大人だってそんなもんよ
陸斗との邂逅から暫くたった穏やかなある日
いつものように生徒会室で勉強しているとそれは突然やってきた。
「大ニュース!大ニュースよ!」
生徒会室の扉を勢い良くあけて入ってくるなり大声を出してきたのは、俺の担任兼生徒会顧問兼数学教師だった。
高木先生。
いいところから先に言えば、顔も整っていて性格も割とあっけらかんとしていてノリのいいタイプだ。
しかも俺たちと年が近いから、友達感覚で付き合える教師としてそれなりに人気がある。
あと、いいところかは知らんが、私服みたいな服装で学校に来ている先生も多い中、頑なにパンツスタイルのスーツを毎日着てくる。
本人に以前どうしてスーツしか着ないのか尋ねたことがあったが、何着るか考えなくていいし楽だからとのこと。
数学教師だから合理主義なのだろうか。
今日もいつも通り黒のスーツで学校に来ていた。
「うるさいです、高木先生」
「相変わらず辛辣な千織ちゃんかわいいわあ
そして柊君、貴方ここ最近当たり前のように生徒会室にいるのね」
逆に悪いところをいえば、ノリがいいところの裏返しで生徒に対してかなり馴れ馴れしい接し方をする。
正直俺はあまり好きではない。
いくら美人教師だといってもたいして仲良くないものにいきなり近づいてこられるのは個人的には苦手だ。
西條にしては珍しい拒絶も高木はまったく気にしていないようだ。
顔にすぐ出るから分かりやすいが
どうやら西條も高木のノリの軽さは苦手なようだった。
「俺は二人に勉強を教えてもらってるだけですよ
他意はないです。そもそも生徒会役員でもないですし」
「あー、はいはい
思春期ねえ、青春ねえ、あーいいわあ羨ましい」
西條と雪峰と私が一緒にいるこの空間の邪魔するなと高木先生の目が語っている気がしたが無視することにした。
「いや、何想像してるのか知らないですけど割とガチで指導されてますからね」
にしてもなんでこんな変な先生が栄えある青月高校の生徒会の顧問やってんだろ。
「・・・私の千織ちゃんにもしも手を出したら許さないわよ」
「いやいや、人の話きいてますか
鬼教官ですからねこの子まじで」
かわいいらしくてふわふわした見た目とは裏腹に勉強のこととなるとほんとスパルタだからな
もう少し丸くなって欲しい気もする
今日だって生徒会室来てからもうずっと休憩なしで問題集と格闘し続けることを強要されてるし。
「そもそも私は高木のものでもないですしね・・」
「ついに千織ちゃんから呼び捨て!?
でも呼び捨てもいいわあ」
「はあ、なんでもいいですけど勉強の邪魔になるんで静かにしてください」
「申し訳ございません
・・・数学でなら微力ながら私もお役に立てますわよ」
「役に立つも何も貴方は数学教師ですよね」
西條のため息交じりの声が弱々しく部屋に響いた。
「それで高木先生、大ニュースて一体なんなの」
話が一向に進まないことに痺れを切らしたのか
雪峰が高木先生の方を向いて話を促した。
「あぁ、ごめん、ごめん
こんなプロレスしに来たわけではなくてね」
どうやらやっと本来の目的を思い出したらしい高木先生は持ってきていたファイルの中から一枚のA4用紙を俺たちに渡してきた。
「この紙をみて
まだ生徒に見せちゃダメだし口止めされてるんだけどこっそり持ってきちゃった」
生徒に見せちゃダメて言われてるものをすぐに見せにくるのもどうかと思ったが
そこに書いてあった通知分には以下の文字が印字されていた
「前・・・哨・・・戦・・・?なにそれ?」
どうやら雪峰もリアクションをみていると初耳のようだった。
無意識に右腕で左の二の腕を握っていた。
「ええ、今年は五家の関係者がすべての五校の代表を務めるとても特別な年でしょ?
だから、イベントごとが五校祭だけじゃ勿体ないてことで、その前に前哨戦ってイベントを新たに行うことが五校理事会で内定したらしいわ」
「へー」
この期に及んでまたイベントを増やすのか。
ボッチの俺としては勘弁してもらいたいところだが五校祭がここまで御天内外で注目されている年もないだろうし仕方ない流れなのだろうか
「でも、そんなことしてる余裕あるんですか?
普段の勉強ももちろんしながらですよね」
「授業スケジュール的にはない・・・わね
普段割と雑談多めだし」
「いや、雑談おおいのは高木のせいなのでは」
「柊君!まさかの呼び捨て!!
まあ、言われた感じ悪くはないけどさあ」
なんかもう色々イラついて我慢できずに先生をつい呼び捨てで読んでしまった。
後悔はしていない。
「先生方もこれ大変そうですね。これにかかる準備とか諸々ありそうですし」
目線はA4用紙から一切動かさないまま雪峰が言った。
どうやらまた何か色々と考えているようだ。
雪峰にとっても歓迎できるようなイベントではないだろうなこれは、恐らく。
「いや流石、紗希ちゃんよ!その通り
教育委員会もこのイベント大反対しているようだけど、おそらくいつも通り押し切られるでしょうね」
「いつも通り?なんですか」
うんざりといった表情をした高木は、そのまま部屋の中央に置かれたソファにどかっと座った。
本当、教師とは思えないほど気の抜けた態度だことで。
「教育委員会は基本的に生徒同士が異能を使って戦うなんていう危険な行為には一貫してあまりいい印象は持っていないわ
万が一生徒が異能のせいで怪我をしたときにマスコミや保護者から叩かれるのは私たち教師だから教育委員会は基本的に異能を使った生徒同士のいざこざは嫌うわけ
でも御天大学や研究所、そして五校評議会は逆だわ。
生徒同士が競い合うことでより強い異能力者が生まれるのであれば異能力を使った生徒同士の戦闘はデータも取れるし歓迎なわけ」
「立場によって全然変わるんだね
大学も高校も同じ教育機関なのに」
「大人だってそんなもんよ
私だって自分の担任のクラスの生徒が怪我でもされたら色々嫌だしね」