今回は私が相手になるわ
「え?」
「・・・2年前、自分に強力な異能が発現したら、今までの付き合いを全部切って関わらないようにして、都合のいい人間を周りに集めて
今年の始業式の日に久々に会っても、相変わらず五校とは今後も距離を置けといわれて
今度はうまく収めるから言うとおりにしろと異能を使って脅す
全部自分の都合・・・
もう少し人に対して思いやりを持ってもいいんじゃないのか、お前は
そんなだから・・・」
「想・・・」
「LARMSもなくなっちゃったんだろ
お前含めみんなが他の人のことを考えないで自分の都合ばかり言うから
・・・お前らがどう思ってんのか知らないけど、俺は、ずっと仲良くできると思ってたんだぜ」
思わず、本音を出してしまったが我慢できなかった。
「・・・がう」
「え?」
「・・・違う!
想は知らないかもしれないけど私にだって言いたいことは山ほどあるの!
貴方だって昨日いきなり、あんな・・・あんなことしなくても!」
俯いて俺の話を聞いていた則武さんがこちらに顔を向けて目を見開いた。
感情が暴走したのか、則武さんが叫ぶと同時に火の玉がこちらに向かって飛んできた
いくつかを何とか躱すが、量が多すぎる。
また則武の異能が暴走したんだ
どうして?
俺がいるからなのか?
「まじかよ!」
でも、もう今はそんなことを言っている場合ではない。
もう避けられない、終わった。まじで死ぬ。
「!?」
諦めて火傷を覚悟した直後
水が蒸発した音がした後、水蒸気が上がって視界がぼやけた。
何があった?
違和感を感じながら水蒸気の靄があけるのを待っていると、目の前に水の壁が現れていた。
どうやら、俺の顔面に火球が激突する寸前薄い水の壁が出現し、俺から攻撃を守ってくれたようだ。
「・・・どういうことだ?」
則武さんも立花二人とも何が起きたのか理解できないようだった。
「柊!大丈夫?」
安堵のあまりへたりこんでいた俺に雪峰が駆け寄ってくれた。
その途端、水の壁は自立できなくなり、重力に負けて元の水に戻って地面を濡らした。
「ああ、ただタブレットを落としたからは壊れちまったけど
てか、―――」
そんなことよりこの異能は、雪峰のものなのか?と聞こうとしたがその前に雪峰はすっと立ち上がり
再び則武さんを前に仁王立ちした。
「・・・ねえ、則武さん
・・・今回は私が相手になるわ」
言いながら雪峰はポケットからヘヤゴムを取り出すと後ろで一つに括った。
「・・・え?正気なの?
D判定のあなたが?
怪我をするだけよ?」
「・・・私は未だにD判定だし
五校の生徒会長として、ここまでみんなの期待を応えているとは言えないわ
それでも・・・それならそれでいいって今は思っているの」
今の雪峰は、陸斗と西條が戦っていた時のように自信なさげに佇んでいたときとは明らかに雰囲気が違った。
時間稼ぎでも何でもなく、本気で則武さんに挑む気だ。
「諦めたの?A判定は?」
「ううん、違うわ
私の最終目標はあくまで五校祭に勝つこと
私自身が成長してA判定になるなんてその目標に比べたら二の次なんだなってことに気が付いたの
だから・・・別に貴方に勝たなくてもいいの
柊、みてて」
「・・・!!?なにこの水の量」
雪峰が右手を横に突き出す。すると川の水の波紋が徐々に大きく、荒くなっていった。
気が付くと川の水が流れを捻じ曲げられて浮かび、そのまま雪峰の周りに集まっていた。
「貴方に固執する必要も勝つ必要も本当はないし、私は私の目的をただ果たせばいいだけ
柊がそう気づかせてくれて、それで精神的にかなり楽になってね」
大きな水のうねりはそのまま則武さんに向かって今にも襲いそうな勢いだ。
雪峰の異能がついに開花したんだ・・・
どのような異能力者になれたのかまでは分からなかったが、想像以上の強力な異能力者になったのだということだけは理解した。
「この一帯を地面ごと押し流すするつもりなの!?」
「”どうせ異能課が直しにきてくれる”のでしょ?」
「ふふ、お返しってわけねいいわ乗ってあげる」
「千織への貸しまで返してもらうわ」
雪峰の周りに集まった水はたちまち一軒家ぐらいの大きさに膨らんでしまった。
それでもまだ膨張を続けており、流石の則武さんも目を丸くしていた。
「もう逃げない・・・」
雪峰の集めた大きな水のうねりは、雪峰さんの叫び声と同時にそのまま則武さんを襲った。
濁流が地面や草木を抉り、そのまま押し流す。
災害並みの威力を発揮した一撃が則武さんを包み込んだ!
「くっ!」
則武さんはシールド型デバイスは展開せず、雪峰の攻撃をそのまま受けていた。
どうやら則武さんは自分の周りに炎の壁を展開することで雪峰の濁流を防いでいるようだ。
流石の則武さんでもこの水量が直撃すれば一発KOかと思ったがそこまで甘くはなかったらしい。
再び大量の水蒸気が上がったが、則武さんは倒れていないようだった。
寧ろさっきからずっと同じ場所から動いていない。
この攻撃を繰り出したのが本当にあのD判定だった雪峰なのか?
俄かには信じられないな・・・
「・・・まさか、このタイミングで異能が覚醒するなんてね
こちら側に来たのね雪峰さん」
すべての攻撃を受け切った則武さんは息も全く上がっていない。
火の包囲も大量の水が流れたことで一時的に解かれていたがほとんどラグもなくもう元に戻っていた。
「はあ、はあ・・・なるほど、この状態が異能力者なのね
初めての感覚だわ」
初めて大量の異能力を使用した雪峰は100メートル走を終えたアンカーぐらいに息を切らしていた。
その隙を則武さんは見逃さない。