見世物ではないので覗きのは辞めていただけますか
「おいこら、いつまで舐めてんだよ」
「す、すみません
ちょっとあまりにも柊の血がおいしすぎて」
「いや、何言ってんだよ
さらっと変態みたいなセリフ言ってんじゃねえよ」
俺の指摘を受けても西條はまだ俺の血の摂取を辞めようとしなかった。
徐々に密着している西條の身体が熱くなっていくのを感じる。
「はあー・・・ひぃらぎぃ・・・」
そのまま西條のしたいように暫くほっていたのだが
満足したのか西條はやっと顔を上げた。しかしやはりいつもと様子がおかしい。
どうも呂律が回っていない。
「え、あれ?西條さんどうしたの?」
「えへへ・・・」
「え、出来上がってんのか?
酔ってんのか」
紅潮した頬、潤んだ瞳、だらしなく空いた口元、眠そうな瞼、火照った体。
持ちうる知識を総動員した結果、俺が出した結論。
こいつ、酔ってやがる。
「・・・しゅみません、飲みすぎてしまいました~」
「は?どういうこと?」
いつの間にアルコールを摂取したんだ。
いやそもそもお前未成年だろ。なに酒飲んでんだ。
「あたしのいのぅ、ぃいわすれてたんですけどぉのみすぎるとよったみたいになっちゃぅんですぅ~」
「あーもう!おいこら、抱き着くな!」
それはしかたな・・・くはないわ・・・
酔ったせいで気分がよくなってしまったのか
周りに他校の生徒がいるのもお構いなしに俺に甘えてくるようになってしまった。
もう少し人の目があるのを気にしてくれ・・・副会長。
「あー・・・
想、わしはもう帰るぞ
お前と会ってるのを陸斗にバレたら殺されてしまう
兎に角!こないだ迷惑かけた借りは今回で帳消しだからな」
「おい!たつお!その前に助けてくれ!」
「ごゆっくり・・・」
必死に竜生を引き留めたが、竜生は後ろを向いて後ろ手に片手を振って帰ってしまった。
しかも異能まで発動させたらしい。
瞬きをした瞬間に視界から完全に消えてしまった。
この場に居づらくなったのは俺もそうなんだがな・・・
俺も帰りてーよ。
「そうー、もう少しだけ飲ませてくださいー・・・」
「いやもう飲むな
・・・てか、新城さんなんとかできませんか」
異能の発現した西條の怪力は想像以上で、彼女の腕から自分の身体を逃せる気配すらなかった。
さっきまでバチバチに対立していた敵だったが背に腹は代えられない。
竜生に見捨てられてしまった俺はこの場にいたもう一人のB判定様に助けを乞う羽目になってしまった・・・
西條に思い切り体を締め付けられ抜けられない現状から逃れるために紅陽の副会長に助けを求めてみたものの、案の定というかなんというか帰ってきた言葉は素っ気ないものだった。
「んーと、あたしも負けちゃったし、もうここにいても仕方ないし帰らせてもらうね・・・
まあ、このあたりって人気も少ないし好きなだけいちゃいちゃすればいいんじゃない?」
「すげー興味なさそうな顔でいうな・・・」
確かにここは高架下で人気も少ないし人に見られにく場所ではあるが、そういうことじゃないだろ。
しかもなんだよその心底どうでもいいみたいな顔。
一周回って腹立つ、こっちはほんとに困ってんのに。
「私の異能て、秒速で即帰宅できるから引きこもりに優しいんだよねぇ
負けちゃったからもう異能力者としてこの戦いには参加できないけど、移動にはまだ異能使えるみたいだから・・・」
言いながら新城は扉大の緋色の光を目の前に出現させた。
本気で帰るつもりらしい。
「じゃあ、さよなら・・・って文!?」
光の扉を作り、恐らく紅陽の生徒会室とこの場所を繋いだのだろう。
新城が生徒会室に帰る前に先に、則武さんがこっちへ来てしまったらしい。
「やっと帰ってきた・・・
千晴、一体どこで油を売って・・・てなにこれ」
西條が俺に抱き着いて体を締め付け更に血を吸おうとしているタイミングで則武が来てしまった。
俺たちを見つけて極寒の目線をこちらに寄こす。
「こんにちは・・・」
後ろで括られた深紅のストレート長髪、大きな目と整った鼻筋、小さな顔。
不機嫌そうな表情を含めて俺の知っている顔だ。
則武さんはこの状況を見てほんの一瞬は驚いたがすぐに元の表情に戻った。
「・・・何してるの」
「すげータイミングで入ったきたな」
西條が俺に抱き着いてるところなんかいきなり見せられたら、そら不快にもなるのかもななんて思ったし、則武になんて事情を説明するべきなのか思考を巡らせていたが
この邂逅で態度が急変した人間がもう一人いたらしい。
「う~~
則武さん、見世物ではないので覗きのは辞めていただけますか!」
さっきまでの呂律が回っていなかった西條はどこへやら
いきなり戦闘モードに入ったためか、則武さんを見つけて酔いがさめたのか知らないが
兎に角西條は俺に抱き着いたまま則武さんへ向かって大声で叫んでいた。
「・・・貴方の異能には血が必要なんでしたっけ
それで、柊君の血を吸っていたと
悪かったわね、取り込み中に入ってきてしまって」
いつもがマイナス20度くらいに冷めた目だとしたら
今日は則武さんの目は絶対零度なみに冷たい。
目があったら氷漬けにでもされてしまいそうな迫力があった。
「そうですよ早くいなくなってほしいです
柊は今はうちの生徒ですからね、柊の血でもあたしの異能は使えるんです。
羨ましいですか?」
西條は則武さんが来たおかげで中途半端に覚めてしまったらしい。
則武さんをここぞとばかりに挑発し続けた。
「西條・・・そこまで煽らなくても」
「・・・」
西條の言葉には一切返答することなくただ西條へ極寒の目線を向けるだけの無表情な則武さん。
沈黙が怖すぎる。
「昔は則武さんの大切な仲間だったのかもしれないですが、青月の生徒なんです柊は
だから、残念ですが今は私たちの仲間なんですよ?
これまでも、そしてこれからも柊は生徒会役員ではありませんが私たちにとってなくてはならない大切な・・・んー!!」
「おいこら、西條!
何、めちゃ煽ってんだ、また燃やされても知らないぞ」
いい加減辞めさせないとまずい
この状況で紅陽の会長が挑発に乗ったら、まともに戦えない状態の西條と無力な俺では一瞬で消し炭になってしまうだろう。
これ以上西條にように口に塞いだが、やはり怪力はまだ健在ですぐに振りほどかれてしまった。





