その程度で私から逃げれたと思ったら大間違いよ
「この火の包囲網は貴方の攻撃が終われば、自動で再開するようにコントロールしているし
もし仮にこの包囲を突破したとしても、また貴方たちの進行方向を防ぐように円を描いて包囲網を再設定するだけだわ
神器の場所を言わない限り、貴方たちが此処を出ることはない」
くそ、厄介だな。
一時的に包囲を突破できたとしても、結局また包囲網を再設定されるのでは意味がない。
珍しく立花の案には賛成だったが、これでは八方ふさがりだ。
誰か助けを呼ぶほどの時間もないしそもそも俺にはそんなツテもない。
色々な可能性を検討したがどれもいまいちぱっとしないな・・・
立花も次の手を考えているようだが、まだ口に手を当ててフリーズしたままだ
このまま時間だけが流れるかと思ったその矢先・・・
「・・・ねえ、柊
もう一つ手があるわ」
雪峰がこちらに目を合わせて力強くいった。
深海のような濃い青の瞳がこちらを覗く。
「え?」
「この包囲から抜け出す方法よ
柊、立花君、私が次の攻撃を則武さんに仕掛けたら、思い切り川へ向かって走って」
「何をするんだ」
雪峰の自信ありげな顔を見る限り何かいい方法を閃ていたようだったが俺にはまだ全体像が全く把握できていなかった。
「川を渡れるようにするから・・・
その後は任せたわ、立花君もね」
「なるほど・・・そういうことか
承知しました」
立花が何に納得したのか俺には分からなかったが
雪峰は再び大量の川の水を自分の周りに引き寄せて集約すると、今度はそれをちぎっていきたくさんの水の球体を作成していった。
その水の球は徐々に小さくなっていく。
どうやら今度は集めた水を圧力で小さくすることで密度を高めているようだった。
野球ボールサイズの水の球はその後もどんどんと収縮を続け、ついには本物の銃弾ぐらいまで小さくなった。
雪峰の前方には無数の水の銃弾が浮かんでいる。
「・・・密度を上げても、強度は増すわよね」
雪峰は何も言わず目を大きく見開くとそれが合図だった。
水の弾は予備動作もなく残像を残して猛スピードで則武さんへ突進した。
もし当たったら本物の銃に当たるようなものだろう。
「!?」
雨のように降らせた銃弾は再び則武さんの炎の壁を突破したのだが・・・
「まだまだね」
やはり、今回も則武さんが内側に展開したシールド型デバイスを突破することは出来なかった。
「・・・予定通りだわ」
雪峰は則武さんへの攻撃と同時に自分の周りに集めた水を急速に冷凍させ、氷の板を異能で生み出し、それを川縁まで絨毯のように敷き詰めた。
俺と立花はその上を走ることで川辺まで火を気にすることなく一気に移動する。
しかし、このままでは川が邪魔をしてこれ以上は進めない。
雪峰の作戦は勿論これだけでは終わらなかった。
「柊!今!」
「!?」
則武さんが防御態勢に入った隙に、俺たちが川へ飛び込もうとしたその瞬間・・・!
川の中で空気が破裂したような音の後、川の水が対岸まで数十メートル先までまっすぐ割れてしまった。
まるでモーセの出エジプトに出てくるまさにそれのようだった。
「僕も検討はしたが・・・
しかしまさか実現できるとは」
いつもは斜に構えたような態度をとる立花も川が真っ二つに割れるなんて非日常な光景を見て驚いているようだ。
しかも、この川はただの小川などではない。れっきとした一級河川だ。
相当の水量を持つこの川の流れをいとも簡単に堰き止めるなんて・・・
どうやら俺は、他のA判定と同様に雪峰が人間を辞めてしまった瞬間を見届けてしまったらしい。
「すまん!雪峰!無理は絶対するなよ!
すぐに助けを呼ぶからな!」
川底に飛び降りると俺は振り返って口を手の周りに当ててメガホンのようにして雪峰に声をかけた。
「ええ、私もタイミングを見計らってすぐに追いかけるわ!」
俺と立花は雪峰が作ってくれた道を全力疾走し対岸を目指した。
早く則武さんの異能が効力を発揮する範囲の外まで逃げないと。
「・・・へえ、なるほど
考えたわね、雪峰さん
でも、その程度で私から逃げれたと思ったら大間違いよ・・・」
則武さんは裏をかいたことに関心しつつも、ニヤッと笑うと今度は対岸の俺たちが登るはずだった到達地点に炎の壁を作ってしまった。
これでは、俺たちが川底から河川敷へ登ろうにも上ることができない。
状況を打開できたかに思われたが、これでは川底で閉じ込められているようなものだ。
「くそ、炎が邪魔で河川敷に上がれないぞ!」
則武さんが炎の壁を対岸に川に平行になるように作ったことで、岸に上がろうにも上がれない。
これじゃ、川底に閉じ込められているのと変わらないな・・・
「クローサーをつけていて尚この強さ・・・
やはり御天で最強といわれるだけありますね・・・」
「いや、感心してる場合かよ・・・どうすんだ?」
立花はA判定異能力者だが、もう既にこの前哨戦では異能を使えない。
つまり、この炎の壁をデバイスでどうにかもできないのだろう。
折角雪峰に道を開けてもらってもこれでは先に進めない。
これじゃ振りだしだ。
「川の対岸も私の異能の有効範囲なのだからこれぐらいできるわ」
「・・・誰も、私の異能の射程距離は対岸まで届かないとは言っていないわ」
何か対抗策を考えなくては、と思ったその瞬間・・・
雪峰はこちらを向いて俺に小さく笑う。
それが合図だった。