけを始めようとした男はおかしな事に気付く。
窓が無くなっているのだ。
火事の影響で無くなったのかと思って窓の外を見る。
もし屋根に乗っていたら危険なため取り除かないといけないからだ。
だが屋根の上には何もない。
おかしいなと思いもう一度部屋の方を見ると壁に窓が埋まっている。
寒気がした、どうやってもこんな状況にはならないはずだ。
どれだけ外から勢いよく吹き飛ばされれば埋まるのか、見当もつかない。
男はもう一度窓が付いていた場所から外を見た。
そこからは公園が見えた。
ブランコに子供が乗っているようだがはっきりとは分からない。
一通り辺りを見回したが特におかしな点は無い。
何が起きたのかは分からないが故人の部屋の片づけをしていると時々こういう事がある。
ここに長居するのは危険だと第六感が訴えていた。
急いで片付けて帰ろうと男は室内に視線を戻した。
そこには女の子が立っている。
さっきまでは誰もいなかったが、勝手に入ってきたのかもしれないと思い優しく声をかける。
危ないから勝手に入っちゃだめだよと注意し外に連れていこうと女の子に手を伸ばした。
「・・・か」
「え?」
「お・・・か」
「何かな?」
「お前もか?」
目の前の女の子が男に問う。
その声は低く、冷たく、到底生きている人間が出せる声だとは思えなかった。
問われた男は精一杯声を振り絞り、違うと答えた。
男は何を聞かれているのか分からなかったが認めたらいけないという直感が働いた。
「本当か?」
重ねて聞かれた男が必死にうなずくと女の子はならいいと呟き、すうっと消えていった。
これはヤバイ、男は仲間に今の出来事を伝え手早く片づけを済ませ家から出ていった。
帰り際トラックで公園のそばを通ると窓から見えたブランコに子供が座っている。
嫌な予感がした、まさかと思いブランコを見ると先ほど部屋に現れた女の子だった。
背すじがぞっとしたが女の子はこちらを見ていない。
今のうちにさっさと帰ろう、さっさと帰って忘れよう。
男は法定速度ギリギリまでスピードを上げ帰った。
その後分かった事だが、その一家は火事より前に亡くなっていたそうだ。
業者が遺体を引き取った親戚に偶然あった時に聞かされた。
その親戚も誰かに話さなければ抱えていられなかったのだろう。
死に様があまりに常軌を逸していたのだから。
子供は骨が折れ呼吸も難しい状態で殴打された跡があった。
母親はおそらく身動きを封じられた状態で首を絞められた。
父親は内部から燃えて死んでいたと。
その地区ではそれから酷い事故や事件は起きていない。
あの事故の後徹底して見周りや注意喚起が行われた結果だと住民は思っている。
だが業者の男だけは違う事を考えていた。
あの家族が死んだのは女の子に何かをしたためだと。
だからこそあの女の子に優しかった地域住民には何も起こっていないのだと。
もしあの時お前もかという質問にはいと答えていたら自分も・・・
今でも女の子はブランコに揺られている。
もしかすると彼女は地域を見守る神様なのかもしれない。
善良な人には何もしない、しかし一度害悪だと判断されれば・・・
そこまで考えて男は思考を放棄した。




