ただのE判(バニラ)だ、紅陽の副会長さん
「ありがとうございますね、じゃあこれで・・・」
「にしても、こないだみたいに犬たちに匂いか何かで宝さがしできないもんかね」
異能狩りのときに助太刀に来てくれたわんこたちならどうにかしてお宝を見つけてくれないだろうか、なんて思ったりもしてしまう。
犬の嗅覚て尋常ではないらしいし。
「そもそもお宝がどんな匂いするのか分からないんなら探しようがないのではないですか?」
「それもそうか・・・」
「柊はそうやってすぐ楽をしようとしますよね
悪い癖ですよ!」
「はいはい、悪かったよ」
「ならいいですけど、じゃあいきますね
篠崎さん、お願いします!」
「おっけい
じゃあ、西條さんが奴らの目の前に行った瞬間に異能を切って姿を現させるぞ」
「はい!」
返事をした西條はすぐに早歩きで紅陽の生徒へ向けて小走りに向かった。
俺には切り替わりが全く分からなかったが
紅陽の生徒のリアクションが変わったのをみて西條が認識できる存在になったのだということを察する。
「!?
なんだこいつ!?」
「い、いつからここにいた!」
「青月の副会長か!」
「・・・問答無用です!」
やはり決着は一瞬だった。
紅陽のなかでもヘッズのような強力な異能力者ではなく、西條の足元にも及ばない連中だったようだ。
まあ元から大した実力もないから集団で群れていたのだろう。
いつものように日本刀型デバイスを起動させた西條は、紅陽の生徒へ斬りかかる。
紅陽の生徒も咄嗟に刀型デバイスで応戦したが、実力差は如何ともしがたいようだ。
「流石はうちのエース様だよな
今日一日で何人合計狩ったんだろうな」
紅陽の生徒たちのスマートウォッチが赤く点灯しているのを確認して俺も西条の元に駆け寄った。
「想もたくさん勉強して早くここまで来てください」
「なれたころには時間かかりすぎて高2は終わってるだろうな・・・」
「おい!想!あれ見てみろ!」
俺たちの狙い通り、倒された紅陽の生徒が助けを呼んだのだろう。
さっきまで何もなかった空間に突如として光の扉が姿を現した・・・
瞬時についにきたか、と察する。
「たつお、お前は異能で姿を隠したままにしてくれないか?
俺と西條は異能で隠さなくていいから。」
「元からそうするつもりじゃ、あまり青月と一緒にいるのは見られたくないからな」
「はいはい・・・」
光の扉からゆっくりと姿を現したのは、あの日見た、スタイルのいい短い茶髪の女の子だった。
「新城さん・・・」
「あー、やられちゃったんだね、どんまいどんまい
とりあえずいったんみんな紅陽に帰りなー、ここに残ってても仕方ないし
って、西條さんだ久しぶりー・・・」
西條にやられた紅陽の生徒たちが新城へ泣きついている。
大きな目に前下がりのボブ、それに細い手足。
薄い赤色で光る光の壁から出てきた新城は快活そうな見た目とは裏腹にギャップのある緩い感じの挨拶で登場した。
「お久しぶりです。
・・・聞くところによると、あたしを探してたらしいですね
良かったですね、やっと見つけることができて」
「そう・・・だね、文に頼まれてねー
とあと、そこにいるのは」
竜生は自身の異能で姿を隠しているから見えないはずだ。
だから、今見えているのは俺と西條だけのはず。
「ただのE判だ、紅陽の副会長さん」
俺だけ返事をする。
どうせ、ここまで西條と二人で行動をしてきたのは他の人にも見られているはず。
なら今更俺が姿を隠して新城に違和感を与えるぐらいなら、ここで西條と一緒に俺も姿を見せておくことにした。
西条の姿を一旦消して新城に不意打ちをかますというのも考えたが
ここで全員また姿をくらまして再び姿を現すところを見られれば、紅陽の生徒経由で新城に竜生の異能のことがバレてしまうからな。
最後の切り札として竜生の異能のことは極力バレないようにしておきたかった。
「もちろん知ってるよー、噂の柊想君だよね。
あたしは新城 千晴っていいますよろしくねー
西條さんとは前に、五校評議会で五校の生徒会役員が集められたときに会ったことあったよね・・・」
”噂の”って一体、紅陽でどんな噂されてんだよ俺。
だいぶ気になるから詳しく教えてもらいたいんですけど。
「ですね
あの時のことはあまりいい思い出ではないですけど」
「で、しかもその次に会ったのがあの始業式の日だもんね
いや、あれはやりすぎだったよねー
文も反省してたよ?」
「則武さんが反省してようがいまいがどうでもいいです
あたしの目標は前哨戦に勝って紗希に喜んでもらうこと
そのためには貴方を倒します」
言いながら西條は、ナイフ型デバイスを起動させる。
西條が臨戦態勢に入ったことで新城も今までのゆるい空気を一変させた。
「・・・辛辣だなあ、完全に文のせいで嫌われちゃってるよ
まあいいや
今此処で西條さんを倒してしまえば青月もほぼ終わりでしょ!
あ、あと危ないから柊君は離れておいたほうがいいよ~」
「・・・言われなくてもそうする」
参戦したいのはやまやまだが如何せん実力がついてこないからな。
不本意ながらいつも通り俺は西條の数メートル後方まで後ずさった。
気配を完全に消してるが恐らく竜生も俺と一緒に動いているだろう。
「・・・じゃあ行きますね!」
西條は起動させていたナイフ型デバイスを新城へ投げつける。
更に投げ終わるととともに再びもう一つナイフ型デバイスを起動させて別角度でもう一本投げた。
常人の反射神経では避けるのも一苦労な速度の攻撃だ。
「・・・ふーん」
しかし、新城は退屈そうな表情一つ変えず、避けるような気配すらしない。
そのまま1秒もしないうちに2本のナイフは新城の顔面と胸に到達するだろう。
そう思った刹那、薄い赤い色の光の壁がナイフの到達予定場所にピンポイントで出現し、ナイフを吸収してしまった。
「くっ・・・!」
「異能を防御代わりに使っているのですか」
「まあねー
この異能が攻撃を吸収してしまえば、あたしはノーダメージだからね」