やっぱり貴方では私には勝てないわね
「慣れないうちから異能を使いすぎると後遺症が残ったりする可能性があるから
気を付けたほうがいいわよ!!!」
則武さんが手を上から下に振り下ろす、と同時に細く伸びた炎の糸が数本、意志を持ったかのように雪峰を襲う。
しかし、雪峰も息を切らしながらだったが再び川から水を自分の周りに引っ張ってくると水の壁を即座に展開、攻撃を防いだ。
糸は水の壁を貫通することは出来ず、ジュッという音共に消えていった。
「なかなか硬い壁ね」
「今度はこれならどう!」
雪峰は水の壁に更に水を供給することでその厚さを更に増していく。
ついに、自動販売機サイズの四角い巨大な水槽ができた。
「何をするつもり」
「貴方と同じよ」
次の瞬間、巨大な水槽の水の一部が分離し、弾丸のように則武さんめがけて飛んで行った。
まるで水の銃撃だ。
「なるほど!
でも、こんな水鉄砲では私は倒せないわ」
やはり、則武さんの目の前に展開した火のカーテンを水の弾が通過することはない。
水では、火で生成したシールドに激突して水蒸気になり替わるのが関の山だった。
「硬さが足りないのね」
そういった雪峰は目を閉じて呼吸を整える。
再び目を見開くと徐々に雪峰の前に会った水の壁から再びいくつかの水が分離して矢のような形になった。
その後、水でできた矢は白く硬くなっていく・・・
雪峰が水を徐々に凍らせたんだ。
こんなこともできるようになったのか。
「……溶けるまで時間がかかるし、これなら硬さもでるんじゃないの」
氷の矢は空中を浮かんでいたが、再び雪峰が手を払うと一切に則武さんへ向かって疾走していく。
「え!?」
則武さんは再び火の壁を展開することでこの矢を回避しようとしたが予想以上の硬さだったらしい。
火の盾も貫通した矢は則武さんの体へ向けて一直線に飛んでいった。
今度こそやったか……?
やっと雪峰の攻撃が火の盾を破って、則武さんに届いた!と思ったのだが……
「色んな異能力者と戦ってきたけど・・・
私に強制的にデバイスを使わせたのは貴方が初めてだわ、雪峰さん」
炎の壁が煙のように消えていった後、俺たちが見たのは則武さんが展開した赤いシールド型デバイスだった。
シールドには雪峰の放った氷の矢が何本も突き刺さってはいたものの、それらのうち則武さんまで届いたものは一つもなかった。
則武の奴、咄嗟に火の盾の内側にシールドを貼ることによって雪峰の攻撃を塞ぎきったんだ。
「この程度で終わり?
なら、やっぱり貴方では私には勝てないわね」
そういって不敵な笑みを浮かべた則武さん。
この状況を楽しみ始めたのか、敢えて攻撃を加えず俺たちがどう対抗するのか見て楽しんでいるようにも俺には映った。
土壇場での雪峰の覚醒は、嬉しい誤算だったが、未だに底が見えない則武さんにはまだ有効打を与えることができていない。
このままでは埒があかない・・・
どうすればいい
「雪峰さん・・・少しいいですか」
打開策の見つからない小康状態に陥ったこのタイミングで
先ほどまで何も話さなかった立花が久々に口を開いた。
「どうしたの?」
「則武さんとこれ以上ここでぶつかっても状況が打開できそうにありません
ここは一旦、周囲を取り巻く、この炎の檻からどうにかして抜け出せないか考えないですか?」
「・・・それもそうね
この人を倒す暇があるのなら神器を手に入れるためにこの炎の包囲網を抜けるほうが優先、か」
立花の提案はもっともだし、俺も同じことを考えていた。
俺たちが則武さんから逃げようにも則武さんの異能によって取り囲むように360度、炎の壁で覆われ逃げれないように閉じ込められてしまっている。
この壁を一時的にでも無力化できれば、その隙に則武さんから逃げることができる。そうすれば、これ以上御天で最強の異能力者と戦う必要もなくなる、ということを立花は言いたいんだろう。
「雪峰さん、火の包囲を一時的に水か氷で消すことができないですか?
それで隙を作って逃げれるのならみんなで逃げましょう」
「・・・試しにやってみるわ」
問題はどうやって周りを取り囲むこの火を無力化するかだったが
雪峰はすぐにアイデアが思いついたらしい。
再び川から水を集めた雪峰は、それを凍らせることでちょうど細長いコンクリートブロックのようなものを複数作った。
「これを置けば、炎は消えるはず・・・」
そして炎の壁の上にその氷を大量に置くことで、一時的に炎の包囲を解こうとしたが・・・
「・・・だめだ、すぐに他の場所に包囲網が出てきてしまう・・・」
氷を置いた場所には狙い通り効果があり炎の包囲を消すことができたのだが、その代わりにその外側にまた新たな炎の壁が出現してしまった。
これではまた包囲網が新たに形成されただけで自体が何も変わっていない。
「柊の言う通りね
氷を置いた瞬間に他の場所に代替の包囲網ができてしまう
これでは外に出れないわ」
「・・・もしかして、この包囲を解くつもり?
それは無理よ」
則武さんは相変わらず攻撃をしてくる素振りはなく、こちらの様子を余裕の表情で伺っているつもりのようだ。
何やら携帯を取り出すと、内容を確認しながら話し続けた。
雪峰に本気でぶつかってとどめを刺すことなく、このまま舐めプを続けるつもりなのだろうか。