漁夫の利とはこのことだな
「・・・これがメニューなんでお好きなものをどうぞ
さて、奎悟も来ましたし始めましょうか
これを見てください」
そんな様子も最早見慣れたのか特にツッコミを入れることなく、立花は俺がさっきまで見ていたタブレットを手に取ると、画面を切り替えた。
立花が地図アプリを起動させると、自動的に紅陽高校の航空写真が写る。
「地図、か」
立花が画面をタップすると、ズームがかかり紅陽高校の敷地だけで画面が埋まった。
「標的はここです」
トントン、と細く長い人差し指の爪で立花がタブレットの画面を叩いた。
「・・・でかい建物だな」
「そういやオープンキャンパス行ったときに見たような気がするわ、此処」
画面には、現代的なデザインの何十回階建であろうしっかりした作りのビルがあった。
どうみても校舎ではない。
まるで有名大学の研究棟のようだった。
「紅陽高校付属異能力開発フロンティア棟、通称ヘッズ棟、
ラボの出先機関で、主に紅陽の生徒の異能力研究に使われている建物なのですが・・・
紅陽の敷地内にあるにも関わらず、ヘッズ以外の紅陽生も立ち入りが基本的に禁止されています」
「え、なんで?」
と、奎悟。
驚いて思わず口から出てしまったといった口調だった。
「僕も詳しくは知りませんが、端的に言えば
ヘッズぐらい強い異能でなければ直接接触して研究する価値がないのでしょう
ヘッズに対してなら異能力を強化するための個別トレーニングを此処で行ったりしているようですが」
「ひでー話やなそれ」
「実際、紅陽の生徒にもあまり好かれてはいないようですね
・・・そして、ヘッズ会議はここで毎月行われています」
「わざわざこんなごつい建物でするんやねー」
「ヘッズ会議の大きな目的の一つが入替戦ですからね
この建物の中には異能力者同士が戦える大きな空間もあるので入替戦に最適というわけです
内部はほぼすべて非公開なのですが、なぜか内部の写真もここに入ってます」
立花がタブレットをタップするたびに、画面の写真が切り替わり、ビルの内装が写った写真が次々に現れた。
非公開なんならなんでこんな写真持ってんだよ、というツッコミをわざわざ立花に入れる気も失せたので奎悟と一緒に写真を見る。
建物の内部には、いかにも最新の現代的なオフィスといった空間や、高級感のある会議室、それから研究所というだけあってやたらと大きい何に使うのか分からない機械が所狭しと並んだ空間があったりするようだ。
その中にだだっ広い、フロアぶち抜きのダンスレッスン場のような写真があった。
恐らくここが異能力者同士が戦える空間というやつなのだろう。
右下にかかれた表示を見る限り、最上階にあるようだ。
「そいで、俺はどうしたらいいんだ?
此処に入って暴れればいいのか」
えらい雑な発言だな、と思わず言いたくなったが立花的には奎悟の回答は正解だったらしい。
「その通りです
クーデターが始まったらすぐに奎悟が建物内に侵入して一気に則武さんのところに向かう
そして、反乱組が紅陽の会長を倒す手助けをする、という計画です
奎悟と戦って弱った則武さんの止めをクーデター勢力が刺す、という筋書きが理想ですが」
「漁夫の利とはこのことだな・・・」
「まあ、やり方はきたねーけどこれくらい下駄履かさねーと俺も勝てる気しねーからな」
奎悟もヘッズ棟の内部の構造に興味をもったのか、立花からタブレットを借りると食い入るように写真や図面を眺めていた。
早速イメージトレーニングでもしているんだろうか。
「俺はそれでも武后様には勝てる気しないけどな・・・」
「ふふ、柊君はかなり心配症のようですが
奎悟も知名度がないだけで超強力な異能力者です
白夜のエースと言っても過言ではない」
どうやら、立花は俺の旧友でもある奎悟に謎の絶大な信頼感を持っているようだった。
こいつ今そんな認められるほどに強くなったのか。
「さいですか・・・」
まあ、奎悟は割とノリがよくて、活発な性格だということは前から知っているし、その裏返しで異能を持った今では攻撃的になっているのだろうか。
「で、具体的な作戦はどうなん?」
「はい、じゃあ早速説明しますが・・・」
陸斗、竜生に引き続き昔の友達と俺の間で能力的に距離を開けられたことが再び判明し、やもやした気持ちが心のなかに沈殿していくのを感じつつ俺は立花の描くクーデター計画の全貌に耳を傾けた。