はあ、はあ、はあ、マジ死ぬ
「まじかよ・・・」
奎悟はもう一度地面を踏みしめると、先ほど以上の速度に一気に加速して弾丸のように建物内部に侵入した。
入り口を破壊した勢いのまま、だだっ広いエントランスフロアを疾走して、階段を下っていく。
「はあああ!?ちょっと待ってくれ、吐く!吐くって!」
分かりやすく形容するなら、瞬間で最高時速に一気に加速する暴走列車を、なんとか片手でつかんでいるような感覚だ。
俺は全力疾走する奎悟にくっついた布切れのようにされるがままに付いていくしかなかった。
「防犯カメラにばれないように移動するためにはこれぐらいスピード出すしかねーよ!
もう少し我慢しろ!」
早すぎて目で追えずフロアを何度か下ったかわからなかったが、しばらくするとどうやら最下層へ到着できたらしい。
急ブレーキをかけた奎悟は数秒程度立ち止まった。
「はあ、はあ、はあ、マジ死ぬ」
あらゆる方向に揺さぶられたせいで
さっきまで飲んでたアイスコーヒーをゲロりそう・・・
レーザービームのように移動していた奎悟が立ち止まった理由はこの、分厚い金属製の防火扉だろう。
この内部に侵入したいらしいが、鎮座したこの金属の塊が行く手をふさいでいる。
どうやって入る気なんだ?、と言おうとしたがすぐにその答えが分かった。
「はああ!」
奎悟は鍵のかかった頑丈そうな扉をこれまた異能を使った前蹴りであっさり壊した。
どんだけのパワーもってんだよ・・・
「次は予備電源の破壊!
・・・これか!
予備電源のバッテリーらしきキングサイズベッドらしき大きな黒い箱を見つけると、思い切りローキックを喰らわせた。
数発ほど蹴りを入れる機械独特の匂いが部屋に立ち込め、予備発電装置は、ジジジッと小さな音を出したのちに、うんともすんとも言わなくなってしまった。
入口の強化ガラス、金属性の防火扉に続いて、予備発電装置も怪力で破壊してしまったようだ。
派手にやってるな・・・
「こんな暴れて大丈夫なのか?おい!」
「大丈夫、大丈夫!
ラボにもヘッズにも色々と俺も溜まってるもんがあったんだわ!
いい気味やわ全く!」
機械を何度も踏みつける奎悟。
恐らくもうオーバーキルだろうと思ったが、敢えて言う気にもならなかった。
気が済んだのか、ふーっと深く長い息を吐くと俺を見て再び悪だくみを思いついた子供の顔をする。
「さて、これで電源装置はお釈迦になったから
しばらくはこの建物の防犯装置は作動しない・・・
派手に暴れない限りは治安維持も連絡がいかねーから気がつかねーやろ
じゃあ、今度は一気に上に行くぜ!捕まってろよ!想!」
「ちょっと待っ・・・って、うわあああああああああ!!!」
俺の承諾など全くなく再び俺の手首を掴んだ陸斗は、異能で体を浮かばせると、再び疾走を再開する。
先ほどまでは下へ下へと向かっていたのだが今回は逆だ。
最上階にいるであろう則武さんめがけて自分自身が光になったかのように重力に逆らって上昇していく。
逆ジェットコースター状態だ。
奎悟は空中に浮かびつつ、壁を蹴りつけ高速でフロアを縦横無尽に駆け巡って、最上階を目指していく。
俺は再び金魚の糞のように引っ張られながらついていくだけで精いっぱいだった。
道中、恐らく防犯装置が作動したせいなのか
警備のために閉じたのであろう何枚もあった行く手を塞ぐ分厚い防火扉をまるで発泡スチロールかのように、次々と蹴りや拳で打ち破っていった。
スーパーマンにでもなったかのようだ。
上昇気流かロケットにでも乗ったかのように上へ上へとどんどん昇っていく。
移動が速すぎてここが何階なのかすら今の俺にはさっぱいだったが
俺たちの行く進行方向に、突如として異能力者らしき紅陽生が立ち塞がった。
「誰だ!侵入者か!」
「はよどけや!」
「止まりなさい!」
どうやら、立ちふさがっているのは紅陽の男子生徒のようだ。
この場にいるということはヘッズの誰かなのだろう。
ヘッズは高速で移動している奎悟の十数メートル先に仁王立ちしている。
このままでは数秒もしないで衝突はさけれないだろう。