そう、そして今回僕が此処に来た本題にやっと入れるわけですが・・・
「僕は必ず何か行動するときにはプランBを用意しておきたい性分なんです
おかげで、完全にクロという証明は残念ながらできませんでしたが、少しはやり返せてる
神器は黄輝に渡りましたが、五校祭でも総力戦に対するボーナス点は当初与える予定だった点から大幅に減らされたようです」
「陸斗のやっていることは完全にアウトだろうけど
俺たちが協力関係なことが、陸斗や則武さんにもバレているとおもうけど、それは大丈夫なのか」
「まあグレーですけど、ただの共闘ぐらいなら五校評議会も目をつむるでしょう
今回の黄輝のペナルティは、共闘というよりハッキングによる位置情報の収集によるものですし
勿論、白夜生50人撃破の件も、決定的な証拠は彼らに掴ませません
かなり用意周到に準備しましたので」
「用意周到」、という言葉の中には「異能力での洗脳」が含まれているのだろうか。
どうせ聞いたところではぐらかされるのが分かっているので改めて聞く気もないが。
「それともう一つ情報提供を・・・
恐らくお三方も気になっているでしょうが・・・神器についてです」
「え、神器の正体までご存知なんですか?」
「ええ、ほぼ」
「・・・結局なんだったんだ」
「神器は・・・」
経験則的に察した。
立花の独演会はどうやらまだまだ続きそうだ。
「神器の正体は・・・
柊君と一緒に見ましたが、銀色の指輪でした」
ソファから立ち上がった立花はそのまま俺たちの机の前にまで来て話続けた。
「指輪?ですか」
「指輪・・・
やっぱりデバイスだったの?」
「ええ、僕も詳細が気になって、前哨戦後に五校評議会の内部資料を特殊なルートで閲覧したのですが
あの指輪の正体は、身に着けた人の異能力を大幅に強化するデバイスみたいです
着けた山縣君の異能力が大幅に上昇したのも確認しています」
「つけた途端陸斗が高笑いして、御天神社で一番でかい木を電撃で破壊したからな彼奴」
「らしいわね、私も噂では聞いていたけど本当だったんだ」
晴れた空からあんな短時間、それこそ数十秒でどす黒い雲を作って雷を生み出すのを目の前で見たが
あの時のあの凄まじい雷は、陸斗の異能が指輪で増幅したものによるってわけか。
「そうか・・・
じゃあ、五校祭での加点はほぼなくなったけど、神器そのものは黄輝の手に渡ったのね」
何か考え事をしているのだろう。
真剣な眼差しで口元に手を当てている雪峰の姿も何度も見てはいるのだが改めてみてもやはり超絶可愛かった。
「はい
ただ、前哨戦に勝ったのが黄輝でまだマシだったのかもしれません
黄輝の山縣君はA判定の超強力な異能力者ですが、黄輝全体の総戦力で見れば五校の中でそこまで突出していない、そして生徒同士の結束力も黄輝はそこまで高くはありません
トップがあんなのですしね
ただ・・・」
言い淀んだ先の言葉を、雪峰がすかさず繋いだ。
「もし黄輝と紅陽が裏でつながっていたら、状況によっては指輪も黄輝から紅陽に渡りかねない」
「その通りです、本当に貴方みたいな賢い人と話すときは回りくどい説明をしなくていいから楽ですね」
紅陽と黄輝の同盟関係。
俺にとっては未だにあまり本気で信じることができていないが、もしマジなら戦力の共有として指輪の共有もありえる、ということを立花は言っているのだろう。
「紅陽の則武さんが神器まで持ってしまっていたら鬼に金棒ですから、
つまり、前哨戦を制したのは黄輝ですが、裏でつながっている以上、畢竟まだ紅陽が一番の脅威だという事実はあまり変わりありません」
「やっぱり前哨戦を終えてもあまり状況は好転していないのか」
「そう、そして今回僕が此処に来た本題にやっと入れるわけですが・・・」
しゃべりながら歩いていた立花が立ち止まって俺たちの方を再び向いた。
ここまで、お守りの意味も込めて異能検知デバイスを起動させているが、ブザーはなっていない。
立花はどうやら今のところは異能を使ってはおらず、普通に話しているだけのようだ。
「・・・実は、数日後紅陽のなかでクーデターが起きる予定なんです」
立花の発言があまりにも予想の斜め上だったため場が固まった。
「え、どういうことですか?」
西條もまだ立花の突拍子もない発言を理解できず、思わずもともと大きな目を更に大きくして聞き返す。
「ヘッズの中に則武さんのことを疎ましく思っている勢力が一定数いるみたいで
彼らが則武さんに武力行使を行い、生徒会役員の入れ替えを要求するらしいんですよね」
「!?」
雪峰が何かを察した顔をする。
そういうことか、俺も何となく話が読めてきた・・・
此奴がまた俺たちに近づいた理由・・・それは
「つまり、お前が今日ここに来た理由は
その紅陽のクーデターに青月も協力をしろってことか」
俺の指摘は当たりだったようだ。
立花がこちらを向いてニヤリと笑った。
別に此奴の笑顔は見たくないが。
「当たりです
クーデターが起きたとしても、則武さんには到底敵わないでしょう
だからクーデターそのものは捨て石です
それでも、クーデターの手助けは水面下で行いたい
だから極秘に白夜の精鋭を紅陽へ派遣するつもりです
それに加えて協力をお願いできないかと思いましてね
それこそ失敗したときのプランBとしての意味合いも含めて」
「私自身が、そのクーデターの際に直接則武さんと戦う可能性もあるってこと?」
俺もA判定に覚醒した雪峰を再び則武さんとぶつける算段なのかと思ったのだが、予想が外れたらしい。
立花は首を軽く横に振ってから答えた。