僕が今までこのような取引で嘘をついたことがありましたか
「一緒にこの部屋を出るのも目立ってしまいます
なので時間差でここから出ましょう、僕がこの部屋を出たのち、暫くしてから追って来てください」
立花はそう言い残すと、俺たちの返事を聞く前に後ろ手で生徒会室の扉を閉めて消えてしまった。
何やら急いでいるようだった。
なるほど、こんな朝早い時間に集合しようと立花が提案したのは
うちの生徒会室に奴が来ていること自体や雪峰と一緒に行動していることがバレないようにという裏事情があったんだな。
立花の今までの苦労に今更思いを馳せつつ、立花が生徒会室を出て数分後、指示通りに俺たちも生徒会室をでた。
学校を出て雪峰のタブレットに表示された経路を辿り、裏道や路地裏を通って他人にほぼ会うことなく立花の用意した車を校舎裏に見つけた。
「タクシー・・・か?」
「いえ、多分タクシーに見た目を似せているだけで運転手は立花家の人間なのでしょうね
あれほど外に情報が漏れるのを嫌がっていたのだし
それにしても相当用意周到ね、彼」
立花の用意した車に乗ると初老の運転手が何も言わず目的に場所へ向かって運転し始めた。
この対応を見る限り雪峰の仮説がビンゴのようだな。
運転手に現況を軽く聞いてみたが、もう既に立花は集合場所に向かっているとのことだった。
「集合場所・・・というはどちらになるんですか?」
「・・・もうすぐ到着いたします」
俺の質問をはぐらかされつつ、そこから更に暫く車に乗ると目的地についたらしい。
俺と雪峰が車を降りると、追い出すかのように数秒で乗っていた車は一気に加速し走り去ってしまった。
一切の容赦がないな。
「ここは・・・」
どうやら立花が指定した集合場所は白夜高校近くの河川敷のようだ。
「こっちです
降りてきてください」
声のする方へ顔を向けると河川敷の橋の下あたりから白夜生が歩いてこちらへ来るのが見える。
俺と雪峰は立花が待っているであろう河川敷へ降りて近くにかかっている大きな橋の下の影を目指した。
「待ってましたよ」
いつもの見慣れた胡散臭い笑顔で立花は俺たちを迎え入れる。
河川敷の上からでは見えなかったが、橋の下に来てみるとまるでBBQか、文化祭の出し物の練習でもやっているかのような人だかり・・・
制服を見る限り、全員が白夜生のようだ。
俺たちが来たのに気が付いた途端、一斉にこちらに視線を向けてきたので思わず気圧されてしまった。
「・・・人目につかないでこれだけの人数を待機させるのは場所を選ぶので
しかもここなら白夜から裏道を通って人目に触れることなく来れるってわけです」
他校に不穏な動きを悟られないように細心の警戒を払う立花らしいな。
ここならたくさんの人を隠しても、目立たないので問題ないと判断したのだろう。
大きな橋の下にあるため、上からの視界が遮られているうえに薄暗い。
河川敷まで降りてくれば見られてしまうが、このあたり一帯は遊歩道としても整備されていないのでそこまで人通りも多くないときている。
しかも整備されていないがゆえに、周りも草木でうまく隠れてしまって見晴らしもよくない。
橋の下は秘密基地のような、隠れ家的な場所でまさにうってつけだった。
暫くすると、大量の白夜生の人だかりの中から、リーダー格らしき生徒が出てきて、立花に話しかけた。
「・・・立花、一応念のために確認しておくが例の話は本当なんだろうな?」
「・・・僕が今までこのような取引で嘘をついたことがありましたか?」
張り付けたような爽やかな笑顔に、いかにも好青年といった感じの声で立花は答えていた。
明らかに作った声と表情すぎて気持ち悪い。
「おーけー、それならいいんだ」
白夜生たちに異能を使って洗脳しているのではないか、と思った俺は、咄嗟に雪峰からもらった検知型デバイスの電源をいれたものの、まったくうんともすんとも言わない。
どうやらこいつは今のところ異能は発動していないままのようだった。
とはいえ、異能も使わないでこれだけの数の生徒を呼ぶなんてまず無理だろう。
そんな人望もコミュ力もありそうな人間に立花はとてもじゃないが見えないが・・・
恐らく俺たちに会う前から異能を使い自分の高校の生徒を操作しているのかもしれない。
可能性としてはそちらの方が高そうだ。
「あと少しで二日目の前哨戦の開始時刻になるので、そろそろ始めましょう。
雪峰さん、このデバイスを起動させてください」
手渡されたのはスタンダードなナイフ型デバイスだ。
柄の部分だけで、刃のないナイフといった見た目なのだが、柄の部分を握って異能を流し込めば起動して、光の刃が炎のように出現する見慣れた代物。
雪峰は立花からデバイスを受け取ると、異能を流し込む。
途端に青白い光の刃が出現した。
「これでいい?」
「ああ、少し借りますね」
雪峰が起動させたデバイスをもった立花は先ほどのリーダー格らしき男にナイフ型デバイスを渡した。
「じゃあ、始めるのでタブレットを用意してください」
雪峰のタブレットを持ってきた俺は起動させて地図アプリを開いた。
「そのナイフで攻撃をするの?」
「そうですね
雪峰さんの起動させたデバイスで全員のスマートウォッチを攻撃すればすぐに、倒された扱いになるので」
「なるほど、それで私が倒した生徒数をドーピングするわけね」
「・・・よし、じゃあ立花いくぞ
何度も言うが、約束、忘れるなよ」
「勿論・・・」
約束、というのが何を指すのか俺には分からなかったが
そういうとナイフを持った白夜の生徒は自分のスマートウォッチにナイフを突き刺した。





