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第十一話 動画

1人の動画配信者が伝説になった。

彼を一躍有名にしたのはたった1回の配信、そして残された大量の謎だ。

その配信が与えた影響は想像を絶するものだった。


これまで問題のある配信をしてきた人は何人もいた。

その中には道行く人を殴ったり、人の土地に勝手に入ったり等の犯罪も含まれている。

しかし彼の配信は問題や犯罪という枠には収まらなかった。


彼が配信したもの、それは自分が死ぬまでの様子だ。

自殺する瞬間を生放送で全世界に配信した。


とは言え人が死ぬ程度の映像なら一時の話題にはなってもすぐに語られなくなる。

その配信が伝説と呼ばれるようになった理由、それは彼が生配信中に3回死んだからだ。


何を言っているのか分からないだろう。

私もその配信を生で見ていた1人だが、未だに意味が分からない。



1回目は飛び降り。

自宅マンションの屋上から彼は飛び降りた。

間違いなく死んだと自信を持って言える。

何故なら落ちた瞬間、人の血肉が飛び散る映像が配信されたからだ。


2回目は首吊り。

映像は切り替わらず、カメラが移動しそのまま近くの木を映し出す。

そこには元気な状態の彼が映っていた。

次の瞬間彼は準備していたであろうロープに首を通し、台を蹴って苦しみながら死んだ。

今度は死ぬ場面が最初から最後まで映っていた。


最後は轢死。

車の行き交う道路に飛び出して死んだ。

この時もカメラを持った元気な彼が、車の前に勢いよく飛び出し衝突するまでが映っていた。


飛び降り、首吊り、轢死、合計3度彼は死んだ。



もちろんこれだけならトリック映像でいくらでも作れる。

この程度で伝説とは呼ばれない。

おかしいのはここからだ。


まず配信された時間。

最初の飛び降りから最後の轢死まで約1時間。

1時間もの間この映像は配信され続けたのだ。


これが5分程度なら運営に止められないのも分かる。

だがこれだけの問題映像が1時間何事も無く配信されるのは異常だ。


再生回数も1時間で10億を超え、動画配信サービスの利用者全てが見たのではないかとまで言われた。

そのためこれは運営による大掛かりな問題提起番組だと思われたほどだ。

そうでなければこんな事はありえないと。


しかし、そうではなかった。

この時間、運営はそんな配信は無かったと明言したのだ。

より正確に言えば動画配信サービスを使った形跡が存在しなかった。

ではどうやって彼は配信したのか?



さらに謎が深まる事に、彼の死体は1つしか見つからなかった。

見つかったのは彼の自宅、死因は心筋梗塞による突然死だそうだ。


飛び降り、首吊り、轢死、全ての現場を調べたが死体は無かった。

死体は消えた、確かに消えていたのだ。

だが死んだ痕跡だけはしっかり残っていた。


飛び降り現場では血肉が。

首吊りの現場ではロープと枝に力がかかった後が。

轢死現場では車と接触した後と、彼とぶつかったと証言する男性が。

この3つの自殺で唯一人、彼が死んだのを目撃したのはこの男性だけだ。


男性の話によると衝突した後しばらくして彼は煙のように消えたらしい。

その時彼の表情が見え、そこに浮かんでいたのは笑顔だったそうだ。



それからしばらくマスコミも動画配信者も多くの人が国内外問わず謎解きに躍起になっていた。

運営ですら事態解決に向けて動き出したくらいだ。


しかし1月経っても2月経っても事態の進展は見られなかった。

ブームは次第に下火となり、定期的に話題に上るが配信当時の熱は無い。

言わば3億円事件と同じような一種の都市伝説となっていった。


事態に進展が見られたのはそれから3年後。

警察に保管されていた捜査情報がどこかから漏れた事で2度目のブームが起きた。


捜査情報によると、事件現場に残されていた体液や痕跡から間違いなく死体は3つあった事が分かった。

そして3つの死体のDNA情報等が彼の物と一致した。

自宅や彼の死体からは不審な痕跡は見つからず、極めて普通の病死だと判断された。

ここまででも十分に想像力を想像を掻き立てるのだが最後の情報で世間はパニックに陥ったと言ってもいい。


轢死した瞬間のドライブレコーダーの映像が流出したのだ。

衝突した男性も怖くて確認できないまま警察に提出した、まさに警察にしか存在しない映像だ。

そこに映っていたのは満面の笑みで車の前に飛び出してくる彼と煙になって消えるまでの瞬間。

加えて、その瞬間を楽し気に見ている死んでいるはずの2人の彼だった。



この映像や書き込みは動画配信サービスではなく、彼の死後も残っていたSNSアカウントで公開された。

すぐに情報流出の経緯を調査したがどうやって漏れたのかは一切分からなかった。

情報が流出した痕跡は見つからず、逆に情報は厳重に管理されていた事実だけが浮き彫りになった。



情報はどう漏れたのか、漏れた情報を誰が書き込んだのか、どうしてこのような事が起きたのか、何も分かっていない。

警察の捜査も、運営の調査も継続中だ。

今後何か動きがあればすぐに世間に公開されるだろう。

もしかすると答えは彼自身から明かされるかもしれない。


彼のアカウントは今も消えずに残っているのだから。


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