何ドジっ子なのこの子?
「止まらないなら、実力行使しますよ!」
ヘッズは両手を前に突き出すと、瞬間で紅いシールド型デバイスを何十枚も無数に展開する。
流石、ヘッズ
これだけの数のシールドを瞬間で展開なんて人並外れた芸当だ。
不敵な笑みを浮かべて衝突に備えたヘッズだったが
衝突しなくても、この矛と盾の対決は残酷なまでに矛の圧勝になるだろうということを秒で本能的に察した。
残念ながら、今回は相手が悪すぎた。
なぜなら、奎悟は更に人間を辞めた化物だったからだ。
「・・・おら!」
ただの突進だけで、無数のシールドを全て割り切ってしまった!
「ええ!?」
流石のヘッズもこの芸当には、何が起きたのかすぐに理解できなかったらしい。
顔が固まってしまっている。
それでも今度は剣型デバイスに手を掛けようとしたが動作が既に遅すぎた。
「クーデターサイドじゃあねーみたいや、な!!!」
空中で振り子の要領で足を突き出した奎悟がそのままローキックをかますと
吹っ飛ばされた名も知らぬヘッズはそのまま廊下の側面に突き刺さってしまった。
「うわなんかよくわかんねーけど
多分ヘッズ倒しちまったよ
ま、いいや!さっさ次いこうや!」
「ええ・・・」
ものの数秒の惨劇だったがこれには俺も血の気が引いた。
死んでないか大丈夫か?おい・・・
普通にドン引きなんだが・・・
そんな俺の感想も露知らず、奎悟は倒したヘッズには一瞥もくれずまっすぐ上をみた。
ヘッズを一人屠ったことで勢いが出たのだろうか。
最短経路を行く、と初め奎悟は言っていたが
明らかに途中から、廊下ではなく研究室やオフィスの内部を突っ切るようになり、異能の破壊力に任せて高そうな機材やら薬品やら、電子機器やら壁やら当たり前のようになぎ倒し、書類や本を撒き散らしながら最上階を目指した。
後から部屋を誰かが見たら太いレーザー光線か竜巻かなにかが部屋を突っ切ったような状態で荒れていることだろう。
奎悟の後ろにくっついて棚引いているだけで精いっぱいの俺には具体的に被害がどのような状況なのか正確に観察する暇すら与えられていないのだが
奎悟に引きずられながら次から次へとフロアを駆け上がる。
すると、再び廊下に人影が見えた。
電気がすべて消えてしまっているから細部ははっきり見えないが背格好を見た感じ、今度は女の子のようだ。
ツインテールの二つ結びの髪が、その背後の大きなガラス窓の外から差し込む月光で影を作ったので辛うじて判別できる。
「もしかして停電の犯人は貴方?!」
若干ハスキーな女の子の声が、俺たち以外誰もいない廊下に木霊した。
「またヘッズみてーやな
しかも・・・この顔も見覚えねーから、クーデター側での人ではない
倒してオッケー、か」
独り言をぶつぶつと言った奎悟は
再び突進した奎悟だったが、一転急ブレーキをかけた。
「いってぇ!急に止まんなよ!」
慣性が働いて奎悟の背中にぶつかってしまった。
予期していないので思い切り胸を強打してしまった。
止まるなら止まるって先に行ってくれよ・・・
「おい見ろよあれ」
「え?なに?
女の子のことか?」
「その手前、糸が見えるやろ?」
暗くて詳細には見えなかったが、奎悟に言われて目を凝らしてみると、かすかに月明りに照らされて蜘蛛の巣のように何重にも細い白銀の糸が女の子と俺たちの間で無数に張り巡らされているのを見止めることができた。
どうやら、俺たちが此処を通ることを見越して事前に罠を張っていたようだ。
「惜しかったね
あと少しで、貴方たち2人の体を糸巻きのハムみたくできたのに」
奎悟の奴、直感的に立ち止まったのか。
それとも、あれだけ高速移動している中でもギリギリで糸の存在に気が付いたというのか?
いづれにしても、よく立ち止まれたもんだな。
あのまままっすぐ猪突猛進していたら、今頃サイコロステーキになっていたかもしれない。
ツインテールの女の子に近づいたことでようやく俺にも、より詳細に観察できた。
顔はどちらかといえば中性的な顔立ちで、髪を短くすれば男子中学生といっても通用しそうな感じだ。
背は小柄、西條といい勝負ぐらいだろう。
両手に穴あきグローブをつけているのが特徴的だった。
ファイバーのように細い赤色の光が定期的に手袋を走っているところを見れば
恐らくこれも何かのデバイスなのだろう。





