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ハイスクールコンプレックス  作者: 折原
前哨戦篇
63/82

おかえり、雪峰


前哨戦が終わって一週間後。


教室棟を出た俺は良く晴れた初夏の空をぼんやりと眺めて一つ欠伸をついた。

もう少ししたら梅雨になり晴れ間も少なくなるのか、残念だな、なんてことを考えながら

授業をすべて終えた俺は、放課後、生徒会室へ向けて渡り廊下を歩いていた。


今回の定期テストでは、嬉しい誤算が多発したこともあって補講を受ける必要のない点数をすべての科目で修めることができたので今日はまっすぐ生徒会室へ向えた。

思えば雪峰と西條の二人に出会ってから、俺のテストの点数は蟻の歩みだが着実に上向き始めてきたように思う。


道中、下の売店で買った某清涼飲料水を飲みながら何となく運動場を見てみた。

運動場ではラボの職員が大量に来て、異能力強化のための実習を行っているのが遠めに見えた。

そういえば、ここ最近は体育館も部活動返上で放課後に異能力に関するセミナーを連日開いているというのを風の噂で聞いたな。


ここ最近の青月での異能力についての関心は群を抜いて高まっていた。

その大きな原因は言うまでもなく直近の前哨戦に勝てなかったこと

そして、もう一つは・・・


「おす・・・

相変わらず早いな」


「待ち遠しくてもう来てしまいました!」


生徒会室に古めかしい扉を開けると、机に教科書と参考書を広げた西條が出迎えてくれた。

もう何十回と見た光景だった。

俺を見るなり表情が和らぐようになったのは彼女の信頼を勝ち取った証なのだろう。そう思うとすごく嬉しい。


「この時間に此処に来れるという事は今回は補講はなかったみたいですね」


「流石、察しのいいことで」


「それでも、後でテストの点はすべて見せてもらいますよ!

あ、あと、今日は紗希が返ってくるんで冷蔵庫にジュースありますよ」


「はいはい・・・

先にジュース開けるのも悪いしとりあえずこのペットボトルのジュース飲んでおくよ」


言いながら、俺はいつも通り西條の右側、お誕生日席になっている自分の定位置の椅子に座って携帯を取り出した。


携帯でもいじるかと思ったが、西條の真剣に勉強する横顔があまりにも絵になるので、こっそりガン見してしまった。

相変わらず、骨格の細い華奢な美少女という表現がぴったりの見た目をしているな。


で、話を戻すわけだが

どうして青月の生徒たちがここ最近異能の強化にここまで関心が高いのか

俺が思うにそのもう一つの理由は・・・

青月高校生徒会長雪峰紗希さんが紅陽高校生徒会長則武文さんと直接ぶつかってものすごく頑張ったにも関わらず前哨戦に勝てなかったことに、青月の生徒たち各々が少なからず申し訳なさを感じたからのように俺は思っている。


要は頑張っている人の力になりたいっていう、他者貢献の気持ちの一種なんじゃないかと。


そして、今日はその生徒会長様が長いラボからの拘束から解放されて学校に帰ってくる記念すべき日だった。

もっとも、もう放課後なので今日は明日学校に来るために事前に挨拶や準備をするために学校へ来るだけなのだが。


それでも、事前にその事実を知った青月の生徒や先生方は、彼女の帰りを待ってこうして放課後になっても誰も帰宅することなく彼女の帰りを待っていた。


今まで聞いたこともないような異常な状態だが、当然我々もご多分に漏れず

俺と西條は、生徒会室で彼奴の帰りを待っているというわけだ。


暫く西條の整った顔面や、綺麗な肢体を鑑賞していると、校門あたりから地鳴りのような大きな歓声と大きな拍手が上がった。


どうやら本日の主役が帰ってきたらしい。


「こりゃ、生徒会室に来るまで相当待たないとだめそうだな・・・」


「ですね・・・柊も早く一緒に勉強しましょう」


「そうですね・・・」


その後も一定時間後に定期的に謎の歓声が巻き起こり

結局、雪峰が生徒会室に来たのは歓声が聞こえてから一時間以上経ってからだった。


「・・・ごめんなさい、遅れてしまって」


扉の開く音がして、綺麗な藍色の艶髪をたたえた美少女が生徒会室に入ってきた。

一週間ぶりの再会だったが相変わらずかわいい。


「紗希ーー!!!

待ちくたびれましたよ!!」


満を持して登場した青月高校生徒会長様に西條は飼い主に数年ぶりに再会した大型犬のように突進して抱き着いた。


低身長の西條のほうが雪峰より頭半分くらい小さいので雪峰が抱きとめるような格好になり、西條のふわふわの茶色い猫毛を優しく撫でていた。


「あ、白夜生50人を倒して、則武さんと張り合った人だ」


「・・・柊は素直じゃないわね」


「悪かったな捻くれてて」


「そこまでは言ってないわ」


「冗談だよ、おかえり、雪峰」


「ふふ、ただいま」


雪峰は作り笑顔が死ぬまで上手にできる部類の人間だが、俺に向けられたこの笑顔は本心からものだと自信を持って言えた。

きっとこの学校でもこの笑顔を振りまいてもらえる男子生徒など俺以外ほぼいないだろう。

そう思うと謎の独占欲が満たされた。


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