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ハイスクールコンプレックス  作者: 折原
前哨戦篇
64/82

乾杯


「そこにずっといないで座ったらどうだ」


西條のせいで未だに生徒会室の扉の前へに立ちすくす羽目になった雪峰に言った。


「ええ、そうね・・・」


「あたしは紗希から離れたくありません!」


「はあ、甘えん坊かよ・・・」


雪峰の首に両手を絡めて離れる気ゼロの西條が首だけこちらを向けて言う。

そんな、3歳児状態の西條を見て雪峰も観念したのだろう。

西條の頭を撫でながら口を開いた。



「ふふ、分かったわ

じゃあ、ソファに座りましょ

それならくっついたままでいられるし私も千織にくっついておきたいし」


西條を首にぶら下げた状態でこちらを見上げつつ雪峰は答えた。


「ですね!」


こうして二人は部屋の中央に置かれている、高級そうな大きなソファに連れ立って座った。

西條は移動の間も雪峰から離れることは一切ない。徹底した雪峰信者だ。

此処には俺しかいないからやりたい放題だな。


俺たちは雪峰たちの机を挟んで対面する形になった。


「ふふ、柊も隣に座る?

離れていないでこっちに来たら」


ソファに座った雪峰は、片腕で西條の頭を撫でつつ、足を組んで悪戯っぽく笑いながら視線をこちらへ向けた。

どこのイケメン女たらしだよ、なんて思わず突っ込みたくなる。


「はいはい、茶化すなよ

俺は普通に椅子に座るから・・・二人で座りな」


「そう」


でしょうね、といわんばかりの顔で返答されてしまった。


「ラボに一週間いて暫く会えなかったから心配だったけど、元気そうでよかったよ」


「ええ、おかげさまでね

千織も毎日連絡くれてありがとね」


「そんなこと当然ですよ!

そんなことより紗希が怪我せずに終われたことが、まずはなによりよかったです!」


「・・・とりあえず一旦乾杯しようぜ

西條が色々飲み物を買ってくれたみたいだからさ

どれ飲むんだ?

特別ゲスト様に持っていってあげるよ」


「いや、そこまで気を使わなくていいわよ

千織、一緒に冷蔵庫いきましょう」


「はい!」


雪峰は抱き着いたまま頬を摺り寄せる西條の腰に手を回したまま立ち上がるとくっついたままで例底まで二人で二人三脚のように移動していた。


「いや、くっついたままで冷蔵庫まで移動すのかよ

どこまで一緒なんだよ・・・」


「どこまでも!」


「はいはい」


離れない西條に呆れつつ、結局最後は乾杯しにくいからという理由で、雪峰を真ん中にして、俺もソファに一緒に座ることになった。


俺は分かりやすくコーラ

西條はトマトジュース

雪峰はリンゴジュースをチョイスしていた。


身体の右半分が雪峰に触れているので何となく落ち着かなかった。


「それじゃあ、とりあえず、前哨戦お疲れさまでした!!!」


「「「乾杯」」」



西條の挨拶で俺たちは杯を合わせた。

「にしても、えらく時間がかかったんだな

もう少し早く帰ってこれるのかと思ったんだが」


乾杯したコーラをソファの上に置いた俺は、雪峰の隣に座ったまま話した。

落ち着かないけど、こんな役得な経験そうないので立ち上がって雪峰から離れる気はゼロだ。


仄かに香る雪峰の髪の匂いがいい匂いすぎてなんて言うかまともな思考力がかなり落ちそうだったが、彼女たちに悟られないようにしないとな。


「そうね、先に職員室と自分のクラスに顔を出したんだけどみんながなかなか返してくれなくて

帰ったらもうすごい勢いで質問攻めだったわ」


「相当目立ってたらしいからな、あの河川敷の一戦は」


雪峰が河川敷で則武さん戦っていた様子はかなり多くの生徒に目撃されており、途中からは派手な戦闘を見るために野次馬でかなり人だかりができたとか。


特に近くの橋では、五校の生徒や一般の人が花火でも見に来たのかというくらいに人で溢れたって話だ。


よく考えなくても河川敷を火で覆ったり、濁流起こしたり、氷漬けにしたり仕舞には、川を真っ二つにしたりしたのだから、そりゃ目立つに決まってるか。


「らしいわね、色んな人が見に来てたって後から聞かされたわ

残念ながら則武さんには勝てなかったんだけどね」


「それでも、よかったじゃねーか

やっと雪峰の本当の実力を外に見せつけることができたんだから」


今まで雪峰は異能力については自分の実力を隠さないといけなかったけど

今回の一件を経て堂々とできるようになった。それだけでも相当に大きな一歩になったと思う。


「ええ、そういう意味ではね」


「ん?そういう意味では?」


どういう意味だ?


「・・・あの一戦の後からメディアとか、研究者とか、五校の関係者やら、国の人とか色んな人が私に連絡してきて色々大変だったの

ある程度はどうしようもないと思ってうけたけど、極力断ったわ

私、あまり目立つのが好きではないし」


軽い溜息を吐きながら雪峰は再びリンゴジュースに口をつけた。

細くて長いきれいな指を思わず見てしまった。

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