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第十六話 炊飯器

どうしよう・・・。

僕は途方に暮れていた。

僕がバイク事故にあって早1ヶ月、自宅に帰って来るのも1ヶ月ぶりだ。


退院後生活のため真っ直ぐ実家に帰っていたから自宅に戻ってくる事は無かった。

そもそも大した物も無いし、生活用品は実家に揃っていたので帰る必要が無かったのだ。

親には掃除しとこうかと言われたが家に入ってほしくなかったので大丈夫と言った。

それが失敗だった。



米の入った炊飯器を1ヶ月間放置してしまった。



幸いにも濡れた状態の洗濯物は無いし、冷蔵庫の中にも腐るような物は入れてない。

洗い者もコップを放置してたくらいで後は大丈夫。

問題は炊飯器だ、この中には3合の米が放置されている。

絶対カビてるよな・・・。

蓋してるから虫は入ってないはずだけど、カビはどうしようもない。


よし、悩んでいても仕方ない、とりあえず掃除だ。

僕は炊飯器を放置し、たまったほこりから片付け始めた。

嫌な事は後回し、それがストレス無く生きる方法だ。

だが1人暮らしの1Kはあっという間に片付いてしまった。


外はまだまだ明るい。

こうなったら家の外で開けるか。

1階の広場は誰でも使っていいって言ってたし、そこで開けよう。

でも1人で開けるのは怖いし友達呼ぼうかな。



そうして30分後、友達と2人自宅の1階広場に炊飯器を運んだ。

一瞬中を開けずに捨てようかと思ったが、分別しないといけない。

そう言う部分はきっちりしないと気が済まないので紙袋と分別用のゴミ袋も一緒に持っていった。


ゴム手袋とマスクもあった方がいいよな、カビ吸い込んだり触ったりしたくないし。

荷物がどんどん増えていくが自分のせいなので我慢しよう。


緊張する、中は一体どうなっているんだろう・・・。

カピカピだったらすんなり出てこないんじゃないか?

そうなるとこれに手を突っ込む可能性も?


考えれば考えるほど恐ろしいな。

でもこのままじゃらちが明かない。

僕は友達によし、開けようと言った。


それを合図に友達がとても楽しそうに炊飯器の蓋のスイッチに手をかける。

電話した時も面白そうとか言ってたもんな。

今の僕にはその能天気さが心強い。


友達がオープンと言いながら蓋を開けると、そこには綺麗な絵画があった。

色とりどりのカビがそれぞれのコロニーを作っていて幻想的でさえあった。

真っ白や真っ黒のカビを想像していたのでちょっと拍子抜けだ。


いきなり、友達がその中に手を突っ込んだ。


こいつは何をやっているんだろうとあっけにとられた。

無理に止めると僕まで巻き添えをくらいそうだな。

飽きたらやめるだろうと考え放置した。


「イタッ!」


友達が急に叫ぶ。

どうした!?と聞くと分かんない、指先が急に痛くなってという答えが返ってきた。


何か変な虫でもいたんだろうか?

急に手を突っ込むから噛まれたのかもしれない。


僕は怖くなってもうさっさと紙袋に入れて捨てようと提案した。

友達もテンションが下がったせいか反論もせず素直に炊飯器を持ちあげた。



僕が紙袋を広げ、その上で友達が炊飯器を逆さまにする。

ボドッという音と共に中身が落ちてきた。


友達がもう空になったよと言ったので急いで紙袋を締め、分別用のゴミ袋に突っ込んだ。

炊飯器もゴミ袋に入れて、ゴミ収集所に持って行こうとした、その時だった。


米を入れた袋の方からガサガサガサガサともの凄い音がし出した。

音と共に袋が大きく動く。


僕も友達もゴキブリでも繁殖していたのかと思ったが様子がおかしい。

ゴキブリなら音がしても袋はあんなに揺れないはずだ。

中身が空なら分かるが3合分の米が入った袋だ、それを揺らせるゴキブリなんているわけない。


じゃああの中にいるのは何だ?


そう気づいた瞬間僕と友達は逃げ出した。

ゴミも何もかも放り出して一目散に僕の家に駆けこんだ。



家に入ると安心感からか2人とも少し落ち着いた。

そしてさっき友達が痛いと言っていた指を見てみる。

そこには何かに噛まれたような跡がくっきり残っていた。


幸い厚手のゴム手袋だったからか指に傷は無い。

しかし一応病院で見てもらった方がいいだろう。

もし得体の知れない菌でも入っていたらまずいし。


だが病院に行くためにはもう一度外に行かないといけない。

何かしらの生き物がいるはずの広場を通らないと外には出られない。


はー、ふー、僕たちは深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着けた。

ガチャッと扉を開け広場の方を見る。

そこには先ほどと変わらない状態でゴミ袋がある。

あれもあのままにしておけない。



意を決した僕は友達を病院に行くように促し、1人でゴミの方に近づいた。

そこにあったのは炊飯器の入ったゴミ袋と、大きな穴の開いたゴミ袋だった。

中身は?

僕は恐怖で何も考えきれずそのまま収集所にゴミを捨て友達を追った。


幸いにも友達は無事だった。

未知の病原菌に感染したり、毒をくらったりはしていないそうだ。

良かった、問題は解決してないけど一安心だ。


良く分からない何かは消えたままだが、もうあの辺にはいないだろう。

何かが移動した後が裏口の方続いていたし、そこから外に出たのだろう。

どっかに行った、家の近くにはもういない、そう考えないと怖くてしょうがない。


まあどっちにしても家の中なら安全だろう。

そう結論付け僕は急いで家に帰り鍵を閉めた。


色々あって疲れたし、もう寝よう。

アイマスクと耳栓をはめベッドに横たわる。


横になりながらふと考える。

そう言えばあの生き物はどこから炊飯器に入ったんだろう?

何かの卵がお米に付いていて、保温状態で孵ったのかな?

まさか外から開けて締めたわけじゃないだろうし、謎だ。


どっちにしてももういないしいいか。

嫌な事は後回し、それがストレス無く生きる方法だ。

今日は寝て明日の僕に期待しよう。

明日の僕、どうかよろしく!

よし、おやすみ。






カサカサカサカサ



カサカサカサカサカサカサカサカサ



カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ



家に居たのは本当に1匹だったのだろうか?

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