くれぐれも「潰れちゃ」だめよ?
「そ、それでは・・・そうですけど・・・で
こ、これもこの前哨戦に勝つために仕方ないことですよね・・・」
「い、いや、なんで若干乗り気なんだよ・・・」
顔を赤面させつつジロジロと俺の顔を見る西條は、恥ずかしいそうにしているというよりかはどこか喜んでいるように見えるのは俺の大いなる勘違いのせいなのだろうか。
「だってそれはその、力を発揮するためには血が必要なんですからしかたないじゃないですか!!」
「いや、そんな逆ギレしなくてもいいじゃん・・・」
「まあまあ、お互いそんな照れなくていいから
そろそろホームルームが始まる時間だしいきましょ」
いつものニコニコ顔で雪峰に宥められたがなんだかそれは違う気がする。
「別に照れてねーよ
まあとりあえずいったん教室戻るか、雪峰とはこれでお別れだな」
「うん
がんばってきて
あ、それと千織」
「なんですか?」
「私は今回はついていけないけど、くれぐれも「潰れちゃ」だめよ?」
「勿論!当たり前ですよ!
大丈夫です!」
雪峰の意味深な一言に何となく引っかかったが
ホームルームで注意事項を聞いた俺たちはいよいよ宝探しに向け街へ解き放たれることとなった。
雪峰の指示で基本的にクラスごとに捜索範囲を地区でわけそれぞれの地区でお宝を探すようにしているが一部の強力な異能力者は全体を見ている雪峰の指示で柔軟に地区をまたいで行動できるようになっている。
勿論、西條もその一人で、今回俺はその付き添い&献血係というわけだ。
まずは雪峰の指示で人の多い駅前方面へ歩を進めた。
「まずはこの地図を少しでも広げるように雪峰から指示を受けたな」
ラボから支給されたタブレットの中に入っている地図アプリを見てみると
やはり当初の説明通り多くの部分に靄がかかっており宝さがしどころか地図としても全く役に立ちそうにない状態だ。
早く他校の異能力者を少しでも多く倒してこの地図にかかった靄を少しでも取り除きたいところだ。
「そのためにはより多くの他校の異能力者を倒すしかないですね!」
「うちのエースの出番だな、西條」
雪峰の要望も西條にはできるだけ多くの他校の異能力者を「狩る」ことだった。
そして、索敵範囲が広がった地図を他の生徒でしらみつぶしに探す作戦というわけだ。
「任せてください!
前哨戦期間中はクローサーも一斉操作で異能力制限が緩くなっているらしいですしね
暴れますよ!」
それにしても平日の日中に街中をうろうろできるってなんだか気持ちがいいな。
合法でサボってる気分だ。
気温もぽかぽかして温かいしいい気分でお散歩してる感じすらある。
E判定の俺は異能力者と戦ったりすることもないしある意味気楽なもんだからな。
そんな感じで呑気に市街地を西條と歩いていたのだが、平穏な時間はすぐに終わりを告げた。
「・・・おい、あれ見ろ!」
「なんか写真でみたことある顔だ・・・まさか」
「青月の副会長か」
「こいつを倒せば一気に宝探し有利になるぞ!」
道端にたむろしていた集団が西條を見つける臨戦態勢をとってきた。
どうやら制服のブレザーを見る限り黄輝の生徒のようだ。
そして彼らの手には刀型デバイス、つまり俺の仲間(無能力者)ではなく異能力者のようだった。
「・・・なんかバレたみたいだぞ
流石、有名人だな西條」
「ここ最近ラボに入り浸って色んな学校の生徒に見られる機会が多かったのもあってそれなり知名度上がったのかもですね
それでも、今はこの人たちも敵です!
柊!早速で申し訳ないですけど・・・」
「はいはい、じゃあいいぞ」
どうやら避けては通れないらしい。
もう覚悟は決めたているが・・・
仕方ない。
俺はワイシャツのボタンを開けて、右肩をはだけさせ少ししゃがんだ。
「じゃあ、遠慮なくいきますね・・・いただきます・・・」
黄輝の生徒の前でこんなことするのは恥ずかしいけど仕方ない・・・
「っい、っつ」
肩口をつかまれ思いっきり噛まれた。
思ったより痛いな。
何度もされるのは勘弁してもらいたいかもしれない。肉体的な痛みもさることながら、こんな行為を見られるのは羞恥プレイをしてる気分で精神的にくるな。
よく毎回雪峰は耐えてるもんだよ。
何となく恥ずかしくて俺は黄輝の生徒の集団と目を合わせることができなかった。
「ふー・・・」
俺の血を口に少しつけたまま満面の笑みを浮かべる西條。
すぐに血を吸った効果が出たのか狼の耳としっぽが一気に出てきた。
準備万端か
「・・・いきますよ、柊」
「ぼちぼちな、最初からあんまり無理すんなよ?」
「はい!大丈夫です!・・・」
俺の言葉に返事をして
西條が思い切り地面を踏み込んだ瞬間までは覚えているがそのあとは一瞬すぎて目で追えなかった。
踏み込むと同時に青色の日本刀型デバイスを起動させた西條はそのまま黄輝の生徒たちに切りかかったらしく、気が付いたら彼ら全員を瞬殺で倒してしまった。
まさか五人倒すのに数秒すらかからないとは。
「え・・・」
「嘘、だろ・・・」
「・・・は?もう終わりなのかよ」
「お疲れ、西條、一瞬だったな」
「ふふ、そりゃここ最近ずっと鍛えてますからね!」
まさか一度も攻撃することなく負けるとも思っていなかったのだろう。
何が起きたのか理解できず、呆然としている黄輝の生徒の腕についているスマートウォッチはいづれも制御不能で一面赤色になっている。
前哨戦では異能力者同士の戦闘がメインイベントだが本気でぶつかり合ってしまえば怪我人が続出してしまう。
そのような事態を避けるため前哨戦ではラボの提供で地図の入ったタブレットとともに異能力者にはスマートウォッチが支給され、前哨戦中は腕に巻いておくことが義務つけられている。
スマートウォッチは装着者のバイタルを計測しており
装着者に一定のダメージが蓄積されると戦闘不能であることが分かるように真っ赤に点灯し、クローサーのような機能を果たし、敗れた対象者の異能力を強制的に使えなくなってしまうのものだった。
何が起きたのか理解できない時期を通りすぎ、徐々に西條と自分の圧倒的な実力差を認識し絶望したような顔になっていく黄輝の面々を横目に俺はタブレットを起動させた。
当初の説明通り、黄輝の生徒たちを倒したことで俺たちの地点から円形に靄が消えていく。
「お、だんだん地図の一部の靄が消えていくぞ」
西條も俺のタブレットをのぞき込んできた。
「ほんとですね!
そして、この靄の消えた地図データが他の青月の学生にも同期されるってわけですね!」
「この調子でどんどん行くか」
「はい!」