俺が西條に見えないのか?
西條と入れ替わった俺は西條の元居た場所に丸腰で立つ。
新城の攻撃を待っているが、そのほんの数秒が緊張で永遠のように長かった。
E判がB判に立ち向かうというだけでも厳しいのに攻撃されるの確定だなんて普段の俺なら絶対に断っているだろう。
それでも西條のためだと思えば自然にやりたいと心から思えてしまった、自分でも理由は分からなかったが。
そして、その瞬間は特に前触れもなくいきなりやってきた。
「やっぱさっきのあたしの攻撃が効いたの?
それともやっと観念してくれたのかな?
いままでより全然反応速度が遅いね!」
異能でワープしてきた新城は西條へ不意打ちをかましたつもりなのだろう。
西條の幻覚を見せられているということにも気がつかず俺に向かってサーベルを振ろうとしてる。
―――かかった。
「これでぇ!どうだぁ!・・・え?」
俺は振り下ろそうとした新城のサーベルの刀身を左手で咄嗟に掴んだ。
西條の背後をとったつもりで、何が起きたのか理解できていない新城は戸惑った顔を浮かべる。
「どうした?俺が西條に見えないのか?」
恐らく西條に背後からいきなり切りつけたつもりだったのだろ
それがいきなり俺みたいな男に変わったらそりゃそんなビビって強張った顔するわな。
いい顔じゃん、加虐心が煽られる。
思わず笑みが零れる。
「え!柊君!?
い、一体どうして!??」
何が起きたのか全く理解できていない顔をしている。
やっと新城のこんな驚いた顔が見れたな。
裏をかけて良かった。
「西條!いまだ!」
サーベルを握ったまま俺は叫んだ。
新城は今の状況に頭が追いつかず放心状態、千載一遇の大チャンスだ。
「はあああああああああっ!!!」
高架線の線路の天井に隠れていた西條の空からの一撃が新城を背中から思い切り貫いた。
「・・・っ!!!!」
新城の声にならない。息遣いが聞こえる・・・
と、同時に俺が握っていたサーベルが跡形もなく消え、新城の左腕に巻かれたスマートウォッチの画面が真っ赤に染まった。
「勝った・・・はぁ」
気が抜け思わず。気の抜けた大きなため息をしてしまった。
緊張の糸が完全に切れてしまった。
「私たちの勝利です!」
「どっ、どういう!?
一体何をしたの?」
「別に西條1人で戦ってるとは一言も言ってなかったし
俺と西條の2人で戦ってるとも言わなかっただろ?」
「それって!?まさか!?」
「・・・はあ、これでチャラじゃぞ、想」
「助かった、ありがとな」
「えー!!ほかにもいたの!?・・・しかも・・・誰?」
戦闘が完全に終結したと竜生も判断したらしく、ようやく姿を現した。
想定外の展開に新城もまだ理解が追いついてはいないようだがそれでも何となくはこの状況を察したらしい。
新城は何かを諦めたかのように大きく空を仰いだ。
「竜生は中学時代の部活のチームメイトでな」
「誰でもいいじゃろ、とりあえずこれでこの間の借りは返したぞ
それから何度も言うが、竜生じゃなくて竜生」
「いや誰だか全然情報が入ってこないんだけど
・・・にしても、不意打ちはずるいよお」
「別に一対一で戦うとは一言も言ってなかっただろ」
竜生は今回初めて合流したから、今まで俺たちと一緒に行動したという目撃情報はないだろうしそりゃあ予想外だろうな。
しかも異能で自分の姿を隠せると来たもんだ。
伏兵としてはこれ以上ないチョイスをできたな、なんて我ながら自画自賛してしまいそうなるな。
「・・・いやまあそうなんだけどさあ
くっそお、悔しい~」
「想!左手から血が出てます」
「まあ、剣型のデバイスを素手で握ったからそりゃ血は出るだろうな」
久々にうまく自分の予想通りに事が運んだからかアドレナリンが出まくっていたので自分でもケガには全く気が付いていなかった。
サーベルを思い切り素手で触ったのだからそりゃケガもするか。
左手を改めてみてみると赤い線がきれいに一本入って、その周りで血が滲んでいた。
そして脳が自分の手が怪我をしたことを認識したせいか、急にズキズキと鼓動に合わせて痛みが走った。
「血を止めないと、ちょっと手を貸してください」
「ああ、て、おい何してんだよ」
ハンカチかティッシュで血をぬぐってくれるのかと思ったのだが・・・
俺の右手を両手でつかんだ西條は血の出た手のひらの傷をぺろぺろと舐めていた。
いやいや、何やってんだよ!
「すみません、ちょっとおいしそうでつい・・・」
「いや、どんな理由だよ」
「さっきの戦闘でちょっと疲れてしまって・・・
実はあたしの異能は血を飲めば回復も早いので
その・・・血が出てるついでに、もしよかったら血をもう少し分けてもらえないですか」
何かよくわからないけど、疲れすぎて我慢できなかった的な。
運動してへとへとになった後は水がすごい飲みたくなるみたいな感じなのだろうか。
「え?そうなのか全然いいけど」
さっきの戦闘で西條も相当消耗しただろうし少しでも役に立てれば
そう思った俺は他の人がいる前で結構恥ずかしかったが西條に噛みつかれることを許可してしまった。
「ありがとうございます!
じゃあ遠慮なく!」
「おい!がっつくなよ・・・」
俺の許可が出た瞬間、大型犬が抱き着くような勢いで西條が俺に突進してきた。
西條は異能力を解除していないので力の差は歴然。俺は抵抗できず完全に押し倒される格好になる。
「ふあーい」
「いっつ・・・がっつくなって言ってんのに」
よっぽど血が必要だったのかそのまま西條は俺のワイシャツのボタンを外すと俺に断りを入れることもなくそのまま噛みついて血を舐め始めた。
しかし、いつもなら十数秒で終わるはずのその動作がいつまでたっても終わらない。
西條は俺の腕を掴んだまま俺の肩から自分の口を離そうとしなかった。





