異世界の勇者の伝説
3年前天野有人が異世界に転移した。
右も左も分からない天野は周りに流されるままに魔王を討伐することになった。
そして現在、天野は神秘の泉の女神から授かった神剣を振り下ろし魔王に決定的な一撃を与えた。
「Grrrrrrrrrrrrrrrrrr」
おぞましい絶叫とともに魔王は倒れそのまま息絶えた。
その様子を見て思わず天野は思わず笑みを浮かべた。
この瞬間天野有人はまぎれもなく世界を救った勇者となった。
一ヵ月後。
長い帰路も今までの旅に比べたらあっという間だった。
天野は転移した国、ブラガート国についた。
ブラガート国ではすでに魔王を倒された記念の祝祭が行われていた。
そんな中、主役の天野が帰ってきたのだ祝祭はよりいっそう盛り上がりをみせた。周りが盛り上がりを見せる中、天野のは真っ直ぐ王城に向かっている。
今、天野には会わなければいけない人がいる。ブラガート国の姫、クラーナだ。
彼女には魔王を倒した後すぐに来てください、といわれている。
その約束を守る為に天野はこの国に帰ってきた。
そして、ついに天野の目の前にはクラーナの部屋の扉がある。
少し、深呼吸をした後天野はノックをした。
「どうぞ、入ってきて下さいアリヒト様」
久しぶりに聞いたクラーナの声は懐かしく天野の耳に優しく響いた。
天野がノブに手をかけ扉を開けると、ベットの上で座っているクラーナの姿があった。
「お久しぶりですねアリヒト様。どうぞこちらに来てください」
ポンポンとクラーナが優しくすぐ隣を叩いた。
言われるままに天野はクラーナの隣に腰を下ろす。
「魔王討伐お疲れ様です。もしよろしければ旅の話をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
とても大丈夫じゃないが、それでもクラーナのためだと思い天野はこれまでの旅を全て語り始めた。
初めて盗賊を殺したこと。道中であった旅人仲良くなったこと。その旅人に裏切られたこと。クレシアの滝の奇跡を見たこと。恐ろしい魔物と戦ったこと。様々のことを話した。
そして、最後には魔王を倒したこと。
全て話し終える頃には外はすっかり暗くなっていた。
あれほど騒がしかった祝祭もいつの間にか静まり返っている。
「そうですか…とても長く大変な旅だったのですね、アリヒト様…」
気がつくと天野の頬には涙が流れていた。何故涙が流れているのか天野自身も分からなかった。
クラーナは優しく涙を手で優しく取ると優しく天野に向かって微笑んだ。
「アリヒト様、お話ありがとうございます。もうだいぶお疲れでしょう、今日はこのまま休んで下さい。今あなたに必用なのは今までの疲れをとるために休息です」
クラーナの手が天野の目を覆う。そのまま天野はベットの上でゆっくりと体を横にした。
クラーナの手が離れると天野のまぶたはしっかりと閉じていた。
「いまはただゆっくりと安らぎの時間をすごして下さい」
その声を最後に天野は意識を手放した。
■ ■ ■
「ぐっすりと寝ています、アリヒト様」
疲れているのだろう天野は全く起きる気配がなかった。その姿を見たクラーナは先ほどとは違った微笑を浮かべた。
そして、自らの胸元に手を入れ胸元から一本のナイフを取り出した。ナイフは禍々しいオーラを放ちとても姫が持つには似合わないものだった。
「では、こののまま永遠に眠ってくださいね」
クラーナがナイフを振り上げ真っ直ぐ天野に向かって振り下ろした。
ナイフが天野の胸に突き刺さり、その瞬間ナイフに付与されていた「即死」が発動した。
魔王を倒し、世界を救った勇者はブラガート国の姫クラーナによって殺された。
血も流れずそのまま息をひきとった天野の死体をそのままにしてクラーナは自室である部屋を去った。
明日には天野有人は世界を救った後、元の世界に戻った勇者として語り告がれるだろう。
人々は勇者の冒険談を聞き心躍らせ、結末に感動するだろう。
たとえそれが間違った話であろうと誰もその話を疑いを持たない。
この世界は一人の犠牲によって平和と伝説をもたらした。
だれも真実を語るものはいない。
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