飲みすぎた大学生かよ
「・・・ああ、雪峰を助けれると思えばできる限りのことは何でもする」
俺には異能力は全くない。でも、できることはなんでもする。そう以前誓ったからな。
有言実行させてもらうよ。
「柊と千織が何かあったら助けてくれるって思うようにしてから、気持ち的にかなり楽になったの
だから、ありがとうね、柊」
「勿論、それは大前提であるけど・・・
ただ、俺は・・・俺が心配しているのは
雪峰が立花に都合よく利用されて騙されないかってことだよ」
「・・・心配してくれてありがとう、想
勿論私も何か立花君が怪しい行動をしてきたらすぐに警戒するから、だからそんなに心配しなくていいよ
自分の身ぐらいは自分で守れるから」
相変わらず、陶器みたいな綺麗な肌と小さくて整った顔だな、なんてもう知り合って暫く経ったわけだが未だにはっとさせられてしまった。
青みがかった大きな双眸と目が合う。雪峰の瞳からは強い意志を感じた。
「そっか
立花のことは前から知っていたのか」
「ううん、直接会ったのは今回が初めてなの、彼は五校評議会にもずっと不参加だったし
色々と噂は立っているみたいだけどね」
「そうなのか、どんな噂だ」
「うーん、賢くて抜け目ない人っていうのはよく聞くわね
それから、自分の異能で人を操って思い通りに動かしてる、とかも」
「いい噂ではなさそうだな・・・
にしても、人を操れるなんて、A判定なだけあるな」
何となく分からんでもない。
あんな芝居がかって本心が見えないような態度では、親しみやすいというタイプではないだろう。
カリスマ性はあるのかもしれんが、個人的仲良くしたい、というタイプでもない。
そんないけ好かない奴ではあるが、相手を洗脳できるなんてチートの異能を持ってるのか。
陸斗や則武さん、西條たちと同様に彼奴も人間を辞めてる勢なんだな。
自分で自分を自信満々にA判定ていうだけある。
「・・・そうね
ただ、今日は少なくとも私たちに異能を使ってはこなかったみたいだけど」
「どうしてわかるんだ」
「これをみて」
「・・・なにこれ」
雪峰が制服のスカートのポケットからモバイルバッテリーのような見た目の黒い四角形を取り出して机の上に置いた。
「所謂、検知型デバイス・・・異能が近くで使用されたかどうか検知できるデバイスよ
前哨戦の開催時間外での異能の使用は一律禁止されているでしょ
もし立花君が異能を使ってこれが感知した瞬間、ラボに通報がいくように改造していたの
そうすれば、立花君が異能で私たちに危害を加えようとした瞬間、ルール違反で取り締まれるから」
「なるほど
ちゃんと立花の異能対策は立てていたんだな」
「精神操作系異能力者とコミュニケーションをとるときにはかなり警戒が必要だからね
気が付いたら洗脳されてた、なんてなったら笑えないし
明日も立花君が異能を使った瞬間に即、ラボへ通報するわ
クローサーもつけていない、しかも前哨戦はもう既に降りてるA判定が異能を他校の生徒に使ったことがラボにばれれば一発アウトだから」
言いながら雪峰は机の周りの電子機器を片付け始めた。
恐らくこの前哨戦で使ったデバイスなのだろう。
デバイスに関する知識がほぼゼロの俺には一体机の上にあるデバイスたちがどのような機能を持つものなのか、何が何やら分からなかったが。
「表向き、あいつは自分の異能をこの前哨戦で使えないことになっているけど
奴には警戒しすぎてもしすぎるなんてないと思うぞ」
「そうね
あとで柊にもこの検知型デバイスを一つ渡しておくから
念のために身に着けておいて
明日、倉庫から持ってくるから」
「ありがと」
「今日は柊も色々あって疲れたでしょ
もう帰りましょうか
一通り片付けも終わったし」
「ああ、そうだな
本当この高校生活で一、二を争うレベルで濃かったよ」
則武さんや陸斗と久々にあった日も相当濃い一日だったけど今日はそれに勝るとも劣らないぐらい刺激的な一日だった。
一日しかたってないのに体感ではもう一種間ぐらいの時間が流れた気分だ。
「ヘッズと紅陽の副会長を倒したのでしょう?本当すごいわ
その話まだ聞けてないから、詳しく聞かせてね」
「ああ、話しながら帰ろうぜ」
早く帰って明日に備えよう、という話になった俺たちは今日のところはいったん解散し
今日あったことを報告しながら一緒に学校を出た。
◆
―――前哨戦 2日目
朝一、自分の教室には目もくれず、俺は生徒会室に歩を進めた。
最早今となっては自分の教室なんかより、生徒会室のほうが遥かに居心地がよくなるなんて数か月前までなら想像もできなかっただろうな。
ただ、よく考えると生徒会室には冷蔵庫も電子レンジもテレビもゲームも扇風機もあるわけだからある意味居心地がいいのは当然といえば当然なのだが。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は生徒会室の古めかしい扉を開けた。
部屋を見渡すと、一人コーヒーを入れて優雅に定位置で勉強をしている雪峰がいるだけだった。
雪峰に指定された時間は普通の登校時間と比べれば相当早かったが
それでも、大概西條は朝、一番乗りでこの部屋にいるタイプだし、遅刻なんてありえない人間なのにこの場にいないのは相当珍しいな。
「あれ?西條は?」
「・・・二日酔いらしいわ」
やれやれ、といった表情で目を細めた雪峰は首をかしげながら答えた。
「・・・飲みすぎた大学生かよ」
思わず言いながら鼻で笑ってしまった。何やってんだよ彼奴。
「概ね同じかもしれないわね
しょうがないわ、今日は二人で頑張りましょう」
勿論言葉通りの意味ではないのだろう
俺の血を飲みすぎて酩酊状態だったのがまだ醒めないのだろうね。
昨日の時点で相当きてたけど、一日じゃ回復しなかったってことか。
不本意な形で雪峰は青月の飛車を失ってしまった。
最強最大の護衛が今日いないのは相当厳しいけどわざわざそれを口にしても仕方ない。
俺も荷物を置くと携帯で前哨戦関係のニュースをチェックしつつ、立花の到着を待った。