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ハイスクールコンプレックス  作者: 折原
前哨戦篇
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この前哨戦は勝者は・・・


「誰だ!」


この部屋には俺と立花しかいないはずだ。


電撃なんて超常現象が起きる要素はまったくない。


思わず振りかえったが締めたはずの、入ってきた扉が開いていた。

誰かが開けたんだ。


ただ扉の先に見えるのは、青い空と、境内を囲う木々、そして、石でできた鳥居だけだ。

人の姿は見えなかった。

もしかしたら、階段を降りた下にいるので高低差で見えないだけなのかもしれないが。


電撃?・・・電撃!?

嫌な予感が頭をよぎったが、兎にも角にも今は早く神器に触ってこの戦いを終わらせないと!


俺は急いでもう一度神器へ指を伸ばした。


あと、30センチ、10センチ、5センチ・・・


心臓が高鳴り、緊張で動きがスローモーションになっていく。


もう一度指を木箱に触れようとしたまさにその瞬間・・・


爆音とともに、再び糸のように細い電撃が木箱を包み込んだ!


「なっ!」


電撃で包まれ、触れることができなくなった木箱は、磁石が引き寄せられるように俺の手元から引き離され、入口へ向かって飛んでいく。


「え、待て!」


もう一度触れようと空中の木箱に手を伸ばすがそれでも掠ったような感覚はあれ届かない。

木箱はそのまま本殿の外にまで意志を持ったかのように飛んで行ってしまった。

立花も一瞬のことに驚いていたが、すぐに箱を追って本殿の外へ走っていった。


俺も急いでそれに続く。



本殿から出ると

見覚えのある色素の薄い金髪が階段の下に立ちすくんでいた。


「陸斗!」


嫌な予感が的中した。


「へー

これが・・・神器か

思ったよりちゃちだな」



黄輝高校生徒会長 山懸陸斗の手に収まっているもの。

それは、さきほどまで俺の指先数センチまで近くにあった。神器だった。


「な!?」


マジかよそんなのありか。

電気で無理やり自分のところまで引き寄せるなんてそんな裏技あるの聞いてねーぞ


木箱は陸斗の手に触れてしばらくすると、ゆっくりと黄色の淡い光に包み込まれてしまった。

恐らく所有権が移転してしまったのだろう。


「・・・どういうつもりですか、山縣君?」



ここまで余裕の表情だった立花もこの事態には流石に想定外だったのだろう。

訝しげな眼差しで陸斗を睨んだ。

立花もそんな表情をするんだな、なんて場違いなことを少し思ってしまった。


「ああ?

何が言いたい?」


一方の陸斗は、相変わらずの人を悪の組織の数人殺った若手幹部のような眼差しで、俺たちを睨むと鼻で笑った。


「僕との約束はまだ有効ですよね?

河川敷で雪峰さんを助けるというのはどうなったんですか?」


「・・・立花、確かに俺の学校の生徒で、お前のしょうもない話に乗った奴はいるが、乗ったのは俺じゃねえよな」


「それでも、"黄輝高校"としてそう動いてくれるという話でしたが・・・」


「俺自身はそんな指図はうけねえんだよ

そもそもお前の人を思い通りに動かせるみたいなその態度が俺は昔から大嫌いでな、誰が何といおうが絶対に従いたくねーんだよ

それにここでこうして叩いてしまえば、白夜に五校祭で勝ち目なんざねえだろ」


此奴らがなんの話をしているのか、前提知識のない俺にはよくわからなかったが立花が陸斗に事前に水面下でコンタクトをとっていたんだろう、ということは何となく察することができた。


神器の入った木箱は徐々に光を失っていく。

それを確認した陸斗は俺たちと会話しながら木箱の上部に着けられた。スライド式の蓋を取り外し始めた。

箱の中身を確認して神器を取り出すつもりのようだ。



「どうやって此処を特定したんだ、陸斗」


則武さんといい、どうしてこうも今日は俺たちの行く先々でA判定が現れるんだ。

どう考えても裏で監視されているようにしか思えない。


「なんでもいいだろ、別に」


視線を木箱から一瞬こちらへ寄こした陸斗は興味ないといわんばかりの口調でぞんざいにそう言った。


「則武さんと同様に僕たちには言えないやり方なのでしょう

彼の異能力は電気、GPSに細工でもしてデータを抜き取るぐらいのことはやるでしょうし」


「神器が俺のところにあるんだから今更そんなこと、どーでもいいだろ

・・・で、どうするんだ」


立花の指摘も無視して、桐の箱の中身を漁り続けながら陸斗は言った。

否定しないということは図星なのだろうか。


「今から、この木箱を俺から取り返すか?

お前ら2人で俺に勝てると思うならかかって来いよ

早くしないと中身を取り出すぜ?」


E判定&異能を戦闘に使えないA判定 VS 電撃のA判定


戦力としては100対0もいいとこだ。

立花が前哨戦から離脱していなければまだ戦えたのかもしれないが、今の状態では一般人が二人いるのとたいして変わらない。

勝ち筋なんてほぼないに等しいのだろう。


「立花?」


俺はもしかしたらこの状況を打開してくれるいい案があるのでは?、という一縷の望みを託して立花の方を向いた。

しかし、立花の表情を見た瞬間そのような奇跡は起きないのだと悟ってしまった。

立花は表情一つ変えないまま小さく呟いた。


「はあ・・・

このタイミング、しかもピンポイントで特定され襲撃、それも御天でも五指に入るA判定に、となると僕も予定外です、対策の仕様がない」


流石の立花もため息をついて、白旗を上げてしまった。

御天でこの電撃使いに対抗できる異能力者は片手で収まるレベルしかいない、というか則武さんぐらいだろうし、このタイミングでなくても陸斗が出てきた時点でほぼ無理か。


西條や雪峰の頑張りもあってやっとここまで来たのに、このタイミングで横取りされるなんて

正直諦めたくはない。


ただ、先にこの木箱に触れたのは陸斗だ。

しかも今更取り返したところで所有権が移ることはない。

八方塞がりだった。


「神器の所有権は一度触れた人間に移り、そこから取り返してももう変わりません

残念ながら、今回は諦めるしか

こんなハイエナみたいなやり方をされて横取りされるなんて

僕も本当にムカついていますが」


そういうと、本気で悔しいのだろう。

立花には珍しく大きなため息をついて、首を横に振った。


「ただ、まあこのままただで終わらせるつもりもないですけどね」


「ん・・・神器の中身は、これか」


陸斗が箱から取り出したものは、どうやら銀色の指輪のようなだ。


「内側に何か文字が彫ってあるな・・・

まあいい・・・」


そのまま、箱には用がないといわんばかりに箱を投げ捨てると、陸斗は持っていた指輪を右手の中指に着けた。


すると、再び指輪は全体が黄金色に輝き始めた。


「これは・・・へー、なるほどな

神器、なんて大層な名前が付いた理由が何となくわかったぜ」


指輪を指にはめた途端に、独り言をぶつぶつと陸斗が唱え始めた。

途端、晴れて雲もほとんどなかったはずの空が陸斗を中心として、円状に急速にどす黒い雨雲が集まり、次第に強い風が吹き始めた。


「どういうことだ、何が起きてる!?」


陸斗は空を見上げ、乾いた笑いを上げながら、何かを察したように一人で納得したようだ。


「・・・ははは、

この前哨戦は勝者は・・・俺たち、黄輝だ」


そう言い終わった刹那、今まで見たこともない痛いほど眩しい白に視界が包みこまれ、思わず目を閉じて二の腕で目を隠した。


その直後、隕石でも落ちたんじゃないのかというような爆音がして

境内の中にあった大木が陸斗の背後で重力に負けて、頂点部分を燃やしながら根元から崩れていくのを薄目で捉えた。


そして俺は木が倒れた衝撃で生まれた地面の揺れと、その生温かい風圧を全身で感じていた。

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