柊の血!!??
「雪峰は自分の気持ちを抑えるのがうまいから無意識のうちに感情とか気持ちを抑えさせすぎてるように思うんだよ
雪峰にとっての一番の目標は五校祭に勝つことであって、自分自身が他校の生徒会長に勝つことではないはずだ
それでも今の雪峰は自分の中の理想と自分を戦わせすぎてるんだよ
実際に戦ってもないのにどうせ則武さんには勝てないとか言ってさ
それで自分自身で自分を痛めつけてしまってる気がしてな」
雪峰は悪く言えば澄ましている、よく言えば微笑んでることが多いし感情が読めないことが今まで多かった。
でもそれは自然としてるわけではなくて恐らく意識的にそうしてるんだ。
多分、自分の不安な感情を悟られないために。
でも、誰に対してもそんな調子じゃ疲れてしまうから
「要は、自分で自分と戦いすぎ」
「・・・」
少し強い言葉を言ってしまったせいか何も言えなくてしまったようだ。
表情が陰ったのは確認した。でも、ここまで来たら伝えるしかない。
それで少しでもトラウマを減らせることができれば自体を好転させることができる。
特に根拠はないがそんな気がした。
「確かに今は則武さんは御天で最強なのかもしれないけど、それも俺は大丈夫だと思ってる」
「・・・どうしてそう思うの?」
「五校祭は別に生徒会長同士で戦って勝った学校が必ず勝つわけではないだろ
代表戦で勝てなくても総力戦で勝てばいいじゃねえか
西條含めて青月には優秀な奴多いんだから気負わなくても大丈夫だ
一応俺もいるしな、蟻並みの力しかないけど」
「・・・ありがと」
最近俺にこうやって雪峰が弱音吐いてくれるようになったのは凄い嬉しいし
愚痴ならいくらでも聞く。
少しでも雪峰の負担を減らしたい。
だから雪峰もそんなに自分で自分を追い詰めないでほしい。
俺の言いたいことはそれだけだ。
「ていうか、今回の前哨戦も俺たちがなんとかするから
雪峰は雪峰にできることをしてくれればいい
もし雪峰1人の力で勝てなくても
俺と西條でどうにかするから
それでも無理なら青月の優秀な他の生徒たちが何とかしてくれる
だからそんな気負わなくていいよ
結果、五校祭で勝てばいいんだよ
あいつら個人に雪峰一人で勝つ必要なんてねーよ」
「・・・うん」
「雪峰が自分のこと肯定できなかったとしても
それでも俺たちはずっと雪峰のこと肯定しているから
それから、こないだもらったデバイス」
「え?」
「こないだの異能狩りの時に雪峰がくれただろ?
位置情報を知らせるクルミ大の大きさのデバイス
あれまだ持ってるから、なんかもしあったら呼んで
すぐ行くから」
「そっか
ありがとう、想」
思ってたよりリアクションが薄かったような気もするけど
でも、潤んだ雪峰の瞳を見れば全く無意味なことではないということはすぐに分かった。
とりあえず自分の言いたいことは言えた。
後は少しでも雪峰のことを手助けするように行動で示すしかない、か
◆
6月某日、朝8時、快晴
俺は前哨戦当日の朝を生徒会室で迎えていた。
ここ最近は俺も生徒会準メンバーとして色々とできる範囲で前哨戦の準備の手伝いをしていたから、もはや滞在時間は家より学校のほうが遥かに長いだろう。
もう少し雪峰と二人きりの時間を楽しめるかと思っていたのに思いのほか忙しすぎてあまり満喫できなかったことが心残りだ。
朝のホームルーム前に3人で話したいという雪峰の希望でかつてのように俺たち三人は飲み物を飲みながら定位置に座ってくつろいでいた。
「いよいよ今日か
なんかなんやかんやで忙しくて気が付いたらあっという間だったな」
「ですねー
あたしは久しぶりに生徒会室に帰ってこれて嬉しいですけど」
西條は放課後はここ最近ずっとラボでトレーニング漬けだったもんな。
再会した西條は見違えるように逞しく・・・なっているわけもなく見た目はいつもの通り華奢で猫っ毛ロングの女の子のままだった。
「それで、雪峰は今日の宝探しには参加するのか
それとも此処にいるの?」
「今回の前哨戦、私はできる限り前線に出ないようにしようと思ってる
生徒会室(此処)で全体指示を出すつもりよ」
「あたしも今回はそれが一番いい気がします!」
「前哨戦のルールだと、前線に生徒会長たちは出にくいでしょうから、私にとっては都合がいいの」
「え、どうして前哨戦のルールだとそうなるんだ?」
「A判定異能力者は万が一倒されてしまうと、倒した人の所属する学校のタブレット上に表示されるの地図の靄を一気に消してしまうから標的にもされやすいしリスクも高いわ。
色々な人に狙われる可能性が高いとなると当然他校のA判定の人たちも慎重に動かざる得ないはずだし
A判定とA判定が偶然エンカウント、なんて最悪だわ。」
「で、おとなしくするだろうってことか」
「そう、A判定同士の潰し合いなんて極力したくないでしょうしね。
一応、これでも私は対外的にはA判定のフリをしてるわ。
だから私がここに引きこもっていることにそこまで違和感はないってわけ」
「だからある意味楽ってことね、なるほど
それなら待機が正解だな
無駄に動いて危険な目に会う必要もないだろ」
当日になっても雪峰が落ち着いているのはこれか。
今回は前線に出るつもりがあまりないから心中もそこまで荒れなくて済むのだろうな。
「噂だと今回の宝探しにおいて、そもそもA判定をもし倒したらほぼ一発で宝のありかが分かるレベルで地図の靄が消せるらしいわ
もしそうなら、尚更他校のA判定も大人しくしておくでしょうし」
「紗希とここ最近会えなかったし、前哨戦でも一緒に行動できないのは寂しいんですけど仕方ないですねー
ちなみに柊にも此処(生徒会室)にいてもらいますか?」
「ううん、今回は柊には千織と一緒にいてもらうわ」
「まじか、俺も前線にでるのか
役に立つかわからんぞ」
「・・・この間話した時には青月のために頑張るっていってくれたじゃない」
少し拗ねたような感じで雪峰がそう言った。
なんだかここ最近は他の人はともかく俺に対しては素直に感情を表現してくれる機会がますます増えたように感じる。
本当に本当に嬉しいことだ。
「それもそうだったな、すまん
がんばる、まじで」
「・・・ありがと
それに千織の異能にはどうしても信頼できる人の血が必要なの
そういう意味では柊の血なら千織も異能を発現できると思うから」
「え!?柊の血!!??
え、え、えっといいんですか!??」
「まじ!?」
「そんなに驚かなくても・・・
この学校の生徒で、私以外で可能性ありそうなのは柊ぐらいじゃない?
千織にとって信頼できる人って」