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ハイスクールコンプレックス  作者: 折原
前哨戦篇
48/82

白夜と青月で協力して乗り越えませんか


「会長の雪峰紗希です。副会長の西條は取り込んでいて今回は同席できないわ」


「2年の柊です・・・」


「柊?もしかして柊想というのは、君ですか?」


俺が名乗った途端、立花の長い睫を湛えた目が3割ほど見開いたのを俺は見逃さなかった。


「ああ、そうだけど

そうだったらなにかあるんですか」


「・・・いえ

特に何かあるわけではないので気にしないでください」


また俺が名乗った途端に少し反応されてしまった。

新城といい立花といい俺に一体何があるっていうんだ。

変な噂でもたてられているのだろうか



「それで早速本題に入りたいのですが

・・・端的に言えば、この前哨戦を白夜と青月で協力して乗り越えませんか、ということを提案しに来ました」


俺のもやもやなど関係なく、早速立花はわざわざ此処に来た目的を話始めた。


「協力・・・」


「どういう意味だ?」


「・・・もう察しているかもしれませんが、この前哨戦というイベントは恐らく虱潰しに探し回っても神器を見つけることは出来ないように設計されている」


「神器?」


「所謂、”お宝”のことですよ。

五校評議会の資料では前哨戦で、見つける宝のことを神器と呼称されていたんです

どういう意味を指すのかはわかりませんが」


「そうなのか」


「想に見せていない資料でね、そういう記述は確かにあったわ」


神器、俺たちが前哨戦の説明を受けるときにはそんな単語一度も聞かなかった。

神器とお宝ではニュアンスが変わる気がするが、まあ話が進まないしここで突っ込むのはやめておこうか。



「・・・話を戻しますが、表立ってはこの”前哨戦”は御天のどこかに隠された神器を探すゲームということになっている。

ただ、このようなルールで前哨戦を開催した本当の理由は恐らく異能を持っていない生徒を表向き排除できないからです

五校評議会やラボにとってこのゲームの本質は、異能力者同士の競争と衝突に伴うデータ収集のはず

であるのなら、ただの宝探しをいくらやっても恐らくこの戦いには勝てない」



「どういう意味だ?」


にしても、この立花という男、やけに芝居がかった口ぶりをする奴だな。

どこまで本気か知らないけどあまり信頼のおけなさそうな男だということはこの数分で下した俺の評価だった。


「このゲームの本質は生徒同士の戦闘データ収集や新しく作ったデバイスのテストです。

だから、スマートウォッチをつけてお互いに戦いあうようなゲーム設計にした

ですが、もしも前哨戦が始まってすぐにE判定バニラが神器を見つけてしまえばその目的は果たせなくなってしまう

であるなら、主催者である五校評議会やラボはある程度のデータがたまるまで神器の存在が表に出ないように工夫するだろう、ということです

そして前哨戦の開催期間は五校評議会の想定では2日から3日の予定だった」


「つまり、まだ初日である今日の現段階では、E判定がいくら外で探しても神器を見つけることはなかった、と考えているってこと?」


雪峰の返事に立花は小さく頷き、腕を組みながら答えた。



「・・・その通りです。流石は青月の会長

神器の正体はE判定バニラでも異能が出せるようになる新型デバイス、なんて噂も出回っているらしいがそれも嘘でしょう

そんなデバイスを作れたならもっと大々的にバニラを集めて試すでしょうから

神器の正体はさておき

バニラが神器を見つけるのは、異能力者同士の潰し合いが過酷すぎてまとも前哨戦というゲームが成り立たなくなったような場合だと考えています

そのようなときのプランB的存在が彼らのはず

そうでなければ戦闘を繰り返させ、異能力者に神器を見つけさせようとするのが自然だ」



「・・・えらく推論で語っているが、なにか根拠があるのか」



よくしゃべるやつだが、それに伴った根拠はまだ立花は何一つ示していなかった。

論より証拠、何かお前の考えが正しいことを示すものを提示したらどうなんだ。

そういう気持ちでの発言だということを立花は瞬時に察したのだろう。

白夜指定の通学カバンからタブレットを取り出した。

前哨戦でラボが全生徒に配布したものとは違う形状のタブレットだ。



「そういわれると思いましたよ、このタブレットを見てください

これはすべての生徒が前哨戦の期間中に持っているタブレットのGPSの移動履歴を一目で見れるようにしたものです」


立花がみせてきたタブレットには御天の地図が入っており

その地図の大部分が五校それぞれの色が塗りつぶされていた。

この塗りつぶされた範囲が捜索済の箇所なのだろう。


「どうやってこんなものを」


「白夜の生徒に電子機器操作の異能力者がいまして

その生徒に協力してもらいました

ラボのサーバに逆アクセスを仕掛けることで情報を抜き取ったんです」


「色が塗られている箇所は既にその学校の生徒が通った箇所ということか?」


「そのとおり

うちの学校の生徒だけでも事前に割り当てを決めて、今日一日だけで御天全体のうち市街地については7割をすでにタブレットの地図機能を使って探し回っている。

他校もそれぞれ自分の学校の近くを中心に場所を割り当てて地図の更新は行っているようですから、既に御天の市街部のほぼすべては地図アプリを使うことで誰かが探し終えた後です

それでも今のところ宝探しに進展はない」


「・・・より遠方にある可能性はないのか」


市街地ではなく、例えばうちの学校の裏山とかに隠してあるのなら、まだ誰も探していないから見つからないということへも合理的な説明がつくのではないか

そう思った故の質問だったが、立花のリアクションは芳しくなかった。


「あるかもしれないが、さっきの趣旨に反します

市街地から離れた場所に神器を置けば見つかるまでの時間は伸びるがその代わり生徒同士のエンカウント率も下がるからデータの収集という面では間延びしてしまう

しかも、御天全域にこの前哨戦のために派遣している治安維持隊キーパーの守備範囲もできる限り小さくしたいはず

僕が主催者ならそのようなデメリットしかないことはしないでしょう」


そうかよ

なんかもう淡々と俺の答えに反論する立花の様子に若干イラついたがまあ、ここは我慢するしかない。

いつか何かの機会にやり返したい気持ちしかないけどな。

立花は協力しに来たとのことらしいが、プライベートではこんな芝居がかった話し方で鼻につくやつとは仲良くしたいとあまり思えなかった。

確かに賢いというのは認めるが。


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