表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐った果実の斜め下備忘録  作者: 腐った果実
9/9

第九条は守る条約ではない ――それは、掲げる勇気を問う条文である

憲法第九条は、しばしばこう問われる。

「守れるのか」「現実的なのか」「抑止力になるのか」。


だが果実は、この問いそのものが、どこかずれているように思えてならない。


第九条は、守れるかどうかを試すための条文ではない。

それはむしろ、掲げる勇気があるかどうかを問う条文なのではないか。


世界は今、再び「力」に傾きつつある。

力による秩序維持、力による抑止、力による安定。

それらはどれも、かつて植民地主義を正当化してきた論理と、構造的には驚くほど似ている。


歴史は直線ではなく、螺旋だと言われる。

理念が掲げられ、制度になり、疲弊し、やがて「現実」の名のもとに力へ回帰する。

私たちは今、その一周を目の当たりにしているのかもしれない。


そんな時代にあって、第九条は、ひどく不器用で、ひどく弱々しい。


守れないかもしれない。

裏切られるかもしれない。

嘲笑されるかもしれない。


それでもなお、「戦争を正当化しない」と宣言する。

それが第九条だ。


よく言われる。

「力のない平和など夢想だ」と。


だがこの言葉は、「例え自分が平和を求めても力をもって攻めてくる者がいる、だから力で対抗する」と宣言している。


それは合わせ鏡の論理だ。


守る自分と攻めてくる他者は綺麗に重なり一つになる。


だから、裏を返せばこう言っていることになる。

――人間は、力を持てば必ず使ってしまう存在だ、と。


もしそれが事実なら、人類はすでに詰んでいる。

核を持ち、技術を持ち、破壊する能力だけを際限なく高めてきた私たちに、未来はない。


だから第九条は、

「人間は善良である」という前提に立つ条文ではない。


むしろ逆だ。


人間は弱く、欲深く、恐怖に駆られれば簡単に力に頼ってしまう。

だからこそ、それでも踏みとどまれ、と命じる条文なのだ。


確かに、日本国憲法は、太平洋戦争の敗北と占領の中で生まれた。

自分たちで選び取った理想だと、胸を張りきれない気持ちは、今も残る。


それでも。


押し付けられたかもしれないその理想を、

80年近く、変えずに、問い直しながら、守り育ててきた。


世界が何度も力へ傾く中で、

「それでも、戦争をしないと言い続ける」という選択を、何度も選び直してきた。


それなら、少しくらい誇ってもいいのではないだろうか。

声高に自慢するのではなく、静かに。


もちろん、現実は理想通りにはいかない。

だからこそ、自衛隊が存在する。


彼らは理念を裏切る存在ではない。

むしろ、理念が破られたときの最悪を、自分たちが引き受ける覚悟をした人たちだ。


戦争を望まず、

それでも起きてしまったとき、前に立つ。


そんな人たちに肩身の狭い思いをさせる社会は、

理想にも、現実にも、どちらにも誠実ではない。


第九条を掲げることと、

自衛隊の存在を認め、敬意を払うことは、矛盾しない。


第九条は、世界を縛る条約ではない。

日本を守る盾でもない。

魔法の平和装置でもない。


それはただ、


力を持ったままでも、自制できる存在であり続けられるか。

人類は、そこまで成熟できるのか。


その問いを、国家という最も暴力に近い装置に刻み込んだ、静かな挑戦だ。


守れるかどうかは、分からない。

破られる日が来るかもしれない。


それでも、掲げ続ける。


それは勝利の宣言ではない。

正義の証明でもない。


ただ、

人類がまだ完全に諦めていない、という証拠である。


第九条は守る条約ではない。

これは、掲げる勇気を問う条文なのだ。


そんな理想論を語っても戦争は終わらないよ、とあなたは言うかもしれない。


でも、


世界中の戦争を止められないからといって、

戦争をしないと宣言する意義がなくなるわけではない。


世界中のおぼれている人を助けられないからといって、

目の前でおぼれている人を助けない理由にならないのと、同じだ。


いつか、

世界中の国が、

この条文を自らの憲法に掲げる勇気を持つ日が来ることを、

果実は静かに期待したい。


理想は掲げなくては始まらない



お し ま い

2026/01/31 初稿


本文を書くにあたり、

思考の整理や表現の検討に

対話型AIの補助を用いました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ