"異能力者としての前哨戦"を僕はもう既に降りてる
「つまり、ある程度ノルマとして設定された戦闘数が終わらなければ絶対に神器は見つからない仕様になっていると」
「その可能性が高いです
だから、この前哨戦で最短で勝つ方法は異能力者を狩りまくって地図を更新することだと僕は考えています。
ですが、正面から五校がまともにぶつかれば一番強い高校は」
その先の答えを雪峰が思わず口にした。
「・・・紅陽」
「そうですね
学校全体の総戦力なら残念ながらやはり一番強いのは則武さんです
このまま五校の生徒が潰しあいを続ければ明日か明後日には、ごり押しで則武さんが勝つ可能性が高い
今日の時点でヘッズもまだ大部分は倒されていないという噂ですし神器を見つける駒はまだたくさん残っています」
立花はここまで言うと、大きな目を細めて小さく笑い一呼吸おいてから一段と低い声で話を続けた。
「・・・そこで、最初の話に戻るわけですけど
この前哨戦に勝つために僕たち白夜と協力しませんか」
「・・・具体的にはどういった風に協力するの」
数秒間をおいて雪峰は表情一つ変えず肯定も否定もせず、ただ質問で返した。
「・・・他の学校の裏をかくために少々手荒なやり方をとらせてもらうので、雪峰会長がこの提案にYESといわなければ今はまだ話すことができないです
ただ、この同盟で青月が不利になることはないですし、お互いにとってwin-winなやり方というのことは約束します」
「・・・いきなりそんなことを言われて信用できると思っているのか」
思わず口をはさんでしまった。
立花は自信満々で語っているが、いきなり来て話をした人間をすぐに信頼しろなんて到底無理な話だ
おまけに此奴の薄っぺらい笑顔としゃべり方はどうも鼻につく。
「信用できないと思うのであれば今回の話がなかったことになるだけです
白夜と青月が協力関係を築くということは別に義務ではないので」
俺に一瞥してまるでそれでもかまわないといった調子で立花は話し続ける。
あくまで余裕の態度が崩れることはなさそうだった。
尚更腹立つ。
「柊の言う通り完全に信用は今の段階ではできないわね
・・・いくつか質問をすることは可能なの」
「勿論
ただ、答えることができない質問は申し訳ないですがお答えできませんが」
余裕綽々の立花に対して雪峰も淡々と会話を続ける。
雪峰は雪峰でこういう場には慣れているのだろうか。
いつもの薄めた微笑みぐらいの笑顔の雪峰は立花と同じくらいに底が見えない奥の深さを感じた。
「そう・・・
ならまず一つ目、さっき前哨戦のシステムについて五校評議会やラボの思惑を推察していたけど
こんな風に五校の生徒同士が協力することに五校評議会やラボは否定的なのにどうして協力関係を持ちかけたの」
「それ以上に勝ちたいからですよ
それにあの令達は別に守らなかったとしても特に罰則はありませんし」
「・・・どうして五校同士は極力しちゃダメなんだ?」
「単純な話です
協力されてしまえば生徒同士で戦う機会が減りかねないからです
実際、各生徒会には秘密裏に五校評議会からそのような令達がありました、他校とはあまり協力関係を築くなとね
だからできるかぎり不穏な動きだとラボに悟られないように此処に来ました」
立花の言葉で、中学の頃、則武さんが言っていた話を思い出した。
五校評議会は、この五校という制度を舞台装置にして生徒たちの対立を煽ってるみたいなことを言っていたような気がする。
だとしたら、相当胸糞わるいなこの制度。
「単身で来たのもそれの一種か」
「ええ
白夜と青月の生徒会長と秘密裏に会談しているなんて主催者側にばれたらそれこそまずい
前哨戦というシステムの裏をかくような作戦をとろうとしてることも絶対に悟られてはなりませんし」
いいながら立花は俺たちに左手の手首を見せた。
本来異能力者がつけなければならないスマートウォッチが立花の手首にはなかった。
「スマートウォッチがない・・・」
「・・・もともと戦闘に参加していないってことね
GPS対策でそうしているのね」
「さっきも言ったように僕はA判定・・・といえどその能力は精神系で戦闘向きではない。
いくらデバイスが扱えるといっても大した戦力ではないし、寧ろ僕が前線にでるのはポイント狙いのターゲットにされてしまう
そもそもスマートウォッチを持っているとGPSで居場所が悟られてしまうから自由にも動けないしデメリットのほうが大きい
だから今回前哨戦がはじまって早々に放棄したんです
更にいえばに、クローサーももとから細工をして外しています
だから、僕の行動をGPSで補足することはラボは出来ないし此処来たこともラボには分からない」
陸斗といい立花といいA判定はどうやらクローサーをつけないというのがトレンドらしい
俺もそういう意味ではトレンドを追っているな・・・なんて自虐を言ってる場合じゃないか
「異能力を戦闘に使うことは早々に放棄したってわけね」
「ですね、"異能力者としての前哨戦"を僕はもう既に降りてる
だからGPSを付ける義務もないしタブレットも位置を特定されないために持ってきていません
勿論その代わり、この前哨戦で他校への異能による介入は出来なくなくなりましたが
ああそれと、一応釘を刺しておきますけど僕が単身でここにきているからといって僕を襲っても先ほど申し上げたようにそもそも前哨戦には何のプラスにもならないし無駄なので
まあそもそも、A判定の僕を雪峰さんが倒すのはほぼ不可能に近いと思いますが」
最後の一言を少し強調して立花が話した。
一瞬だけ、雪峰の雰囲気がピリついたような気がした。
こいつ、もしかして雪峰の秘密を知っているのか。
・・・なるほど
単身で青月に乗り込んで今、この場で白夜の会長が倒されるなんて間抜けなこと起こせないもんな
雪峰にその力がないってことを知ったうえで此処に来たってわけか
ちゃんと予防線を何十も張ってここにきている。
やはり五校の会長なだけあって只者ではなさそうだな。





