第十話 ハンバーグ
とんでもなく美味しいハンバーグを出す店がある。
俺が子供の頃、そんな噂が一気に広まった。
有名レストランじゃない。
チェーン店でもない。
個人でやってる小さな店だ。
その店がオープンして、あっという間に噂は広がっていった。
俺はすぐには食べに行かなかった。
噂に乗せられるのってダサいじゃん?
気にはなってたんだけど、俺興味ねーしみたいな感じで。
だけど俺の周りでもその店に行った人間が多くなった。
行った人間は皆絶賛してた。
「これまで食べた事がないくらい美味しい!」
「死ぬまでに1回は食べるべき!」
「食べないと後悔する!」
友達が皆そう言うもんだから俺もだんだんと食べたくなってきた。
強がってるのもバレてたし、これ以上行かないのも逆にダサいなと思ったので親にハンバーグ食べに連れて行ってとお願いして、一緒に噂のハンバーグを食べに行った。
店はこじんまりとしてたんだけど、外も中もキレイで雰囲気は超良かった。
店には店長さんと従業員が2人いたんだけど、皆良い感じで接客も大満足。
それでも俺は天邪鬼だから食べるまでは本当に言うほど美味しいのか?とちょっと疑ってたんだよ。
けど、実際に出てきたハンバーグを見たらそんな疑いは吹っ飛んだ。
めっちゃ美味そう!!
小判の形のハンバーグは上下に大きく膨らんでいて、それだけで美味そう。
ナイフを入れると肉汁がじゅわ~と流れ出るし、匂いだけでご飯を食べられそうだし、凄い、凄いなこれ!
一口サイズに切って、おそるおそる口に運ぶ。
・・・・・・美味い!!
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!
こんなハンバーグ食べた事ない。
これに比べると今まで食べたハンバーグは何だったんだってくらい美味い。
ソースの味も美味しいんだけど、肉、肉が凄い。
お肉の味が濃厚で、旨みってこういう事言うんだって子供でも分かる。
食感も柔らかいのに噛み応えがある、今まで食べた事ない不思議な肉。
初めて食べる肉だ。
牛?豚?鳥?全然わかんない。
でもこれだけ美味しかったら何の肉でもいいか。
疑問とか吹っ飛ぶくらい美味いんだもん。
俺の親も美味しい美味しいと言って、一気に食べ終えたし。
大満足して俺達は家に帰った。
それからしばらくしてその店は潰れた。
俺も周りも皆不思議だった。
あれだけ美味しいハンバーグを出す店が1年も経たないで潰れるなんて、と。
潰れた理由が知りたくてちょっと調べた時期もある。
でも友達も何も知らないし、親に聞いても分からないって言う。
ハンバーグ店の近くに住んでいる人にも話を聞いた事があるけど、誰も知らない。
それどころか店長の事もよく知らないってさ。
不思議だよな。
その後から潰れた理由が分からないせいで変な噂も流れてきた。
あの店は野良犬の肉を使ったとか、野良猫の肉を使ったとか、酷いのじゃ人肉を使ったってのもあったな。
でもさ、普通に考えて、そんな肉が美味いわけないじゃん。
不味いし、肉の処理もどうしようもないだろ?
これはさすがに事実無根もいいところだよ、子供でも分かる。
ただ、肉の種類が分からないってのは本当。
店長と仲良い人も見つからなかったし、子供の俺じゃ何もわからないって事しか分からなかった。
そのまま微妙なもやもやを抱えながら今まで生きてきたんだけど、最近潰れた理由がようやく分かったんだ。
直接的な原因は店長の失踪らしい。
失踪理由は不明。
店長と仲良い人がいなかったし、これについてはもうどうしようもない。
で、店長が失踪した原因なんだけど、たぶんこれってのがあった。
どうやらあまりにも美味いからって、別のレストランのオーナーがあそこはヤバイ食材を使ってるって保健所に連絡したらしい。
保健所の職員も言われたからには一応検査しないといけないらしくて、食材を提供してもらって調べたんだって。
その結果が出る前に店長が消えたもんだから色々言われたんだな。
保健所の検査結果だけど、結論から言うと食べても何も問題ない食材だったよ。
肉も、もちろん犬や猫、ましてや人間の肉なんかじゃなかった。
まあ分かってたけど、やっぱり保健所のお墨付きがあると安心しちゃうな。
ただな、やっぱりちょっとおかしいんだよ。
っていうのもあの肉、未だに何の肉か分かってないらしいんだ。
どれだけ調べても一致する肉の種類が見つからなかったらしい。
民間業者に頼んでDNA検査をしても分からないってさ。
どれだけ調べても何の肉か分からない。
10年以上経っても分からない。
そんな事ってある?
俺は一体何の肉を食ったんだ?