降参するのなら今のうちだよ?
ドームに閉じ込められ苦しんでいる西條をぼんやりした目で眺めながら新城は今度は40センチ四方の四角形の異能の幕を作り出して両手を突っ込む。
ごそごそと漁る素振りを見せるが何かを掴んでにやりと笑った。
「さっきは四方八方に爆風が飛んで行っちゃうから使えなかったけど・・・
今度は気にしなくていいよね」
「おいおいなんだそれ」
新城が手にしていたのはバスケットボールサイズのボム型デバイスだった。
「さっきのボム型デバイスの5乗は威力があるよ・・・」
再び新城はそのボムから手を放す。
重力に逆らわず地面にボムが触れる直前、赤い幕が地面に出現しバスケットボール大のボムを包み込むと、地面を通り抜けるようにボムは消えていき気が付けばドームの中に瞬間移動していた。
「降参するのなら今のうちだよ?
そのボムはかなり強烈だよけどいいの?」
「答えはノーしかないです!
「そっか、じゃあ・・・ばいばい」
次の瞬間、ボムが強烈な閃光に包まれた。
まるで数個の雷が同時に落ちたみたいな音が遅れてやってくる。
「・・・」
「西條!!!」
こちらには爆風も熱も爆弾の威力が伝わる感覚はなにもやってこない。
ただ、爆発音とその光そして舞い上がった土煙を見るだけでもすさまじい威力は十分に察することができた。
まじかよ
いよいよ死んでもおかしくないぞ。
「けほけほ・・・」
とんでもない爆発だったがそれでもどうやら西條は耐えきってみせたようだ。
青白いシールドをできるかぎり多く展開したのだろう。
それでもいよいよ限界が近づいているのは素人目で見ても明白だった。
そろそろどうにかしないと、やられるのは時間の問題だろう。
「竜生・・・」
「なんじゃ」
新城に悟られないよう小声で会話する。
「西條をどうにかして助けないと」
「どうやってじゃ・・・?
ここまでを見る感じ、わしにはさっぱり思いつかんぞ」
「俺に考えがある・・・」
「耐えたんだーほんとすごい強さだね
でもこれで、とどめだよ!」
新城は再びバスケットボール大の爆弾を異能で取り出して、手を放す。
地面に出現した紅い四角形を通過して、再び爆弾はドームのなかへ入ってしまう。
「西條!地面を使え!」
「!?」
先ほどの爆発のダメージもまだ完全に回復していないの続いて二発目の爆発。
煙が充満し、また西條の姿は見えなくなっていた。
「やっと倒せたかなー・・・
え!?」
「・・・・・・」
そりゃさすがの新城も驚くだろう。
自分の異能で捉えたはずの西條がドームの外に脱走していたなら。
この西條は当然本物ではない。
竜生が異能で自分の姿を西條に変えたのだ。
土煙でドームの中の西條の姿が見えなくなっている今がチャンスだ。
西條(竜生)はそのまま無口で剣型デバイスを起動させ、新城の元へ斬りかかった。
咄嗟のことで硬直していた新城だったが、西條(竜生)の攻撃から逃れるため再び自身の身体を光の壁の中に隠した。
と、同時に
キャパ的に限界だったのだろう、西條を取り巻くドームの包囲が解かれた。
ここまで読み通りだ。
奴の異能にはキャパがあると自分で言っていたからな。
竜生の攻撃を避けるために自分を移動することに異能のキャパを割けば当然ドームを維持できなくなる。
狙いどおり、新城が消えると同時にドームも崩れていった。
「竜生!」
「はいはい、任せておれ」
そしてもう一つ俺が目をつけたのが、新城が異能でこの場から消える一瞬の隙だ。
恐らく自分がこの場に消えてしまう以上、この一瞬だけ新城はこちらの様子を伺うことができない。
この隙を利用しない手はないだろう。
竜生はどうやら指示通り異能を使ってくれたみたいだ。
「けほけほ・・・」
「おい、大丈夫か」
ドーム型の壁がなくなったことで俺はようやく西條に近づくことができた。
急いで西條を抱きかかえると、俺は高架下の柱の裏に連れて行った。
「はいなんとか
・・・柊に地面て言われて、爆発の寸前に地面を殴ってくぼみを作り、シールドを張りながらその中に隠れたので・・・
でもあたしに近づいたら・・・」
「大丈夫、竜生の異能で今は俺たちの姿を隠してくれているからな
これからちょっと作戦を話すな」
「はい・・・」
あんな爆発を二発も食らって無事なわけないわな
西條にはしばらく此処で休んで体力を回復してもらわねーと。
竜生にはもう暫く西條の振りをしてもらう。
奴もB判定の異能力者だ、西條ほどではないにせよデバイスは扱い放題だ。
しばらく時間は稼いでくれるはずだ。
「どうやって抜け出したの?正直驚いたよ」
竜生の攻撃を避け、別の場所に再登場した新城が西條(竜生)に話しかける。
「・・・」
西條(竜生)は答えない。いや、答えられない。
当たり前のことだが奴の異能は視覚はいじれても、聴覚は操作できない。
野太い声をだしたら一発でバレてしまうからな。
返事の代わりに竜生は銃型デバイスを起動させて、新城へ打ち込む。
いつものように赤い壁を発生させて弾丸を吸収する新城。
全くダメージは与えられていないが時間稼ぎにはちょうど良かった。
「・・・西條、今の案でどうだ?」
「分かりました!やってみます!
任せてください!」
「・・・」
西條(竜生)は銃撃を一通りやめると、再び走って新城の元へ向かい日本刀デバイスを立ち上げる。
「何度同じことを繰り返してもあたしは倒せないよ!」
「・・・」
攻撃が新城へ触れる直前、またも鬼ごっこのように新城はまた異能で一瞬姿を消す。
しかし、それはこちらの思う壺だ。
竜生は俺の作戦を忠実に遂行してくれる。
感謝しかないな。
また新城がこの場から消えてくれたおかげで再び一瞬の隙が生まれる。
「・・・あとは任せたぞ、西條さん、想」
「ありがとうございます。」
「ありがと、竜生」
「・・・っと
まったく懲りないねー、何度やっても無駄なのに
あたしには触れることすらできないよ」
竜生と本物の西條が入れ替わったのち再び距離をおいて新城が出現する。
新城はどうやら自分が消えていた間に西條が入れ替わっていたなんて全く気付いていないようだ。
「あの程度の攻撃ではあたしは倒れないですよ!
あたしの身体能力では虫刺されぐらいの痛みしかないです」
「うげぇ、まじか
あのボムを1回食らって倒れなかった人なんていないし、2回食らってもまだピンピンしてるなんてありえないよー
どんだけ、フィジカルエリートなのよ」
「瞬時に地面を抉って防空壕のようにし、頭上にシールドを展開することでやり過ごしました!
この程度であたしが倒されると思ったら大間違いですよ!
あたしを倒したいのならあんな遠くから攻撃するのではなく直接近距離でないと無理ですよ!」
「これでも倒せない・・・となると、仕方ない
そっかー、やっぱりこうするしかないかー」
再び赤い刀身のサーベル型デバイスを起動させた新城。
「シールドと体の強さが硬すぎるのなら
直接西條さんの身体を斬るしかないのかー」
「望むところです!」
サーベルの刀身と西條を交互に眺めた新城は、再び薄赤い光の壁の中に消える。
また死角から西條を攻撃する気なのだろう。
「いまだ!竜生」
「おっけーじゃ・・・」
そして、ここまで完全に俺の読み通りだ。
後は最後の一手を決めるだけ。
俺は竜生に異能を発動してもらうと西條の元へ走り出す、西條も俺の方へまっすぐ走った。
俺たちはすれ違い立ち位置を交換させた。





