・・・前哨戦での君のミスも取り返せますよ?
一度深呼吸した俺は、一段と低い声を出して答えた。
「・・・その仮説の是非は今の俺には知らんが
それでも、俺はお前に協力する気はねーぞ
そもそも協力出来るほどの実力もない」
俺は素直な気持ちをそのまま口に出した。
そもそも、立花に協力するということ自体が俺にとってあまりいいことのように思えなかったからな。
俺の返事を聞いた立花は特に驚いた様子も、期待外れといった表情もしなかった。
やっぱり俺がこの回答をすることを予想していたといわんばかりだ。
何となく雪峰の方を向いたが雪峰は下を向いて何やら考え事をしているようだった。
「何度も言っていますが別に協力と言っても則武さんと直接戦うわけではないですよ・・・
まあそれでも、断られる気はしていましたが」
「そうか
それが分かってたのならどうして此処に来たんだ?
俺への協力を依頼しに遠路遥々白夜から来たんじゃないのか?」
「・・・勿論、それも目的の一つです
でも、普通にお願いしても断られると思ってましたしね
あと一つ、今日は柊君の誤解を解きたいと思いましてね」
「誤解?」
一体俺が何を誤解しているんだ?
立花は暑くなったのか、白夜の濃い灰色の制服のブレザーを脱いでワイシャツの第2ボタンを開けながらこう言った。
「ええ、単刀直入に言いますが
柊君、君が僕のことをあまり好きではないですよね?
いけ好かない野郎だと思っているのでしょう?」
これまた予想外の展開だ。
急にメンヘルみたいなことを言い出した。
何言ってんだこいつ?
急に左斜め後ろからナイフで刺された気分だ。
立花の真意はやはり分からなかったがそれでもこの銀髪の逆三角形中性顔の男はどうせ人の心を読める異能を持っているんだ。
隠したところで仕方ない。
俺は精一杯の抵抗として居直ってやった。
「いきなりだな・・・
まあバレてるとは思ってたし今更だけど」
「しかも、今回の件も僕の口車に乗っている感じがするのも断る原因のように思います
手のひらで転がされているようですもんね
それでも、僕は、貴方が青月を大切に思っていることもよくわかっています
そして、青月の、いや、雪峰さんや西條さんの役に立ちたいって思ってますよね?」
「はあ、何が言いたいんだ?
話が見えてこないぞ」
いい加減イラついてきたが、立花は一度息を吐くとゆっくりと、聞き分けの悪い子供を諭すようにこう言った。
「・・・ここで僕の話に乗って、紅陽を叩くことは、柊君にとって得かどうかはさておき、成功すれば青月にとってはかなりプラスだということです
別に僕に協力するって考えず、青月が優勝しやすくなる、と考えればいいんじゃないですか
感情ではなく実利を追求するなら、この話には乗るべきだと思いますよ
そして、なにより・・・」
今日一番の軽薄畜生スマイルで続けた。
「・・・前哨戦での君のミスも取り返せますよ?」
・・・俺のミス
言うまでもなく、俺のタブレット経由で居場所が陸斗たちにばれたことを言っているのだろう。
俺は、この軽薄スマイル男に何と返せばいいのか分からくなって、ただ沈黙することしかできなくなっていた。
何か言わないといけないのは理解しているのだが、言葉がでない。
そんな様子の俺をみた雪峰がすかさず助け舟を出してくれた。
「・・・立花君、折角のお誘いだけれども今すぐには返事できないから
今日のところはそこまでにして
また今回の返事は後でさせてもらうわね」
「そうですね!
別に今すぐに返事をする必要もありませんし」
西條も雪峰の発言に同調してくれた。
二人の様子をみた立花はもう少し粘るかと思ったが案外にあっさりと引き下がった。
「そうですか
じゃあ、今日のところはこのあたりにしておきましょうか、もういい時間ですしね
また返事は僕に直接ください
僕はこれで・・・ありがとうございました」
こちらに再びあの薄っぺらい笑顔を浮かべ、高そうな腕時計を一瞥した立花は、雪峰に会釈をしたのち、自分の鞄を持って足早に生徒会室を後にした。
独演者が急にいなくなってしまったことで生徒会室には一瞬で静寂が訪れ、冷蔵庫の動く音が聞こえるだけになってしまう。
「・・・それで、立花君の提案はいつ断るの?」





