私も柊に助けてもらったから
誰も話さないまま、時間が過ぎるかと思ったがあっさりと口火を切ったのは雪峰だった。
大きな、濃い青の瞳でこちらの様子を伺いつつ尋ねた。
「・・・いやー、どうだろ」
乾いた笑いを添えて俺は答えた。
自分でもどうしたらいいのか分からない、というのが正直なところだ。
「もしかして受けるか悩んでいるんですか?」
「正直に言えば、そうだな」
「個人的には、立花さんの話に乗る必要ないと思いますよ!
深入りしすぎてもあまりいいことにならないかもしれませんし、そもそも何となく信用できなさそうですあの人」
「ありがとう
もともと無理する気は全くないから大丈夫だよ」
西條は明確に立花に反対のようだ。
何となく、西條みたいな白黒はっきりさせたがる性格には立花のような人間は合わないだろうと思ったがその予想はどうやら当たりだったようだ。
やはりあの底の見えない白夜の会長には不信感を拭いきれないようだった。
「・・・一応念のために言っておくけど、前哨戦のタブレットの件は立花君のいうことはまったく気にしなくていいからね
そもそも立花くんの仮説が正しいのかどうかすら怪しいと個人的には思っているし
それにもし正しかったとしても柊はあの時、ベストだと思える選択をしたのだから別に落ち込む必要なんて一切ないわ」
「ありがとう
優しいな雪峰は」
俺の落ち込んだ原因にはすぐに察しがついていたのだろう。
雪峰が諭すような優しい声で慰めてくれた。
まあ、その優しさが裏返しで若干死にたくもなるのだが。
「・・・柊が私たちに優しくしてくれたからよ
私も柊に助けてもらったから」
「です!
あたしたちに柊はもう十分に色々なことをしてくれていますからね!
あたしたちもそれを返したいだけです!
まあ、あたしも2日目は参加できてないのでそもそも柊のことあれこれ言える立場でもないですし」
「そうか
自分ではよくわからないがな」
俺から2人にしてあげれたことなんてほとんどないと思う。
寧ろここまで、俺が2人の強力な異能に助けられてばかりだった。
「・・・私が今、こうしていられるのも柊のおかげだと思っているから
まあ兎に角、柊が必要以上に気に病む必要はないわ」
こんなかわいい女の子が心を開いて話してくれて、しかも俺を気にかけて慰めてくれるなんて、ほかのその辺の男子に自慢して周りたいな。
お前らにはこんな女友達いねーだろって。
まあ、自慢ができるほど仲のいい男友達なんて青月にはいないわけだが。
「・・・ありがとな、2人とも」
「気にしないで
・・・立花君が異能を使っているかずっとデバイスで監視していたけど
やっぱり異能を使ってはいないようだったわね」
雪峰は長い髪を耳に掛けながら、机の中から携帯サイズの異能検知型デバイスを取り出して机の上に置いた。
「みたいだな、俺の持っていたデバイスも反応しなかった
なら、まだとりあえず俺は洗脳はされていない、か」
割と今、思考がまとまらないで混乱しているが、とりあえずは自分の思考は失わないで済んでいるようだ。
「そうね
以前から、此処に来た時に、デバイスだろうがもし異能を使ったらその瞬間に生徒会室出禁になる、とは立花くんには伝えているしね
しかも、今は私もA判定になったから尚更使いにくいでしょうし」
「裏でそんな約束をしてたんだな」
「じゃあなきゃ精神系の異能力者なんて怖くて呼べないからね
このデバイスを使うことで、彼が異能を使った瞬間、即ラボに通報されるようにしているってわけ」
「異能も使わなかったということは純粋に柊を誘いたかっただけなのでしょうか
それとも、立花さんの行動にはやはり何か裏があるのでしょうか?
紗希はどう思っていますか」
「裏・・・があるのかまでは分からないけど
少し焦っているような気はしたわね」
雪峰は手でもう片方の肘をお互いに持つ独特のいつもの腕の組み方で、流し目で考え事をしながらそう言った。
「焦っている?どうしてそう思ったんだ?」
伏し目がちの視線はそのままで、Eラインのできた綺麗な横顔をこちらに見せながら雪峰は続けた。
「前哨戦が終わって数週間後にはもう紅陽でクーデターを起こすわけでしょ
加えて今回自分たちだけでは則武さんは倒さないと早々に見越して他校の柊に協力をお願いする・・・
結構アグレッシブじゃない?
しかも、私の見ている限りでは、白夜の総意としての行動ではなく割と立花君のスタンドプレーが多そうだしね
他の生徒会メンバーと連携をとっているのかな、とか思ったりもするし」
「確かに言われてみるとそうですね・・・
いくら生徒会長とは言え、立花くんの独断専行が目立ちます」
西條も雪峰の意見に同調し首を縦に振った。