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第十四話 黒い人形

黒い人形を置いている家があった。

学校の屋上で何気なく外を眺めていた時に偶然目に入った。

最初は良く分からなかったが、友達が人っぽいと言ったので、よくよく見ると確かに人の形をしている。


一目で人間ではないと分かった。

人にしては有り得ない黒さだし、全く動かないうえ。

それに目や口に当たる部分が存在しない。


不気味な人形だ、そう思った俺はすぐに視線をそらした。

だが友達はじっとその家を見続けている。

チャイムが鳴り教室に戻る寸前まで友達がその家から目を離す事は無かった。



翌日、友達がその家の情報を探ってきたと元気よく俺に話しかけてきた。

俺はあの家に関わりたくなかったので、聞きたくないと言ったのだが、お構いなしに調べてきた事を一方的にまくし立てた。

分かったのは4つ。


①あの家には3人家族が住んでいた

②先月火事があり夫と娘を亡くした

③現在は女性が1人で住んでいる

④黒い人形の事を知っている人は誰もいなかった


昨日の今日で良く調べたなと思いつつも、聞かなきゃよかったという気持ちの方が強かった。

もしこれが本当ならあの人形は旦那さんや娘さんの代わりだし、ショックでちょっとおかしくなってる人の事を調べようとするのはあんまりだと思ったからだ。


でも友達は昨日以上に興味を持ったようで今日も屋上に行こうと言いだした。

屋上でご飯を食べるのは嫌いじゃないけどこれ以上俺は関わりたくない。

だから、屋上には行くけど俺はもう見ないとはっきり伝えるた。

友達もそれでいいよと言ったので昼休みは友達と屋上で過ごした。



俺が弁当を広げると友達は横でパンを片手に双眼鏡を取り出した。

お前、さすがにそれはダメだろと注意したが、まあまあ今日だけ今日だけと軽く流された。

いや完全に覗きじゃん、先生にちくるぞとマジなトーンで言っても、何食わぬ顔で昼休みの後ならいいよと言いやがった。


こうなったらこいつはどんな事をしてもあの家を覗く。

最悪の場合直接家に行くかもしれない。

そうなると確実に俺まで怒られるし、もし停学騒ぎにでもなったら進学にも響く。

色々と考えた結果、分かった、今日だけな、明日もしたら絶対に言うからと条件を付けて自由にさせた。

おう、と短い返事をすると友達は人形ウォッチングを開始した。



弁当を食べ終えスマホでゲームをしていると、突然友達がうわあ!と悲鳴を上げ俺の側に倒れ込んできた。

どうしたのかと思って顔を上げるとそこには青ざめた友達の顔があった。

尋常じゃない様子だ。


心配になってどうした!?と聞くと友達はヤバイ、ヤバイと震える声で繰り返した。

落ち着け、何があった、大丈夫か、どれだけ聞いても震えるだけで答えない。

あまりにもヒドイ姿に、俺も不安になってきて、とりあえず友達を連れて屋上から校舎の中へ戻った。

踊り場に座らせ、背中をさすってやる。

そうすると少し落ち着いてきたようなので、友達にもう一度話を聞く。

今度はポツリポツリと何を見たか喋り出した。



友達が黒い人形を双眼鏡で覗いていると1人のおばさんが人形の側に座った。

何かを語りかけている様子だった。

やがて人形を抱き起した。

その瞬間、黒い人形からぽろぽろと何かがこぼれた。

何だろうと思って良く見ると人形の表面の黒い部分が剥げたようだった。

やっぱり人形の事夫か娘だと思ってるのかなと思って、少し可哀想になった。

そろそろやめようかと思って双眼鏡を上げた瞬間おばさんと目があった。

瞬く間におばさんの顔は怒りに染まり、黒い人形を下に置いたかと思うとその場から居なくなった。

そしておかれた人形の口の部分に白い物が見えた、あれは歯だ。

もしかしてあれ、人形じゃなくて、焼け焦げた人間。

そう思ったら怖くなったそうだ。

おばさんは俺の口を封じる気かもしれないとも言っていた。



・・・だから人の家なんて覗かなければよかったのに。

おばさんが怒ったので恐怖で人形が人間に見えたのだろう。

自業自得だと思ったが、この状態で放置するのは友達としてありえない。


とりあえず先生か親に事情を話して謝りに行こうと俺は言った。

だが友達は警察に言った方がいいと譲らなかった。

あれは人間の死体だから絶対に警察に言った方がいい!!と何回も繰り返した。

自分勝手な物言いだがこうまで真剣に言うって事は本当なのかもと、俺も少し怖くなってきた。



結局放課後交番で友達が見たという部分を伏せて黒い人形が人のように見えるという噂があるので確かめてほしいとお願いした。

ネットにも書き込まれていて変な騒動になって、学校の周りに人が集まっても困るからと。

交番の人も何となく俺が隠し事をしているのは分かっていたようだったが、じゃあ聞くだけ聞いてあげるからそれで我慢してねと言ってくれた。


警察は情報提供があった場合、どんな情報でも確認を行わないといけないらしい。

俺も一緒に行こうとしたが、後は警察でやっとくから君は帰りなさいと窘められたのでお礼を言って帰った。



翌日の昼頃、学校に警察がやってきた。

俺に詳しい話を聞きたいらしい。

どうやら俺の情報でその家に向かうと家の鍵が開いていて、返事が無いので確認のため中に入ったそうだ。


中に入るとそこには黒こげの死体が2つ、腐りかけた死体が1つ転がっていた。

2つの死体はまだはっきりとしないが夫と娘で間違い無いだろうとの事だった。

もう1つはどうやらその家の奥さんらしい。


え、でも、じゃあ、昨日話したおばさんは?と混乱する頭で警察に話を聞くと、もう1人誰か別の人間が生活していた痕跡があったと言われた。

これは大事件になるかもしれないと言われたので観念して友達を呼び、警察に話をさせた。



あれから6年、俺は大学を卒業して就職のため街を出た。

友達とは高校を卒業してから会っていない。

警察に話をした日から、友達が引きこもってしまったからだ。


理由も分からなくはない。

謎の女は忽然と姿を消したまま未だに見つかっていないのだから。


死体は全てあの家に住んでいた家族のもので間違いなかった。

埋葬したはずの夫と娘の死体があった理由。

奥さんを殺した人物の謎。

犯人らしき女の行方。

何もかもが分からない。

そもそも何故死体と暮らしていたのかも分からないのだ。

目的も正体も何もかも分からないまま、女は謎だけ残して消えてしまった。


もしかするとあの女は別の場所でまた死体と一緒に暮らしているのかもしれない。

そんな考えが脳裏をよぎる。

何があっても不思議じゃない、それくらいおかしな事件だったのだから。


人の家の中が見えた時に少しでも違和感があったら気を付けろ。

あの女がいるかもしれないから。

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