今の私なら貴方に負ける気がしないの
「な!?貴方・・・本当に私たちと同じところまで・・・」
「自分でも不思議だけど、今の私なら貴方に負ける気がしないの」
珍しく目を丸くする則武さんをしり目に
雪峰は二つに割った川の水を対岸の岸へ大量に流し込む。
流し込まれた水は炎の壁を一瞬で飲み込むとそのまま対岸一体を川の水が覆ってしまった。
しかも、雪峰の異能はそれだけではなかった。
「おいおいマジかよ・・・」
「彼女も・・・ついに」
対岸を覆った水は端の部分から急速に凍っていく。
瞬く間に見慣れた河川敷は薄い氷の張られた雪原に様変わりしてしまった。
6月なのにあたり一帯の地面には氷が張られ、体感で温度が10度ぐらいは下がっている。
「柊!氷が則武さんの異能で溶かされる前に早く逃げて!
あと、則武さん!まだ決着はついていないわ!」
雪峰はそれと同時に再び水を集めると濁流を則武さんへ向けて、射出した。
川の水を真っ二つにして、対岸一帯を氷漬けにし、そのうえで更に濁流を則武さんにぶつけるだなんて。
雪峰の扱える水の量が時間とともにどんどんキャパが増加しているのが感じられた。
映画のワンシーンでも見ているかのようで唖然として思わずその場に立ちすくんでしまったが、雪峰の言葉に我を取り戻した俺は立花の後に続く形で、一気に河川敷の堤防を駆け上がり、そのまま則武さんの目に見えないところへ移動した。
「これで、とりあえずは則武さんに襲われることもないか」
雪峰のおかげでなんとか脱出に成功した俺はまず携帯を取り出し、西條へ連絡し事の顛末を説明した。
家で休んでいた様子の西條だったが俺の話を聞くと声を荒げ、すぐにうちのB判定の生徒を救援を送る旨と、自分も雪峰の元へ急いで向かうといってくれた。
立花も河川敷から離れた瞬間に携帯を取り出しどこかへ少し連絡をした後、一生懸命走っていたが
やはりひょろ長いもやしの見た目通り、普段からあまり運動していないのか運動はあまり得意ではないのか、長い手足を躍動させていたが、あまり走るスピードは速くないようだった。
西條に電話しながらでもついていける走行スピードだ。
電話を終えて携帯をポケットにしまった俺が本気で走るとすぐに立花に追いつき、俺は彼の腕を掴んだ。
「・・・おい、立花!
どこへ行くつもりだ!」
「決まっています、この前哨戦を終わらせるんです
神器を手に入れて、ね」
俺の腕を振り払うような素振りも特にせず、
追いつかれた立花は俺から逃げるのを諦めたのか、走るのをやめて早歩きに切り替えて振り返ることなく言った。
「・・・雪峰に戦わせているうちにか」
せめてE判定の俺にできることはこいつが変な行動を起こさないように監視をすることだろう。
そう思った俺は、立花から目を離すことなく話続けた。
「協定がある以上、白夜がこの前哨戦に勝ったほうが青月としても好都合でしょう
特典の山分けについても破るつもりは一切ありませんし
寧ろ僕の行動には感謝してもらいたいぐらいです」
「まあ、それはそうなのかもしれないけど・・・」
立花の行動そのものを咎めるつもりはないし、素早く自分のすべきことをこなすその態度は流石五校で会長をしてるだけあるとは思う。
ただ、俺が懸念しているのは・・・
「柊君は・・・
雪峰さんがいなくなった今、僕が協定を裏切る、と思っているのでしょう?」
からかうような口ぶりで立花はにやりと笑って言った。
人の心を読むのが本当にこいつはうまい。
もしかしたら、異能で俺の心を読んでいるのかと思うほどに。
異能感知デバイスが反応しないところを見ると、異能ではなく純粋に人の心を読むのがうまいのだろうが。
「そうだな」
特に今更否定する気もない俺は素直に認めてしまった。
どうせ此奴には口では出まかせをいったところでそれすら読まれてしまうような気がしたからだ。
「その心配は不要ですよ
もし、僕が協定を裏切るような行為をすれば、その時は、協定を持ち掛けたことそのものを表に出せばいい
そうすれば、青月も少なからず罰せられますが、話を持ち掛けた僕はさらに罰せられますから報復できます」
思わず、一体立花は、俺にそんな入れ知恵をしてこいつはどんな得をするのだろう、と思わず裏を考えてしまった。
それぐらいこの立花という銀髪の男に得体の知れない底知れなさと警戒心を感じてしまっている。
「そろそろ人通りの多い市街地に入ります
基本的に裏道を通っていこうと思うので、僕を監視したければあまり離れないほうがいいですよ
見失いたくないのなら、ね」
立花は人にできるだけ合わないよう細心の注意を払いつつ移動していく。
俺も彼の傍をはぐれないようについていった。
「・・・なあ、立花」
無言の移動時間が続いていたために魔が差しただけだ。
思わず移動しながら俺はなんとなく立花に話しかけてしまった。
「なんですか?」
「ただの雑談だけど・・・
雪峰は今、無事だと思うか?」
「僕の推測ですが・・・」
相変わらず立花は早歩きで俺の数十センチ前を歩き、五校の生徒に見つからないよう警戒しつつ
一度もこちらを振り返ることなく話し始めた。





